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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・末朝記 3

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    フォコの話、248話目。
    地獄の一幕。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     大火は一人、敵陣に乗り込んだ。



    「おい、お前!」
     真正面から、まったく忍びも隠れもせず。
    「そこで止ま」
     まず――。
    「れっ……」
     制止しようとした敵兵の首を、空中高くに弾き飛ばす。
    「……え?」
     噴水のように血を流す同僚の体を見て、もう一人の敵兵がぽかんとする。そして現実を把握し、叫ぼうとする直前。
    「う、うわ……」
     彼もぼと、と首を落とされた。

     体を立たせたまま絶命した敵兵二名を皮切りに、大火単騎の殲滅戦が始まった。
    「ぎゃああっ!?」「く、くくく、くび、くびっ……」
     どうやら最初に飛ばした敵兵の首が、敵陣の奥にまで届いたらしい。
     にわかに、敵陣が騒がしくなる。
    「て、敵襲! 敵襲!」
     カンカンと警鐘が鳴り響き、敵陣全体でガチャガチャと、武具を装備する音が鳴り始める。
    「……」
     大火は短くため息をつき、呪文を唱え始めた。
     だがそれも、ほんの5秒もかからない。
    「『エクスプロード』」
     ズドン、と地を揺るがす炸裂音とともに、テントの一つが真っ赤に光り、消え失せる。
    「な、なん……」
     続いてもう一度、大きな爆発が起こる。
     さらにもう一度。
     もう一度。
     何度も。

     爆発がやむ。
    「何が……起こった……?」
     意外にも、数多くの兵士が生き残っていた。
     だが、装備や軍備ははるか彼方に吹き飛ばされ、兵士たちの体自身も、多少の差はあるが中度、重度の火傷を負っている。とても戦闘に臨める状態ではなく、誰も身動きが取れない。
     その中央へ、大火がとん、と降り立つ。
    「う……っ」
    「あれが……あの……?」
    「『黒い悪魔』か……!」
     ざわめきはするが、誰も立ち上がれないでいる。
    「どうした?」
     と、大火が周囲に問う。
    「ここにいるのは、敵だ。かかってこないのか?」
    「……っ」
     大火は周囲を一瞥し、もう一度同じ質問を投げかける。
    「かかってこないのか?」
    「……」
     武器も体力も失った兵士たちは、何もできないでいる。
     そこへ、半ば焼けた槍を持った兵士が単騎で、大火へと近づいた。
    「俺がやる……!」
    「そうか」
     だが、次の瞬間。
    「……えっ」
     その兵士の身長が縮んだ。
     いや、縮んだのではない。腰から下をばっさりと斬り飛ばされ、上半身のみが残ったのだ。
     きっと自分がどうなったのかも分からないままなのだろう――槍を抱え、大火を見据えたまま、兵士は絶命している。
    「ひっ……」
    「他に、俺を討ち取ろうと言う者は?」
     三度、大火が尋ねる。
     だがもう、誰も向かってはこない。
    「いないな?
     では、説明しておこう。明日、焔軍の本隊がここへやって来る。当然、お前たちと戦うつもりで、だ。そしてその露払いを、こうして俺がしておいた。明日も、本隊に参加する予定だ。
     もし命が惜しい、勅命など己の命に換えられるものかと言う者は、速やかにここから去るがいい。俺もわざわざ、逃げた兎を追うほど暇ではない」
     説明し終え、大火はその場に座り込む。
     その瞬間、倒れていた兵士は大慌てで、その場から逃げ去った。



     翌日。
    「……なに……これ……」
     進軍した焔軍が変わり果てた敵陣を目の当たりにし、絶句した。
    「昨日まで、ここ……」
    「あ、ああ。敵がいた、……はずだ」
    「何だよ、これ……?」
     その場には、まったく生命の気配が感じられない。あるのは灰と炭、焼けた土、そしてまばらに残った死体だけである。
    「……タイカ」
     ランドもこの凄惨な状況に強いめまいを覚えながら、何とか大火に質問する。
    「なんだ?」
    「君がやったのかい」
    「ああ」
    「どうして、ここまで? おどかして帰してしまえば良かったじゃないか」
    「指示したのはお前だ。俺に『悪魔になればいい』と」
    「そんなつもりじゃ……」
    「では、どう言うつもりだったのだ?」
     大火は無表情で、ランドにこう返した。
    「契約は契約だ。その言葉通りに、俺は事を運んだ。
     俺を悪魔と呼び、悪魔になれ、悪魔らしくしろと、お前は言ったのだ。
     言葉は言葉の通りだ。俺は俺の思う、『悪魔』になった。お前のつもりや含みなど、知ったことか」
    「……そっ、か」
     大火もランドも、それきり口を開かなかった。
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