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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・停革記 2

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    フォコの話、251話目。
    神と法の壁。

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    2.
     まだ納得の行かなさそうな面々に、中央政府の政務大臣だったランドは丁寧に説明した。
    「先程も言った通り、名代職と言うのは『中央政府からその職に命ぜられ』なければ、その地位に付くことができません。
     中央政府が命じた人間、家系にしか、その権利は与えられないんですよ」
    「しかしだ、ファスタ卿。名代職にあった一豊王は死に、跡継ぎも行方不明。となれば、別の人間に任せるしかないのでは?」
     この意見に、ランドは肩をすくめる。
    「常識で、と言うか、普通の要職などを基準に考えれば、そうなるでしょう。
     しかし名代職と言うのは、世界でたった2名、2家系にしか許可されてない、しかも世界平定後の二世紀半、一度も罷免・交代されたことのない、狭く、古びた門なんです。
     中央政府は非常に保守的で、慣習には厳格に従う組織です。いかに天帝が改革を目指し、あれこれと命じようとも、古くからの慣例を覆すのは、非常に難しい」
    「中央政府を、いや、世界全体を統べる天帝であっても、か?」
    「ええ。何故なら天帝にとって『古くからの慣わし』を覆すことは、それまで代を重ねてきた天帝たち、即ち『神』による政治運営すべてを、二世紀半続けられてきた神権政治すべてを否定するようなものです。
     それを否定してしまえば、天帝家と言う『神の血筋』を、即ち自分の政治的な存在理由を否定することにつながる。だから、少しでも以前の慣習に背くようなことを、そう簡単にできるはずもない。
     だからこそ以前、中央政府への叛意を見せたはずの清王朝への処分が、『名代職追放』ではなく、『権利凍結』にまで引き下げられたわけですから」
    「ふむ、言われてみればそうであったな」
     納得した顔をした玄蔵に、ランドはうなずいて見せる。
    「そこで、今回のケースです。
     名代一族が全滅していたなら、中央政府も新しく名代職を任命せざるを得ません。それこそ神様にだって、死んだ人間を復活させることはできないわけですから。
     しかし行方不明――死んだと確定していない今の状況で、簡単に権限を移すわけには行かない。僕たちがいくら『新しい統治者を決定した』と唱えても、中央政府は認めないでしょう」
     ここで、将軍の一人が手を挙げる。
    「しかし実際にいないのだから、無理矢理にでも立てるしかあるまい?」
    「それをやると、非常にまずいことになります」
     ランドは首を大きく横に振り、その意見を否定した。
    「名代だと認めていない人間が、勝手に『自分は央南の王である』と公言している。中央政府はそう判断するでしょう。となれば、どうなりますか?」
    「……なるほど。好戦的な現天帝なら、自分たち中央政府に仇なす者と判断しかねんな」
    「そう言うことです。それではこの2年以上に渡る戦乱がやっと終わると言うのに、また再び、長い戦いをする羽目になる。しかも今度は、中央軍と言う巨大な敵軍とです」
    「それは……、いただけぬな」
     全員が納得したところで、ランドは話を進めた。
    「そこで我々が今、最優先でやらなければならないこと。それは清王朝の後継者、フタバとミツモリの生死を確認することです。
     生きていれば、彼らから正式に名代職の権限を譲渡してもらう。死んでいれば、中央政府へそれを申告し、新しい名代職を任命してもらう。
     もっとも、失踪認定――10年間行方が不明のままであれば、死亡と見なされると言う措置もありますが、皆さんはそれを待っていられますか?」
     ランドの問いに、全員が渋い顔をした。
    「でしょうね。
     ではただちに、行方を追いましょう。……それまでは主権不在、国王空位のまま、清王朝を存続させるしかありません」
    「なんと……」
    「……独立の話だけでもできんのか?」
     ぼそ、とそう尋ねた玄州の早田知事に、ランドは厳しく答えた。
    「『誰が』それを認可するんです?」
    「……まあ、そうなるな。……仕方ないか」
     早田知事は残念そうな顔で、狐尻尾をわさわさと撫でていた。
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