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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・停革記 3

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    フォコの話、252話目。
    企みの看破。

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    3.
     白京にて聞き込みを行ったところ、すぐに誘拐犯が判明した。
    「ガイコツみたいな顔の、背の高い『兎』が……?」
    「尾形卿、心当たりはあるか?」
     玄蔵らに尋ねられ、尾形は顔を真っ赤にしてうなずいた。
    「ええ、ええ、……ありますとも! あり過ぎるくらいですとも!
     サザリー・エール氏に違いありません! まったく、何と言う男だ! まさか交渉を放棄したばかりでなく、双葉様たちを拐(かどわか)すとは!」
    「エール氏……、確か清王朝に取り入っていた商人と聞いていたが」
     玄蔵の問いに、尾形はもう一度、深々とうなずく。
    「ええ、その通りです。……今にして思えば、あやつは疫病神そのもの!
     一豊陛下をだまして散々借金を作らせ、中央政府に目を付けさせ、その上彼の用意した交渉の場では、あろうことか一善陛下が犠牲に……!」
    「……ん?」
     と、憤る尾形の話を聞いて、ランドは何か、引っかかるものを感じた。

     ランドは尾形の嘆きを遮り、質問する。
    「ちょっと聞かせてください。ヒタニに交渉の場を用意したのは、エール氏なんですか?」
    「ええ。焔軍が攻め込んでいない場所を、と言うことで」
    「なんでヒタニだったんでしょう?」
    「え? ……静かな場所だから、交渉に適していたとか」
    「ふむ。確かにそれもうなずける意見ですが、あまりにも静かすぎやしませんか?」
    「……まあ、確かに」
    「それに碧州であれば、州都の玉川の方が何かと便利がいい。知事を呼ぶにも手早くできるし、それを考えれば桧谷では、確かに辺鄙すぎる。まるで人目を避けているような……?」
     三縞知事の意見にうなずきつつ、ランドは推理する。
    「もう一つ聞いておきたいんですが、カズヨシ王が襲われた際、オガタ卿もそこに?」
    「ええ、おりました」
    「エール氏もそこに?」
    「はい。交渉の場を設けた本人ですから。陛下がお亡くなりになった時も、大層心配した様子を見せておりましたが、……ね」
    「心配した様子?」
    「惨状を目にし、凍り付いていた我々をかき分けて、『誰にやられたんですか』と声をかけていました」
    「……それ、心配してませんよ?」
     ランドは一瞬大火に目をやり、状況を推理した。
    「本当に身を案じていたなら、かける言葉はもっとあるでしょう? 『大丈夫ですか』とか、『すぐに手当てを』とか。
     なんで現場を見た第一声が、『誰がやったんだ』なんですか」
    「……あ、れ?」
     尾形の顔が凍りつく。
    「オガタ卿、もう一つ伺いますが、その時カズヨシ王は、何と答えたんです?」
    「克氏がやった、と。黒い男がやって来た、……から、間違い、……無いと」
     どうやら、尾形も話がおかしいことに気付いたらしい。
    「じゃあ……、それは……、タイカじゃないかも知れないんですね。あくまで『黒い男が来たから、恐らくタイカじゃないか』って話になる。
     そもそも、誰からタイカが黒い身なりをしていると?」
    「……エール氏、でした」
     尾形の顔が真っ青になり、続いてまた、真っ赤になっていく。
    「まさか、エール氏があなた方に嫌疑を向けさせようと?」
    「敵ですから、何と言っても嘘に聞こえる。そう読んだんでしょうね。
     そもそも、我々もエール氏の存在には疑問を抱いていたんです。妙に金を使わせるような戦い方をさせていた、と。
     そう――大借金を背負って倒れてくれなければ困るような、そんな思惑が見え透くようでした」
    「……なんと! なんとまあ、ふざけたことを考えたか!」
     尾形の尻尾が、怒りで毛羽立っていく。
    「しかし……、何故です? 何故彼は、我々に仇なそうと?」
    「……恐らく、ですが」
     ランドは一瞬黙り込み、これまで抱いてきた疑念をまとめた。

    「エール氏は西方の大商会、エール商会に所属しています。これは言うまでもなく、彼の生家です。
     近年、その一族内で家督争いがあったと、うわさには聞いています。そして家督を継いだのは彼の兄、ミシェル・エール氏であると。そのミシェル氏が家督争いの当時から現在に至るまで懇意にしているのが、ゴールドマン商会だそうです。
     そのゴールドマン商会、本拠こそ央中にありますが、中央政府とも懇意にしており、また、西方や南海へも勢力を伸ばそうとしていると、もっぱらの評判です。しかし逆に、央中の商人とはあまり仲が良くないとか」
    「それはまた、何故……?」
    「総帥であるケネス・エンターゲート=ゴールドマン氏の黒いうわさのせいです。
     曰く、『婿養子の身から商会を乗っ取り、各地で戦争の火種をばら撒きつつ、そこへ武器を売りつけることで莫大な利益を得ている』とか。
     あまりに非人道的な商売をしているため、央中の商人たちは彼を嫌っているそうです」
    「あの……、それと今回の件が、どうつながるのですか?」
    「今回、エール氏が作り上げた莫大な債務ですが、債権はどこが持っています?」
    「ほとんどが央中からですね」
    「でしょうね。そうでなければ、この企みは成立しない」
     含みを持たせた言葉に、尾形は首をかしげる。
    「どう言うことです?」
    「清王朝は莫大な借金を抱えたまま、このまま消滅したとします。その借金ごと。そうすれば、貸し付けた央中の商人たちはどうなるでしょうか?」
    「……! 莫大な数の、共倒れが!?」
    「そうです。中央政府が認めた国家、清王朝がまさか潰れるなんて、誰も思わない。だからこそ、多少無茶な額での貸し付けもまかり通ってしまう。
     しかし結局はこうして、崩壊した。今頃、央中では恐慌が起こっていてもおかしくないでしょうね」
    「……そんな……恐ろしいことを……!?」
     話の大きさに、ついに尾形はへたり込んでしまった。
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