「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・停革記 4
フォコの話、253話目。
そして西方へ。
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4.
「……し、しかし……」
へたり込んでしまってもなお、尾形は質問を重ねる。
「それでは一つ、納得の行かない点があります。
何故エール氏は、双葉様たちを誘拐したのでしょうか? このまま清王朝を潰すのが、彼の狙いなのでは?」
「僕たちが――困窮の末に負けて政治運営のできない清王朝と、勝ったはずなのに王を名乗れない焔軍とが、こうして身動きできなくなるのを謀っているんでしょう。
このまま手をこまねいていればこまねいているだけ、央中商人は清王朝にも、その諸権利を引き継ぐであろう焔軍にも、借金の取り立てができないんですから」
「よしんば、無理矢理にあなた方が王を名乗っても、中央軍が攻めてくる。そうなればどちらにせよ、債権は回収できない、……と言うわけですか」
フラフラと立ち上がる尾形を助け起こしながら、ランドはこうつぶやいた。
「何がどうなろうと、債権回収ができないように仕向けてあるんでしょうね。
……失踪認定に10年、などと悠長なことは言っていられません。このままエール氏を放っておけば、その認定を受ける人間が、100万を超すでしょう」
双月暦312年2月、西方の港町、ブリックロード。
「……メチャクチャにも程がありますな」
ランドから央南での顛末を聞いたフォコは、苦い顔をしていた。
「もしそんなことが現実になったら、央中にものっすごい大穴が開きますで」
「うん、僕もそう思う。……だからこそ、一刻も早くサザリー氏と、フタバ殿下を探さないといけない」
「なるほど……」
と、フォコと一緒に話を聞いていたランニャが、ひょいと手を挙げる。
「そーゆーことだったらさ、まずはセラーパークに行った方が早いんじゃないか?」
「って言うと?」
「エール商会の本拠地さ。サザリーって奴が逃げ込むとしたら十中八九、実家じゃないか?
そこまで大々的に『国潰し』をした商人なんて、どこに行ったってつまみ出されるのがオチだろうし、となると頼れるのはもう、自分ん家しかないと思うんだ」
「まあ、そうやろな」
「あー……、そうか。ゴメン、そこまでは知らなかったんだ」
恥ずかしそうにはにかんだランドに、皆苦笑する。
「ほな、まあ。行ってみますか、そこ。
……久々に、一緒に仕事ができますな。ランドさんが一緒やったら、百人力ですわ」
フォコの言葉に、ランドもまた、嬉しそうに笑う。
「そうだね。君の知恵と僕の戦略論があれば、どこにだって進める。
この未曽有の危機だって、思いも寄らない方法で救えるかも、……だね」
「そうですな。それに、仲間も仰山いてますし」
フォコはそう言って、テーブルに着いていた皆を見渡す。
「相手が相手ですし、この先単なる追走劇になるか、それとも西方にまた戦乱の火が燃え移るかは、正直僕にも分かりませんが――こんだけ仲間がいてるんです。
きっと、うまくやれます」
「うん、……きっと、そうだね」
フォコとランドは固い握手を交わし、これからの新たな戦いに闘志を燃やした。
一方、央中では――。
「え……!? ウソだろ!?」
「いや、それが本当らしいんだ」
ルピアが弟ポーロから、恐ろしい話を伝え聞かされていた。
「まさか、老舗のサルトン製塩が潰れるとはな」
「近年は本業が振るわず、鉱山事業連合の募集してた投機筋に手を出してたらしいからな。
そこへ今回の、央南の貸し倒れ騒ぎだ。事業連合が無理矢理に出資金を凍結したもんだから、資金繰りが止まったんだと」
「最近はどこも景気が悪いからな……。そりゃ投機もしたくなるだろうが、潰れたんじゃ元も子もないよな」
神妙な顔をしたルピアに、ポーロは続けてニュースを伝える。
「他にも、同じように被害を被り、倒産した商会が多数ある。大小合わせて、20件にも、30件にも上るとか。
このまま潰れ続ければ、央中の商業網はズタズタになるだろうな」
「ウチは央南に投資しなくて正解だったな。ゴールドマンとのゴタゴタもあったし、投資しようかどうしようか迷ってたところだったが」
「その点はランドに感謝しないといけないな。央南の事情を伝えてくれたんだし。
……と、そうだ。何でもランド、今度は西方に渡ったそうだ。紆余曲折あって、エール商会とやりあうとか」
「はぁ……? 北方へ逃げたかと思えば、央南で戦争起こして、今度は西方か。
毎度毎度のことだが、……分からんなぁ、あいつのやることは。まあ、詳しいことはまた今度、カツミ君にでも聞いてみるか。『頭巾』はあるし」
崩壊の兆しを見せる央中。
その原因、エール家を追い、フォコとランドは新たな戦いに挑む。
火紅狐・停革記 終
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そして西方へ。
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「……し、しかし……」
へたり込んでしまってもなお、尾形は質問を重ねる。
「それでは一つ、納得の行かない点があります。
何故エール氏は、双葉様たちを誘拐したのでしょうか? このまま清王朝を潰すのが、彼の狙いなのでは?」
「僕たちが――困窮の末に負けて政治運営のできない清王朝と、勝ったはずなのに王を名乗れない焔軍とが、こうして身動きできなくなるのを謀っているんでしょう。
このまま手をこまねいていればこまねいているだけ、央中商人は清王朝にも、その諸権利を引き継ぐであろう焔軍にも、借金の取り立てができないんですから」
「よしんば、無理矢理にあなた方が王を名乗っても、中央軍が攻めてくる。そうなればどちらにせよ、債権は回収できない、……と言うわけですか」
フラフラと立ち上がる尾形を助け起こしながら、ランドはこうつぶやいた。
「何がどうなろうと、債権回収ができないように仕向けてあるんでしょうね。
……失踪認定に10年、などと悠長なことは言っていられません。このままエール氏を放っておけば、その認定を受ける人間が、100万を超すでしょう」
双月暦312年2月、西方の港町、ブリックロード。
「……メチャクチャにも程がありますな」
ランドから央南での顛末を聞いたフォコは、苦い顔をしていた。
「もしそんなことが現実になったら、央中にものっすごい大穴が開きますで」
「うん、僕もそう思う。……だからこそ、一刻も早くサザリー氏と、フタバ殿下を探さないといけない」
「なるほど……」
と、フォコと一緒に話を聞いていたランニャが、ひょいと手を挙げる。
「そーゆーことだったらさ、まずはセラーパークに行った方が早いんじゃないか?」
「って言うと?」
「エール商会の本拠地さ。サザリーって奴が逃げ込むとしたら十中八九、実家じゃないか?
そこまで大々的に『国潰し』をした商人なんて、どこに行ったってつまみ出されるのがオチだろうし、となると頼れるのはもう、自分ん家しかないと思うんだ」
「まあ、そうやろな」
「あー……、そうか。ゴメン、そこまでは知らなかったんだ」
恥ずかしそうにはにかんだランドに、皆苦笑する。
「ほな、まあ。行ってみますか、そこ。
……久々に、一緒に仕事ができますな。ランドさんが一緒やったら、百人力ですわ」
フォコの言葉に、ランドもまた、嬉しそうに笑う。
「そうだね。君の知恵と僕の戦略論があれば、どこにだって進める。
この未曽有の危機だって、思いも寄らない方法で救えるかも、……だね」
「そうですな。それに、仲間も仰山いてますし」
フォコはそう言って、テーブルに着いていた皆を見渡す。
「相手が相手ですし、この先単なる追走劇になるか、それとも西方にまた戦乱の火が燃え移るかは、正直僕にも分かりませんが――こんだけ仲間がいてるんです。
きっと、うまくやれます」
「うん、……きっと、そうだね」
フォコとランドは固い握手を交わし、これからの新たな戦いに闘志を燃やした。
一方、央中では――。
「え……!? ウソだろ!?」
「いや、それが本当らしいんだ」
ルピアが弟ポーロから、恐ろしい話を伝え聞かされていた。
「まさか、老舗のサルトン製塩が潰れるとはな」
「近年は本業が振るわず、鉱山事業連合の募集してた投機筋に手を出してたらしいからな。
そこへ今回の、央南の貸し倒れ騒ぎだ。事業連合が無理矢理に出資金を凍結したもんだから、資金繰りが止まったんだと」
「最近はどこも景気が悪いからな……。そりゃ投機もしたくなるだろうが、潰れたんじゃ元も子もないよな」
神妙な顔をしたルピアに、ポーロは続けてニュースを伝える。
「他にも、同じように被害を被り、倒産した商会が多数ある。大小合わせて、20件にも、30件にも上るとか。
このまま潰れ続ければ、央中の商業網はズタズタになるだろうな」
「ウチは央南に投資しなくて正解だったな。ゴールドマンとのゴタゴタもあったし、投資しようかどうしようか迷ってたところだったが」
「その点はランドに感謝しないといけないな。央南の事情を伝えてくれたんだし。
……と、そうだ。何でもランド、今度は西方に渡ったそうだ。紆余曲折あって、エール商会とやりあうとか」
「はぁ……? 北方へ逃げたかと思えば、央南で戦争起こして、今度は西方か。
毎度毎度のことだが、……分からんなぁ、あいつのやることは。まあ、詳しいことはまた今度、カツミ君にでも聞いてみるか。『頭巾』はあるし」
崩壊の兆しを見せる央中。
その原因、エール家を追い、フォコとランドは新たな戦いに挑む。
火紅狐・停革記 終
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第5部、終了しました。
いやぁ、久々に躍動的な部でした。
第6部はまた、陰謀渦巻くストーリーとなりますが。
現在、展開に悩んでいるので、もしかしたら突発的に番外編など書くかも知れません。
第6部は7月17日から開始の予定。
順調にいけば、ですが。
ツイッターだかどこかでも書いた通り、延々と丁々発止、権謀術数渦巻くストーリー展開は、個人的に結構辛いもんで。
「蒼天剣」みたく、バトル展開、友情・恋愛展開が多めの方が好き。
「火紅狐」の次は、そーゆー展開にする気満々です。
第5部、終了しました。
いやぁ、久々に躍動的な部でした。
第6部はまた、陰謀渦巻くストーリーとなりますが。
現在、展開に悩んでいるので、もしかしたら突発的に番外編など書くかも知れません。
第6部は7月17日から開始の予定。
順調にいけば、ですが。
ツイッターだかどこかでも書いた通り、延々と丁々発止、権謀術数渦巻くストーリー展開は、個人的に結構辛いもんで。
「蒼天剣」みたく、バトル展開、友情・恋愛展開が多めの方が好き。
「火紅狐」の次は、そーゆー展開にする気満々です。



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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 1;蒼天剣

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