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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・神算録 1

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    晴奈の話、第103話。
    一抹の不安。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     晴奈とエルスが天玄館の執務室に向かうと、そこには既に紫明と、対黒炎隊の幹部たちが集まっていた。
    「……!? は、早いな、晴奈?」
     主席の椅子に座っていた紫明が、まるで幽霊を見たかのような顔で出迎える。
    「ええ、明奈が魔術でここまで送ってくれました」
     晴奈の説明で、紫明はようやく表情を崩した。
    「ふ、ふむ、そうか、道理で」
    「それよりも父上、状況は如何に?」
    「ああ、現在は落ち着いている。
     つい数日前まで、天玄の東及び北東から多数の軍勢――姿を見た者によれば、黒炎教団らしき者だったそうだ――が攻め込み、我々はその防衛にかかりっきりだった。連合軍だけでは心もとなくなり、黄海にいた対黒炎隊まで、大半を動員するほどにな」
    「教団が? それは変でしょう」
     エルスが手を挙げ、質問する。
    「教団の本拠地はご存知の通り、央南の最西部、屏風山脈にあります。攻め込むとすれば、西側からのはずです。
     西側から東へ回り込んだにしても、北には天神湖が、南には天神川が伸びていますし、かなりの手間を負います。教団が来たとするなら、つじつまが合わない気がしますね」
    「うむ、私も同意見だ。しかし、前線にいた将たちからも、確かに黒炎の者らしいと言う報告が上がっている。これまで何度も戦ったのだから、見間違いと言うこともあるまい」
    「ふむ……」
     エルスは腕を組み、そのまま考え込む。紫明は晴奈に顔を向け、話を続ける。
    「特にここ3日ほどは攻勢が激しく、後一息で前線が押し破られるかと言うところだったが、昨日になって……」「アタシが計画してたアレが、やっと揃ったのよ。それで一斉攻撃して、撃退したの」
     紫明の横にいたリストが自慢げな様子で、話に入ってくる。
    「アレ、とは?」
    「コレよ、コレ」
     リストは腰に提げていた銃を机の上に置いて、紫明の説明を継ぐ。
    「黄商会に頼んで、銃の量産をしてもらってたのよ。教団にはまだ、銃に対する戦法が確立されてないからきっと有効だろうって、アンタ言ってたし」
     考え込んでいたエルスが顔を上げ、リストに尋ねる。
    「成果はどうだったの?」
    「アンタの言う通りだったわ。アイツら、すっごくビビッてた。あっと言う間に逃げて行ったわよ」
     自慢気に語るリストに、エルスはけげんな顔を返しつつ、もう一度尋ねる。
    「全員?」
    「ええ、みーんな。よっぽど怖かったのね、ホント田舎者だわ」
    「うーん……? 全員、かぁ」
     エルスは手の関節を鳴らしながら考え込む。
    「それだとかなりマヌケな一団になっちゃうなぁ。変だよ」
    「は? ドコが変なのよ」
    「戦略的に不利な東側から攻め込んだ上に、新兵器に驚いて全軍撤退なんて、これじゃ何のために来たのか分からない。わざわざ大軍を率いてやって来る意味が無い。
     結果から考えれば、もっと小規模な戦力を投入するべきだ。これじゃまるで、僕たちの眼前で騒ぐために出てきたとしか思えない」
    「何が言いたい、エルス?」
     晴奈が尋ねてみたが、エルスは答えない。
    「……うーん」

     ともかくリストが銃士隊を結成し迎撃したところ、敵はすべて撤退。一日経った現在は敵の姿も見えず、依然緊張状態が続いていると言う。
    「また黒炎がやって来次第、銃士隊によって迎撃、撃退しようと考えているのだが、どうだろうか?」
    「うーん」
     紫明が尋ねるが、エルスはまだ腕を組んだまま、動かないでいる。
    「うーん、以外に言うことは無いのか」
    「うーん」
     晴奈が声をかけても、一向に返事を返さない。
    「いい加減にしなさいよ、アンタ呪いの置物かなんかなの?」
     リストが後ろから殴る。
    「いたっ」
    「いいの? 悪いの? どっちかさっさと言いなさいよ」
    「……うーん」
    「うーんて言わないっ」
    「あ、ゴメンゴメン。そうだな、何もしないよりはいいかな。何人いるの?」
    「アタシを抜いて36人。4分隊ね」
    「そっか。じゃあ、街の四方に配備して巡回してもらおう。っと、狙撃班はいる?」
    「無いわ。製造のモデルにした銃が近接戦闘向けだったし。今造ってみてもらってるけど、実用化はまだ無理ね」
    「じゃあ、巡回だけかな、今できるのは。あと、既存の軍にも厳戒態勢を執るよう伝えておいて。それじゃお願いするよ、リスト」
    「りょーかいっ」
     リストは軽く敬礼して、執務室を後にした。
    「妙に嬉しそうだったな、リスト」
    「ああ、彼女は銃が大好きだから。半分趣味も入ってる」
    「ふむ……。そうだ、エルス」
     晴奈は会って以来抱えていた疑問をぶつけてみた。
    「今さらで少々恐縮なのだが、『じゅう』とは一体、何だ? リストが使っていたのを何度か見たが、何がどうなっているのか、さっぱり分からぬ」
    「んー、まあ簡単に言うと、火薬で弾を発射して、敵にぶつける器械だね。
     元々火薬自体、央中の金火狐一族が起源らしいんだけどね、その金火狐一族の中核、金火狐商会ってところが銃を開発したらしいんだ。
     でも魔術に比べたら射程が短いし、一撃あたりのダメージは刀剣類に劣る。だもんで、金火狐商会はすぐ見切りを付けちゃって、製造から1~2年くらいで、早々に開発を放棄したんだ。それが20年くらい前の話」
    「うん? リストは今年で19歳と聞いていた覚えがあるが……、20年前に放棄されたと言うなら、何故リストが銃を扱っているのだ? そもそもリストは北方人だろう?」
    「うん、央中では20年前に放棄したんだけど、その開発者が北方に渡ったんだよ。『銃器の可能性を諦めきれない』って言ってね。
     で、その開発者が北方の軍事顧問だったナイジェル博士に会って熱心に推して、博士も『携行性の高さと熟練するまでに要する訓練期間が刀剣類や魔術に比べて圧倒的に短い。安定して質の高い戦力を確保・維持するには持って来いだ』って結論付けて、北方での銃器開発を後押ししたのさ。
     その関係で、ナイジェル博士の孫であるリストもガンマニアになっちゃったってわけ」
    「なるほど」
    「……ふーん」
     と、エルスは机に置かれたままの銃を手に取り、掌でくるくると向きを変えつつ、しげしげと眺める。
    「『黄光一〇三号』、か。黄商会ブランドの銃、第一号になりそうですね。……あれ」
    「どうした?」
     紫明が尋ねたが、エルスはすぐには答えず、銃を分解し始めた。
    「な、何を?」
     紫明がぎょっとしている間に銃は全パーツが完全に分解され、机に並べられた。
    「なかなか苦心されてるようですね」
    「う、うむ。銃と言うのはうわさには聞けど、実物を見たのはチェスター君のものだけだったからな。銃弾からして、製造が困難だったよ」
    「でしょうねー……。まだ、大分粗い」
     銃を組み立て直しながら、エルスは不安そうにつぶやいた。
    「薬莢の出来が粗くて、隙間があります。このままだと発射時、弾速が大きく落ちる可能性がありますね。それに各可動部の噛み合わせにも難がある。
     汚れや湿気があると、作動しないかも知れませんね。最悪、腔発の恐れもある」
    「え……!?」
     紫明の顔が、ひどく不安そうに歪む。それを見ていた晴奈が思わず吹き出した。
    「父上、心配性もほどほどになさらねば。
     ここ数日は気温が下がり、空気も大分乾いております。気候も安定しておりますし、エルスの言うような問題は起こらないでしょう」
    「まあ、そうか……」
    「それに私とエルスもおりますし、十分防ぎ切れるはずです。ご安心を、父上」
     晴奈の言葉に、紫明はようやく表情を緩めた。
     対照的に、エルスは珍しく眉をひそめている。
    (敵のちぐはぐな侵攻と不自然な撤退。対するのは、精度の低い銃をたのみにする銃士隊。
     ……何だか不安だなぁ)
     エルスは何も言わず、執務室を出て行った。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
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