「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・落兎記 1
フォコの話、254話目。
兎の邦に来た狐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「はあ……、と」
その日の仕事を終え、その兎獣人の男は道端に腰を下ろした。
「……」
その視線の先には大きな、しかし閉鎖され、荒れ果てた商店が構えている。
「……」
懐から煙草を取り出し、火を点けようとして、マッチを持っていないことに気付く。
「……何だかな」
火の点いていない煙草を口から離し、忌々しげに捨てようとした。
と――。
「火、いります?」
「え?」
背後から、声がかけられる。
「あ、う、うん。ありがとう」
「ほい、と」
男は魔術で火を点けてくれた、親切な狐獣人の男に、小さく会釈する。
「ふう……。やっぱり仕事終わりの一服はいい。ほっとする」
「そんなもんですかね。ああ、僕、煙草吸わへんので、よう分からへんのですけども」
その「狐」は、わりと流暢に西方語を話している。だが、各所に妙な訛りがあり、それが男の興味を惹いた。
「……西方語、うまいね。どこで学んだの?」
「南海の、ちょっと大きな造船所で」
「へぇ。南海でも西方語使うんだね」
「ウチんとこ、語学教育に結構、力入れてはりましたから」
その狐獣人は、ひょいと男の横に座り込んだ。だが、特になれなれしいと感じることも無く、男には彼の行為が、至極自然なものに感じられた。
だから男も自然に、質問を投げかけようかと言う気になる。
「何てところ?」
「うーん……、もうとっくに無くなったところですし、言うても知らんかもです」
「そっか。南海も、色々あったみたいだからね。僕の妹も南海で働いてたんだけど、色々あって戻ってきたんだ」
「へぇ」
「でも、……うーん、南海の人には悪いけど、その余波って言うか、特需が発生したみたいでね。最近、こっちの景気がぐんぐん良くなってきてるんだ。
僕もここ数年、まともな職に就けてなかったんだけど、最近ようやく、荷物運びの仕事が見つかったんだ。50近い身にはきついけど、仕事があるだけまし、……かな」
「……せやけど、あの店は一向に取り返せへん、っちゅうことですか?」
「狐」の言葉に、男はびく、と身を震わせた。
「見てたら分かりますよ。座り込んでから煙草くわえるまでに、ためいき3回。僕と話しながら、チラチラ見ること6回。
あそこ、元はあなたの店やったんでしょ」
「……ちょっと違うかな。僕の、父の店だった。
僕の父は、かつて西方三大商家の一角を担っていたんだけど、亡くなってからが大変でね。中央からの商人が出張ってきて、その『大三角形』潰しにかかったんだ。
それがもう、ちょっとした戦争みたいになっちゃってね。結局僕たちの家は莫大な借金を背負わされ、他の二つともこれ以上ないくらい、関係が悪くなった。
結局、一家はバラバラ。どこにも助けてもらえず、僕も、僕の兄弟も、離散しちゃったんだ。で、今はこうして細々と暮らしてるってわけさ」
「……ふむ、間違いなさそうですな」
と、「狐」は嬉しそうな顔をした。
「間違いないって、一体何のことかな」
「ずっと探してましたで、エールさん」
「僕を?」
「もしかしたらこっちに来はるんちゃうかなと思って、来てみた甲斐がありました。まあ、狙った相手とは違いましたけども」
「狙った相手って?」
「サザリー・エール。央南で一国を潰し、大規模な恐慌を引き起こした奴ですわ。知ってはりますでしょ?」
「狐」の問いに、男は黙り込んだ。
「……弟だ。誠意を持たない奴で、残念ながらあまり、商人向きじゃなかった。……本当に、そんなことを?」
問い返され、「狐」はこくりとうなずいた。
「そしてもう一つ、罪を犯してるんです。
子供を2名、誘拐してるんですよ。フタバ・セイと、ミツモリ・セイって姉弟を」
「そんなことまで? あの、その話、もっと詳しく……」
男は煙草を消し、「狐」に続けて質問した。
だが、「狐」は立ち上がり、男に手を差し伸べる。
「話はもうちょっと、落ち着けるところでしましょか。……あ、と。自己紹介が遅れました。
僕の名前は、ホコウ。火紅・ソレイユです」
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兎の邦に来た狐。
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「はあ……、と」
その日の仕事を終え、その兎獣人の男は道端に腰を下ろした。
「……」
その視線の先には大きな、しかし閉鎖され、荒れ果てた商店が構えている。
「……」
懐から煙草を取り出し、火を点けようとして、マッチを持っていないことに気付く。
「……何だかな」
火の点いていない煙草を口から離し、忌々しげに捨てようとした。
と――。
「火、いります?」
「え?」
背後から、声がかけられる。
「あ、う、うん。ありがとう」
「ほい、と」
男は魔術で火を点けてくれた、親切な狐獣人の男に、小さく会釈する。
「ふう……。やっぱり仕事終わりの一服はいい。ほっとする」
「そんなもんですかね。ああ、僕、煙草吸わへんので、よう分からへんのですけども」
その「狐」は、わりと流暢に西方語を話している。だが、各所に妙な訛りがあり、それが男の興味を惹いた。
「……西方語、うまいね。どこで学んだの?」
「南海の、ちょっと大きな造船所で」
「へぇ。南海でも西方語使うんだね」
「ウチんとこ、語学教育に結構、力入れてはりましたから」
その狐獣人は、ひょいと男の横に座り込んだ。だが、特になれなれしいと感じることも無く、男には彼の行為が、至極自然なものに感じられた。
だから男も自然に、質問を投げかけようかと言う気になる。
「何てところ?」
「うーん……、もうとっくに無くなったところですし、言うても知らんかもです」
「そっか。南海も、色々あったみたいだからね。僕の妹も南海で働いてたんだけど、色々あって戻ってきたんだ」
「へぇ」
「でも、……うーん、南海の人には悪いけど、その余波って言うか、特需が発生したみたいでね。最近、こっちの景気がぐんぐん良くなってきてるんだ。
僕もここ数年、まともな職に就けてなかったんだけど、最近ようやく、荷物運びの仕事が見つかったんだ。50近い身にはきついけど、仕事があるだけまし、……かな」
「……せやけど、あの店は一向に取り返せへん、っちゅうことですか?」
「狐」の言葉に、男はびく、と身を震わせた。
「見てたら分かりますよ。座り込んでから煙草くわえるまでに、ためいき3回。僕と話しながら、チラチラ見ること6回。
あそこ、元はあなたの店やったんでしょ」
「……ちょっと違うかな。僕の、父の店だった。
僕の父は、かつて西方三大商家の一角を担っていたんだけど、亡くなってからが大変でね。中央からの商人が出張ってきて、その『大三角形』潰しにかかったんだ。
それがもう、ちょっとした戦争みたいになっちゃってね。結局僕たちの家は莫大な借金を背負わされ、他の二つともこれ以上ないくらい、関係が悪くなった。
結局、一家はバラバラ。どこにも助けてもらえず、僕も、僕の兄弟も、離散しちゃったんだ。で、今はこうして細々と暮らしてるってわけさ」
「……ふむ、間違いなさそうですな」
と、「狐」は嬉しそうな顔をした。
「間違いないって、一体何のことかな」
「ずっと探してましたで、エールさん」
「僕を?」
「もしかしたらこっちに来はるんちゃうかなと思って、来てみた甲斐がありました。まあ、狙った相手とは違いましたけども」
「狙った相手って?」
「サザリー・エール。央南で一国を潰し、大規模な恐慌を引き起こした奴ですわ。知ってはりますでしょ?」
「狐」の問いに、男は黙り込んだ。
「……弟だ。誠意を持たない奴で、残念ながらあまり、商人向きじゃなかった。……本当に、そんなことを?」
問い返され、「狐」はこくりとうなずいた。
「そしてもう一つ、罪を犯してるんです。
子供を2名、誘拐してるんですよ。フタバ・セイと、ミツモリ・セイって姉弟を」
「そんなことまで? あの、その話、もっと詳しく……」
男は煙草を消し、「狐」に続けて質問した。
だが、「狐」は立ち上がり、男に手を差し伸べる。
「話はもうちょっと、落ち着けるところでしましょか。……あ、と。自己紹介が遅れました。
僕の名前は、ホコウ。火紅・ソレイユです」
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第6部、いよいよ開始です。
ちなみに「火紅狐」最大の長丁場になっております。
……まだこの時点(11/07/17)で書いてる途中なのは内緒。
第6部、いよいよ開始です。
ちなみに「火紅狐」最大の長丁場になっております。
……まだこの時点(11/07/17)で書いてる途中なのは内緒。



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