「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・落兎記 2
フォコの話、255話目。
まだ金火狐は名乗れないから。
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2.
フォコは西方でも依然、自分のことを「火紅・ソレイユ」と名乗っていた。
それには2つの理由がある。一つは、相手に警戒させないため。今や、「ゴールドマン」と言う名はケネスのせいで悪名高いものとなっており、既に央中においては忌避・差別の対象となっている。
そんな時勢で簡単に「ゴールドマン」の姓を名乗っては、ろくに話もできずに追い払われる可能性も濃い。そのため、フォコは今もこの名を名乗り続けているのだ。
そしてもう一つは、かつての仲間――ジョーヌ海運特別造船所のメンバーがこの名を聞き、自分の元へやって来てくれないかと言う期待からである。
しかし西方に来て1週間が過ぎ、ここ、セラーパークを訪れても、一向に仲間についての情報は集まらなかった。
この日までは。
「ほな、改めて自己紹介の方、お願いします」
フォコに促され、彼はフォコの仲間たちに自己紹介した。
「あ、はい。僕の名前は、ルシアン・エール。エール商会の先代当主、セブス・エールの長男だ。……今はただの、運び屋のおじさんだけど」
それを受けて、仲間たちも名乗る。
「僕はランド・ファスタ。北方ジーン王国の、戦略研究室室長だ」
「あたしはその妹のランニャ・ネール。ネール職人組合の一員さ」
「あ、えっと、わたしは南海の、ベール王国の王族で、マフシード・キアン・ベールと申します」
「ファン・ロックスと申します。西方と南海で商売をしております」
「あたしはイール・サンドラ。ランドと同じく、ジーン王国から来たわ」
「右に同じ。レブ・ギジュンだ」
「克大火」
「ふっふっふ、私がかの有名な賢者、モー……」「ま、こんなところですね」「ちょ、ちょいちょい待ちなって、まだ私名乗って……」
大仰な自己紹介をしようとしたモールを抑えつつ、フォコは本題を切り出した。
「それでルシアンさん、弟さんの話なんですけども」
「あ、うん」
憮然とした顔のモールをチラチラと横目で見つつ、ルシアンは話題に乗った。
「国家転覆に、数十億を超える債権の踏み倒し、加えて誘拐か……。サザリーは頭がおかしくなってしまったんだろうか。そこまでの重罪を重ねるなんて」
「弟さんとは、今は交流は?」
フォコの問いに、ルシアンは済まなさそうに首を振る。
「残念ながら、無い。と言うか、4年か、5年ほど、彼は央南にいたそうだし、交流って言うのは、ちょっと」
「あ、そうですよね」
「でも、すぐ下の弟のミシェルなら何か知ってるかもしれないな。まあ、こっちも交流は無いんだけど」
「どちらにいてはります?」
「この街の外れに、屋敷があるんだ。僕の記憶に間違いがなければ、多分まだそこにいるはずだよ」
その話に、ランニャが首をかしげる。
「ルシアンさんは、屋敷には住んでないの?」
「……うん、まあ。仲違いと言うか、出入り禁止を食らってね。家督も遺産も、1クラムももらえず、さ」
「なんでまた……?」
「まあ、……ちょっと商売で、しくじったんだ。時価300億クラムほど損害を出してしまってね、その責任を取る形で勘当された」
「うわぁ……」
「まあ、……あ、いや」
ルシアンは何かを言いかけて、小さく首を振る。
「(ともかく)、僕は案内しかできないよ。敷地内には絶対入るなって言われてるからね」
「はい?」「え?」
「だから、勘当されたから……」「いえ、あの」
と、マフスが手を挙げる。
「(ともかく)、と仰いましたが、南海語をご存じなのですか?」
「え? あ、これ、南海語だったんだ」
そう返したルシアンに、フォコは直感的に、あることを感じ取った。
「妹さんが南海から戻ってきた、ちゅうてましたね?」
「ああ、うん。(ともかく)って言うの、妹の口癖なんだ。
妹の死んだ旦那さんの口癖で、いつの間にかうつっちゃったんだって。姪たちも(ともかく)(ともかく)って言ってたから、僕にもうつっちゃったみたいだな」
「……姪御さん、もしかして『兎』の三つ子とちゃいます?」
「え? 何で分かったの?」
その返答に、フォコはガタン、と椅子を倒して立ち上がった。
「すみません、ルシアンさん。家の方に、案内していただけませんか?
あ、ご実家の方やなくて、今あなたが妹さんと住んではる家の方に」
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まだ金火狐は名乗れないから。
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フォコは西方でも依然、自分のことを「火紅・ソレイユ」と名乗っていた。
それには2つの理由がある。一つは、相手に警戒させないため。今や、「ゴールドマン」と言う名はケネスのせいで悪名高いものとなっており、既に央中においては忌避・差別の対象となっている。
そんな時勢で簡単に「ゴールドマン」の姓を名乗っては、ろくに話もできずに追い払われる可能性も濃い。そのため、フォコは今もこの名を名乗り続けているのだ。
そしてもう一つは、かつての仲間――ジョーヌ海運特別造船所のメンバーがこの名を聞き、自分の元へやって来てくれないかと言う期待からである。
しかし西方に来て1週間が過ぎ、ここ、セラーパークを訪れても、一向に仲間についての情報は集まらなかった。
この日までは。
「ほな、改めて自己紹介の方、お願いします」
フォコに促され、彼はフォコの仲間たちに自己紹介した。
「あ、はい。僕の名前は、ルシアン・エール。エール商会の先代当主、セブス・エールの長男だ。……今はただの、運び屋のおじさんだけど」
それを受けて、仲間たちも名乗る。
「僕はランド・ファスタ。北方ジーン王国の、戦略研究室室長だ」
「あたしはその妹のランニャ・ネール。ネール職人組合の一員さ」
「あ、えっと、わたしは南海の、ベール王国の王族で、マフシード・キアン・ベールと申します」
「ファン・ロックスと申します。西方と南海で商売をしております」
「あたしはイール・サンドラ。ランドと同じく、ジーン王国から来たわ」
「右に同じ。レブ・ギジュンだ」
「克大火」
「ふっふっふ、私がかの有名な賢者、モー……」「ま、こんなところですね」「ちょ、ちょいちょい待ちなって、まだ私名乗って……」
大仰な自己紹介をしようとしたモールを抑えつつ、フォコは本題を切り出した。
「それでルシアンさん、弟さんの話なんですけども」
「あ、うん」
憮然とした顔のモールをチラチラと横目で見つつ、ルシアンは話題に乗った。
「国家転覆に、数十億を超える債権の踏み倒し、加えて誘拐か……。サザリーは頭がおかしくなってしまったんだろうか。そこまでの重罪を重ねるなんて」
「弟さんとは、今は交流は?」
フォコの問いに、ルシアンは済まなさそうに首を振る。
「残念ながら、無い。と言うか、4年か、5年ほど、彼は央南にいたそうだし、交流って言うのは、ちょっと」
「あ、そうですよね」
「でも、すぐ下の弟のミシェルなら何か知ってるかもしれないな。まあ、こっちも交流は無いんだけど」
「どちらにいてはります?」
「この街の外れに、屋敷があるんだ。僕の記憶に間違いがなければ、多分まだそこにいるはずだよ」
その話に、ランニャが首をかしげる。
「ルシアンさんは、屋敷には住んでないの?」
「……うん、まあ。仲違いと言うか、出入り禁止を食らってね。家督も遺産も、1クラムももらえず、さ」
「なんでまた……?」
「まあ、……ちょっと商売で、しくじったんだ。時価300億クラムほど損害を出してしまってね、その責任を取る形で勘当された」
「うわぁ……」
「まあ、……あ、いや」
ルシアンは何かを言いかけて、小さく首を振る。
「(ともかく)、僕は案内しかできないよ。敷地内には絶対入るなって言われてるからね」
「はい?」「え?」
「だから、勘当されたから……」「いえ、あの」
と、マフスが手を挙げる。
「(ともかく)、と仰いましたが、南海語をご存じなのですか?」
「え? あ、これ、南海語だったんだ」
そう返したルシアンに、フォコは直感的に、あることを感じ取った。
「妹さんが南海から戻ってきた、ちゅうてましたね?」
「ああ、うん。(ともかく)って言うの、妹の口癖なんだ。
妹の死んだ旦那さんの口癖で、いつの間にかうつっちゃったんだって。姪たちも(ともかく)(ともかく)って言ってたから、僕にもうつっちゃったみたいだな」
「……姪御さん、もしかして『兎』の三つ子とちゃいます?」
「え? 何で分かったの?」
その返答に、フォコはガタン、と椅子を倒して立ち上がった。
「すみません、ルシアンさん。家の方に、案内していただけませんか?
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