「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・落兎記 3
フォコの話、256話目。
懐かしい再会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
フォコはルシアンを急かし、彼の家に案内してもらった。
「ここが僕の家だけど……」
ルシアンの家は、ひどく色あせたボロ家だった。
「ちょっと、呼んでもろてええですか? 火紅と言えば分かると思います」
「ああ」
ルシアンは玄関を開け、奥に声をかける。
「プラチナ、ただいま。君にお客さんが来てるんだけど」
「……お客さん?」
奥から、フォコにとって非常に懐かしい声が返ってきた。
「ホコウさん、と言えば分かるって……」
「……なんですって?」
驚いた声と共に、奥からドスドスとした足音がやってきた。
「……ウソ、え、……本当に、ホコウくんなの!?」
「ご無沙汰してました、おかみさん」
フォコは深々と頭を下げ、実に8年ぶりとなる「おかみさん」――ルーテシア・ジョーヌとの再会を果たした。
フォコは奥に通され、そこで改めて、ルーと会話を交わした。
「びっくりしましたで、ホンマに。まさかおかみさん、エール家の人やったとは思いませんでした」
「ごめんね、事情があって隠してたのよ。
そう、わたしの本名は、プラチナ・エール。エール四兄妹の、末っ子。でも若い頃あの人に惹かれて、どうしてもあの人にお金を貸してあげてって、お父さんに頼んだの。
だけど西方三大商会、『大三角形』のメンツもあったし、よそから来た夫にそう簡単には出資できなかった。そこでわたしが考えたのが、……既成事実」
「は、はは……」
兄のルシアンが、苦い顔をする。
「『もう結婚しちゃったの。だからこの人も、エール家の一員になったのよ』って言ったら、流石のお父さんも引っくり返っちゃった」
「そらそうですよ。僕かて同じ目に遭うたらそら、ズッコケますて」
今はもう、ふっくらと丸くなっており、聖母の如く優しげな印象を醸し出しているルーの激白に、フォコも面食らっていた。
「で、出資してもらうのには成功したんだけど、代わりの条件が二つ。
わたしが勘当され、エール家の家督継承権を失うこと。それと、最低10年は西方を離れること。
大商人としての父さんのメンツを大事にした結果ではあるけど、……それでもかなり出資してくれたし、感謝してるわ」
と、ここでフォコがあることに気付く。
「あ、そう言えば娘さんたちはどこに?」
「みんな2、3年前に自立したわよ。リモナは早々に結婚して、今は子供が一人。プルーネは商売を始めたけど、まだ軌道には乗ってないらしいわ。
あ、そうそう。ペルシェなんだけどね、モーリスさんに弟子入りしたのよ」
「モーリスさんに?」
思いも寄らない話に、フォコはまた驚かされた。
「モーリスさん、こっちでも船の設計事務所を建てたんだけど、そこそこうまく行ってるみたいよ。
まあ、みんな今のところ、最近の好景気でそこそこ儲けてるみたい。わたしも近くのパン屋で働いてるし」
「……その好景気なんですけども」
ルーはフォコから、サザリーが央南で起こした事件を伝えられ、目を丸くした。
「じゃあ、今の好景気って、央中・央南が恐慌になったからなのね」
「シーソーみたいなもんですわ。向こうが沈んだ分、余った需要がこっちで満たされて、浮き上がってるんです」
「あらあら、そう聞いちゃうと、素直に喜べないわねぇ」
年を経ても、ルーは相変わらずおっとりとして見える。
「そんなわけで、僕たちはサザリーさんを探してるんですわ。恐慌脱出の鍵は、彼が握っとるんですし」
「なるほどねぇ」
久々の再会を果たした後、フォコはランドと大火を伴い、ルシアンとルーとの案内で、セラーパーク郊外の屋敷に着いた。
「ここが僕たちの実家だけど、……思ってた以上にボロボロだなぁ」
屋敷は荒れ果て、庭には枯れ木とゴミが溜まっている。窓も何枚か割れており、ガラスの代わりに板が張られていた。
「……ホンマにここ、人が住んでます?」
「住んでると思うよ。ほら」
と、ランドが窓の一つを指差す。
「あ」
窓の向こうには、しかめっ面をした兎獣人の男が、こちらを眺めているのが見えた。
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懐かしい再会。
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フォコはルシアンを急かし、彼の家に案内してもらった。
「ここが僕の家だけど……」
ルシアンの家は、ひどく色あせたボロ家だった。
「ちょっと、呼んでもろてええですか? 火紅と言えば分かると思います」
「ああ」
ルシアンは玄関を開け、奥に声をかける。
「プラチナ、ただいま。君にお客さんが来てるんだけど」
「……お客さん?」
奥から、フォコにとって非常に懐かしい声が返ってきた。
「ホコウさん、と言えば分かるって……」
「……なんですって?」
驚いた声と共に、奥からドスドスとした足音がやってきた。
「……ウソ、え、……本当に、ホコウくんなの!?」
「ご無沙汰してました、おかみさん」
フォコは深々と頭を下げ、実に8年ぶりとなる「おかみさん」――ルーテシア・ジョーヌとの再会を果たした。
フォコは奥に通され、そこで改めて、ルーと会話を交わした。
「びっくりしましたで、ホンマに。まさかおかみさん、エール家の人やったとは思いませんでした」
「ごめんね、事情があって隠してたのよ。
そう、わたしの本名は、プラチナ・エール。エール四兄妹の、末っ子。でも若い頃あの人に惹かれて、どうしてもあの人にお金を貸してあげてって、お父さんに頼んだの。
だけど西方三大商会、『大三角形』のメンツもあったし、よそから来た夫にそう簡単には出資できなかった。そこでわたしが考えたのが、……既成事実」
「は、はは……」
兄のルシアンが、苦い顔をする。
「『もう結婚しちゃったの。だからこの人も、エール家の一員になったのよ』って言ったら、流石のお父さんも引っくり返っちゃった」
「そらそうですよ。僕かて同じ目に遭うたらそら、ズッコケますて」
今はもう、ふっくらと丸くなっており、聖母の如く優しげな印象を醸し出しているルーの激白に、フォコも面食らっていた。
「で、出資してもらうのには成功したんだけど、代わりの条件が二つ。
わたしが勘当され、エール家の家督継承権を失うこと。それと、最低10年は西方を離れること。
大商人としての父さんのメンツを大事にした結果ではあるけど、……それでもかなり出資してくれたし、感謝してるわ」
と、ここでフォコがあることに気付く。
「あ、そう言えば娘さんたちはどこに?」
「みんな2、3年前に自立したわよ。リモナは早々に結婚して、今は子供が一人。プルーネは商売を始めたけど、まだ軌道には乗ってないらしいわ。
あ、そうそう。ペルシェなんだけどね、モーリスさんに弟子入りしたのよ」
「モーリスさんに?」
思いも寄らない話に、フォコはまた驚かされた。
「モーリスさん、こっちでも船の設計事務所を建てたんだけど、そこそこうまく行ってるみたいよ。
まあ、みんな今のところ、最近の好景気でそこそこ儲けてるみたい。わたしも近くのパン屋で働いてるし」
「……その好景気なんですけども」
ルーはフォコから、サザリーが央南で起こした事件を伝えられ、目を丸くした。
「じゃあ、今の好景気って、央中・央南が恐慌になったからなのね」
「シーソーみたいなもんですわ。向こうが沈んだ分、余った需要がこっちで満たされて、浮き上がってるんです」
「あらあら、そう聞いちゃうと、素直に喜べないわねぇ」
年を経ても、ルーは相変わらずおっとりとして見える。
「そんなわけで、僕たちはサザリーさんを探してるんですわ。恐慌脱出の鍵は、彼が握っとるんですし」
「なるほどねぇ」
久々の再会を果たした後、フォコはランドと大火を伴い、ルシアンとルーとの案内で、セラーパーク郊外の屋敷に着いた。
「ここが僕たちの実家だけど、……思ってた以上にボロボロだなぁ」
屋敷は荒れ果て、庭には枯れ木とゴミが溜まっている。窓も何枚か割れており、ガラスの代わりに板が張られていた。
「……ホンマにここ、人が住んでます?」
「住んでると思うよ。ほら」
と、ランドが窓の一つを指差す。
「あ」
窓の向こうには、しかめっ面をした兎獣人の男が、こちらを眺めているのが見えた。
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