「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・落兎記 4
フォコの話、257話目。
落ちぶれた大商家。
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4.
フォコたちはルーとルシアンを門前で待たせ、屋敷へと足を踏み入れた。
と、その瞬間。
「帰ってくれ! 誰も来るんじゃない!」
屋敷の方から、非常に嫌気に満ちた怒鳴り声が飛んでくる。
「あれが……?」
振り返って尋ねたフォコに、ルシアンがうなずいて見せる。
「ああ。すぐ下の弟、ミシェル・エールだ」
「どうも」
フォコは屋敷に向き直り、ミシェルに向かって声をかける。
「突然失礼します、エール卿! 僕らは……」「帰れ!」
屋敷の窓から花瓶が投げられ、フォコのすぐ前でガシャン、と音を立てて割れる。
「おわっ!?」
「それ以上足を踏み入れたら、今度は椅子を投げるぞ! さあ帰れ! 帰ってくれ!」
「……なんなんですか、あれ」
「よほど、人を避けたいみたいだね」
「どうします?」
フォコとランドは短く相談し、結論を出す。
「行くしかないだろ」
「そうですな」
二人はわめき散らすミシェルに構わず、屋敷へと進む。
「まだ帰らないのか! 帰れと言っただろう! くそッ!」
ミシェルは予告通り、今度は椅子を投げてきた。が――。
「『マジックシールド』」
大火の術により、椅子は三人の頭上で弾かれた。
「あっ、……くそ、くそ、くそッ! 何度言えば分かる!? 入るな! 入るなーッ!」
なおもわめき続けるミシェルを一瞥し、フォコたちはそのまま屋敷へと入った。
屋敷内も、外と変わらず荒れ果てていた。
「ひどい有様ですな。ほんまに金、無いんでしょうな」
「だろうね。……うーん?」
と、ランドが廊下に積もったほこりを見て、疑念のこもった声を挙げる。
「足跡は一つ、か」
「え?」
「ここには彼しか住んでないらしい。少なくともここ数年は」
「ほな、サザリーもいてないでしょうね」
「みたいだね。……まあ、聞くだけ聞いてみよう」
と、屋敷の主が顔を真っ赤にして、二階から降りてきた。
「出て行けと言っただろう! 耳が聞こえないのか!」
「十分聞こえてます。やかましいくらいですわ。
と、自己紹介させていただきます。僕は火紅・ソレイユと申します。北方キルシュ流通大番頭兼、南海ロクミン大商会主任顧問をしております」
「そんな大層な肩書の人間が、私などに何の用があると言うのだ!? 投機でも勧めに来たのか!? それとも詐欺商法か!? 生憎だな、私は一銭も持ってないぞ!」
どうやら相当に苛立っているらしく、ミシェルは手にした燭台を振り上げようとする。
「ちょ、落ち着いてくださいて! ちょっと人探ししてるだけなんですて!」
「人だと? 私は何も知らん! 帰れ!」
「話聞いてくださいって、もう」
「知るかッ! とっとと……」
「……タイカさん、この人落ち着かせる術とかありません?」
「ある」
大火は短く呪文を唱え、術を放った。
「『ネットバインド』」
ひゅん、と風を切り、ミシェルの両手両足に糸状の何かが絡みつく。
「なっ、なんだ!?」
「宙吊りにすれば、大人しくもなるだろう」
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、ミシェルは一瞬のうちに拘束され、天井からぶらぶらと吊り下げられた。
「ほな、落ち着いて話の方、させていただきますで」
「……」
憮然とするミシェルに、フォコは質問をぶつけた。
「あなたの弟さん、サザリー・エールさんに、ここ最近会いました?」
「……会ってない」
「ここ最近、連絡を取ったことは?」
「無い」
ミシェルがそう答えたところで、大火がつぶやいた。
「嘘だな」
「……っ、何を根拠に!」
「オーラ、……と言ってもお前たちには見えんか。
まあ、別に根拠を挙げるとするなら、その髪型だな」
言われて見てみると、確かに先程まで何かを巻いていたように、妙にぺったりした部分がある。
「『魔術頭巾』で会話していたな?」
「な、何のことだか」
ミシェルはとぼけてみせたが、大火は追及を止めない。
「ランド、恐らく2階にあるはずだ。取って来てくれ」
「分かった」
「恐らくは、こいつの使っている机かどこかにあるだろう」
「うん、見てくる」
少しして、ランドが「頭巾」を手に戻ってくる。
「これ?」
「ああ、それだ」
「これだけで相手が分かるもんなの?」
「俺にかかれば造作もない」
大火は「頭巾」を受け取り、ぼそ、と何かを唱えた。
「……なるほど。ここから北東、国境沿いの、川の上流に小屋があるのか」
「な、何故それを、……う、う」
うっかり口を滑らせ、語るに落ちたミシェルは、うなだれるしかなくなる。
「そこに、サザリーがいるんですな?」
「……ああ。いた」
「いた?」
聞き返したフォコに、ミシェルは力なく笑った。
「私のツテから逃走資金を得て、とっくにそこから逃げているよ。『頭巾』もそこに捨てているだろう。
そこから先は、私も知らん。あいつの勝手に任せている」
「ツテって、どこです?」
「スパス産業だ。南海での失敗で経営縮小したものの、私たちより金を持っているからな」
「……そうでしたな、ここはあいつの故郷。南海から叩き出したんですし、こっちに来るしかないですわな、そら」
それを聞いて、ミシェルは「あ……」と声を挙げた。
「なんです?」
「君は確か、ロクミン大商会の関係者と言っていたな?」
「はい」
「聞いた話だが……、以前そこは、ロクシルムと言う名前ではなかったか?」
「ええ、そうですよ」
そこでミシェルは黙り込み、またうなだれた。
「……何か?」
「……そうか……。君たちが、南海のヒーロー、か」
「はい?」
「私から話すことはもう、本当に無い。……帰ってくれ」
「……ええ、失礼します」
フォコたちはミシェルの縄を解いてやり、そのまま屋敷を後にした。
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落ちぶれた大商家。
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フォコたちはルーとルシアンを門前で待たせ、屋敷へと足を踏み入れた。
と、その瞬間。
「帰ってくれ! 誰も来るんじゃない!」
屋敷の方から、非常に嫌気に満ちた怒鳴り声が飛んでくる。
「あれが……?」
振り返って尋ねたフォコに、ルシアンがうなずいて見せる。
「ああ。すぐ下の弟、ミシェル・エールだ」
「どうも」
フォコは屋敷に向き直り、ミシェルに向かって声をかける。
「突然失礼します、エール卿! 僕らは……」「帰れ!」
屋敷の窓から花瓶が投げられ、フォコのすぐ前でガシャン、と音を立てて割れる。
「おわっ!?」
「それ以上足を踏み入れたら、今度は椅子を投げるぞ! さあ帰れ! 帰ってくれ!」
「……なんなんですか、あれ」
「よほど、人を避けたいみたいだね」
「どうします?」
フォコとランドは短く相談し、結論を出す。
「行くしかないだろ」
「そうですな」
二人はわめき散らすミシェルに構わず、屋敷へと進む。
「まだ帰らないのか! 帰れと言っただろう! くそッ!」
ミシェルは予告通り、今度は椅子を投げてきた。が――。
「『マジックシールド』」
大火の術により、椅子は三人の頭上で弾かれた。
「あっ、……くそ、くそ、くそッ! 何度言えば分かる!? 入るな! 入るなーッ!」
なおもわめき続けるミシェルを一瞥し、フォコたちはそのまま屋敷へと入った。
屋敷内も、外と変わらず荒れ果てていた。
「ひどい有様ですな。ほんまに金、無いんでしょうな」
「だろうね。……うーん?」
と、ランドが廊下に積もったほこりを見て、疑念のこもった声を挙げる。
「足跡は一つ、か」
「え?」
「ここには彼しか住んでないらしい。少なくともここ数年は」
「ほな、サザリーもいてないでしょうね」
「みたいだね。……まあ、聞くだけ聞いてみよう」
と、屋敷の主が顔を真っ赤にして、二階から降りてきた。
「出て行けと言っただろう! 耳が聞こえないのか!」
「十分聞こえてます。やかましいくらいですわ。
と、自己紹介させていただきます。僕は火紅・ソレイユと申します。北方キルシュ流通大番頭兼、南海ロクミン大商会主任顧問をしております」
「そんな大層な肩書の人間が、私などに何の用があると言うのだ!? 投機でも勧めに来たのか!? それとも詐欺商法か!? 生憎だな、私は一銭も持ってないぞ!」
どうやら相当に苛立っているらしく、ミシェルは手にした燭台を振り上げようとする。
「ちょ、落ち着いてくださいて! ちょっと人探ししてるだけなんですて!」
「人だと? 私は何も知らん! 帰れ!」
「話聞いてくださいって、もう」
「知るかッ! とっとと……」
「……タイカさん、この人落ち着かせる術とかありません?」
「ある」
大火は短く呪文を唱え、術を放った。
「『ネットバインド』」
ひゅん、と風を切り、ミシェルの両手両足に糸状の何かが絡みつく。
「なっ、なんだ!?」
「宙吊りにすれば、大人しくもなるだろう」
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、ミシェルは一瞬のうちに拘束され、天井からぶらぶらと吊り下げられた。
「ほな、落ち着いて話の方、させていただきますで」
「……」
憮然とするミシェルに、フォコは質問をぶつけた。
「あなたの弟さん、サザリー・エールさんに、ここ最近会いました?」
「……会ってない」
「ここ最近、連絡を取ったことは?」
「無い」
ミシェルがそう答えたところで、大火がつぶやいた。
「嘘だな」
「……っ、何を根拠に!」
「オーラ、……と言ってもお前たちには見えんか。
まあ、別に根拠を挙げるとするなら、その髪型だな」
言われて見てみると、確かに先程まで何かを巻いていたように、妙にぺったりした部分がある。
「『魔術頭巾』で会話していたな?」
「な、何のことだか」
ミシェルはとぼけてみせたが、大火は追及を止めない。
「ランド、恐らく2階にあるはずだ。取って来てくれ」
「分かった」
「恐らくは、こいつの使っている机かどこかにあるだろう」
「うん、見てくる」
少しして、ランドが「頭巾」を手に戻ってくる。
「これ?」
「ああ、それだ」
「これだけで相手が分かるもんなの?」
「俺にかかれば造作もない」
大火は「頭巾」を受け取り、ぼそ、と何かを唱えた。
「……なるほど。ここから北東、国境沿いの、川の上流に小屋があるのか」
「な、何故それを、……う、う」
うっかり口を滑らせ、語るに落ちたミシェルは、うなだれるしかなくなる。
「そこに、サザリーがいるんですな?」
「……ああ。いた」
「いた?」
聞き返したフォコに、ミシェルは力なく笑った。
「私のツテから逃走資金を得て、とっくにそこから逃げているよ。『頭巾』もそこに捨てているだろう。
そこから先は、私も知らん。あいつの勝手に任せている」
「ツテって、どこです?」
「スパス産業だ。南海での失敗で経営縮小したものの、私たちより金を持っているからな」
「……そうでしたな、ここはあいつの故郷。南海から叩き出したんですし、こっちに来るしかないですわな、そら」
それを聞いて、ミシェルは「あ……」と声を挙げた。
「なんです?」
「君は確か、ロクミン大商会の関係者と言っていたな?」
「はい」
「聞いた話だが……、以前そこは、ロクシルムと言う名前ではなかったか?」
「ええ、そうですよ」
そこでミシェルは黙り込み、またうなだれた。
「……何か?」
「……そうか……。君たちが、南海のヒーロー、か」
「はい?」
「私から話すことはもう、本当に無い。……帰ってくれ」
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