FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・神算録 2

     ←蒼天剣・神算録 1 →蒼天剣・神算録 3
    晴奈の話、第104話。
    渦巻く風。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     天玄館の屋上に上がったエルスは、空を見上げる。
    (空気は確かに乾いているけれど、この風は……)
     風は強く、一方向に流れていかない。北風かと思えば、突然南からの突風が来る。
    (博士が昔、言ってたっけ――央南の秋が終わる頃に、ある季節風が吹く。その際、その鍵状の地形が関係して、空気が巨大な渦を巻く。結果、央南の中心部に突然、低気圧が発生し、天候が急変する、と。そして、このテンゲンは央南のまさにど真ん中。
     そんな不安定な天候なら、いきなり雨が降ってきてもおかしくない。もし野外戦の最中に降ってきたら、あの銃はまず、使えなくなるだろうな。
     それに焔流の人たちも、雨天での戦闘は苦手だと言っていた。焔流と雨は相性が悪いらしいし、敵はそこを狙って来るかも知れない)
     遠くに見える街の壁を一通り見渡し、考察を続ける。
    (東及び、北東からの侵攻。何故、本拠地に近い西から来なかったのだろうか? 壁がもろかったとか? でもここから見る限りでは、もろそうには見えない。一応、後で確認しておこう。
     他に考えられるのは、コウカイからの援軍を恐れての迂回かな? でも、元々はコウカイ侵攻を主目的としていたんだし、それならコウカイを攻めた方が、話は早い。
     アマハラ氏の要請でテンゲンに攻め入ったとしても、こちら側の主力がテンゲンに集結しているこの局面でわざわざこちらに来るよりも、近くて防衛力が低下したコウカイを先に攻め落とし、それからテンゲン周辺を囲んだ方が楽で簡単なのは明らかだ。教団にしても、標的であるこちらの動向を丸っきりつかんでないわけが無いだろうし、対黒炎隊がこっちに来てることは知ってるはずだ。
     じゃあ何故、東から来たんだろう? どうしても東から来なければならない、そんな理由が見当たらない。……あるいは、東から来た方が楽だったのかな? 例えば陽動作戦を狙って、東側に兵力を蓄えていた、とか。
     まあ、これは考えられなくは無い。西側から本隊、東側から別働隊と言う挟撃作戦はなかなか悪くない。東側から攻めている間に西側からも大量に兵を寄せれば、かなり効果的だ。
     もしこれが正解なら、東側の兵力は大分少ないはず。いつものような人海戦術は使えなくなるだろうな。となれば東側を強襲し、それから西側の警戒を厳重にしておけばいいか。うん、こちらに十分な勝機はある)
     エルスの読みはある程度当たっていたが――彼はこの時既に、自分が「どうやって今、ここに来たのか」を忘れていた。



    「どうもどうも皆さん」
     集まった教団員たちに、壇上にいる天原が会釈をする。
    「この度は天玄教化計画への参加、ご苦労様です。
     えー、黒鳥宮からの天候予測を先程、ワルラス台下から直々に賜りました。これによれば一両日中に天候は急変し、半日以上は土砂降りが続くとのことです。
     先日のあなた方による陽動により、彼らは銃だか九だかと言う色モノの武器に意味無く自信を持っているでしょう。
     ところがですよ! 我々の調べにより、あの武器は湿気に弱いことが判明しています! そしてあの焔流も、雨の中では火が出せず、威力が大幅に落ちることが分かっています!
     つ・ま・り、土砂降りの中ふたたび攻め込めば、奴らは自分たちの得意とする武器、剣技、戦術がまったく使えなくなるのです!
     もうこんなのは、道端の石を拾いに行くより簡単な作業ですよ! 雨が降り次第、攻め込んじゃってください! ここで勝てば間違いなく、台下より恩賞が賜られるでしょう!
     いや、それよりも! この私から直々に、報奨金を振舞ってあげます!」
     天原は次第に弁舌の熱気を上げ、あれこれと語り始めた。内容は教団員に対する扇動から、やがて焔流に対する侮辱や黄家への誹謗中傷に変わり、そこから央南の歴史に言及し、さらに天原家の伝統へと脈絡無く話を続け、最後には自分の魔術理論と、それが教団にどれだけ寄与できるかを一通り話し終えたところで――。
    「あー、ちょっと話し込んでしまいましたね。疲れました。
     じゃ、そう言うことであとよろしく」
     どうやら言いたいことを言い切ったらしく、天原は滅茶苦茶な「壮行演説」を締めくくり、壇上を後にした。
    「……何だ、あのアホは? グダグダグダグダ、勝手に熱吹きやがって。
     何を言ってたのか、さっぱり分かんねえ」
     最前列でこの演説を聞いていた僧兵長、ウィルバーは天原がいなくなった途端、天原に劣らぬ悪口雑言を漏らし始めた。
    「あのバカさ加減で、オレより位の高い大司祭とは恐れ入るぜ、まったく。ワルラス叔父貴、頭に穴でも空いてるんじゃないのか?
     あんなアホを大司祭にするくらいなら、オレがなった方が教団のためになるっての。なあ、みんな」
     ウィルバーの問いかけに、周りの教団員たちはぎこちなくながらも、首を縦に振る。
    「だよなぁ。あんなヤツが指揮を執るとか、ありえねー。あんなのに従ってたら、絶対全滅しちまうよ。
     なあ、お前ら。アイツの言うことなんか無視しようぜ。オレたちはオレたちで、現場判断で進もう」
     本来ならばウィルバーの言うことは重大な規律、戒律の違反なのだが――確かにウィルバーの言う通り、この作戦において天原は当てになりそうも無いため、ウィルバーの提案に皆は素直にうなずいた。

    「ヒヒヒ、ウフフフフ……」
     一方、さっさと自分の部屋に戻った天原は一人、ほくそ笑んでいた。
    「いやぁ、楽しみだなぁ。一時はどうなるかと思ったけど、これでようやく天玄に帰れる。もうこんな隠れ家でコソコソしなくて済むと思うと、フ、フヒヒ……、思わずにやけてしまう」
     天原は辺りを見回し、ぱた、と手を叩く。
    「お茶をお願いします」
     だが、いつまで経っても返事が返ってこない。
    「お茶」
     もう一度手を叩くが、反応が無い。
    「……おっと、そうだ。皆さん出払っていました、そう言えば」
     狐耳を撫でつけながら、天原はまた辺りを見回す。
    「面倒臭いなぁ。お茶飲みたいのに」
     しばらく椅子にもたれ、もう一度辺りを見回す。
    「……仕方無い。自分で淹れるか」
     のろのろと立ち上がり、給湯室へと足を進める。
    「あー、教団の人にやってもらってもいいかなぁ? せっかく500人も回してもらったんだし。一人くらい手伝いに来てもらってもいい気がするんだけどなぁ」
     給湯室に続く廊下を進む途中で、天原は地下倉庫と地上とを結ぶ窓に差しかかる。
    「そもそも500人で足りるのかなぁ。もうちょっと、呼んだ方がいいかなぁ」
     倉庫の窓を開け、中を覗きこむ。
    「これがあれば、いくらでも呼べるんだし。もっと増やしてもらっても、いいよねぇ」
     倉庫の床には巨大な魔法陣――黒鳥宮へと連結された「移動法陣」が描かれていた。



    「ねえ、セイナ」
     天玄を囲む壁を一通り確認し終えた後、エルスは晴奈に相談していた。
    「どうした、エルス?」
    「ずっと教団が東側から攻めてきた理由を考えていたんだ。
     で、真っ先に考えたのは壁。もしかしたら東側がもろくなってて、そこから攻め込もうとしてたのかなって」
    「なるほど、出かけたのはそのためか。どうだった?」
    「壁はかなり頑丈にできてた。どこにもひび割れや、もろくなっていたところは無かった」
    「その点は問題無しか。他に理由として考えられるのは?」
     晴奈に尋ねられ、エルスは考察を伝える。
    「恐らく、東側の兵は陽動部隊だ。本命は恐らく、西から来る」
    「根拠は?」
    「それを説明する前に、言っておくことがある。多分、明日か明後日には大雨が降る。リストの持ってる銃士隊は使えなくなる。それから焔の技も」
    「何だと?」
     晴奈は窓の外に目をやり、けげんな顔をする。
    「晴れているではないか」
    「今日はね。でも、風がかなり強い。天候が不安定になる前触れだよ」
    「むう……。お主の言うことが確かであれば、確かに我々には不利に働く」
    「そこに付け入る策を図っていると、僕は読んでいるんだ。で、東側から来たと言う事実と照らし合わせて、一番可能性があるのはそれかな、と」
     エルスの話を聞き、晴奈は首をかしげる。
    「『可能性』、か」
    「うん、まだ確実じゃない。もう少し調べてから結論を出す。とりあえず、現時点での予想は挟み撃ちだ」
     ニコニコと笑うエルスに対し、晴奈は納得できない様子を見せる。
    「……エルス、以前に」
    「うん?」
    「お主は『現状把握よりも行動を優先した方が、物事はうまく運ぶ』と言ったな?」
    「うん、そうだけど?」
    「……あ、いや。何でもない」
    「そっか」
     晴奈はもう一度窓の外を見て、部屋を後にした。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・神算録 1】へ
    • 【蒼天剣・神算録 3】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・神算録 1】へ
    • 【蒼天剣・神算録 3】へ