「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・集僚記 1
フォコの話、259話目。
変わらない頑固者、見違えた兎娘。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
西方の港町、ブリックロードの、とある設計事務所。
「おじちゃん、こんなのどうかな?」
「……毎回頼んでいるが、『おじちゃん』はよしてくれ。仮にも私は、君の上司なのだから」
「いいじゃん。それより見て見て」
濃い銀色をした髪と耳、尻尾の兎獣人にせがまれ、その分厚い眼鏡をかけた短耳は設計図を眺める。
「どう? カッコ良くない?」
「この形状では中央部に、あまりにも剪断(せんだん)力がかかり過ぎる。中規模程度の時化に襲われた途端に、真ん中から破砕してしまうだろう」
「えー、作って見なきゃ分かんないじゃんよー」
弟子の意見に、男は肩をすくめる。
「作らずとも、予測が付く。もっと剛性を高められるよう、修正したまえ」
「むー」
兎獣人の娘は口を尖らせつつ、加筆して返された設計図に目を通す。
「カッコ良いのになぁ」
「何度も言うが、見た目より中身を重視した方がいい。客が必要としているのは利便性であって、装飾ではない」
「んなコト言ったって、おじちゃんのデザインは質素過ぎるんだって。もっとさー……」
と、文句を言いかけたところで、彼女の兎耳がぴょこりと、事務所の入口に向けられた。
「どうした?」
「お客さんっぽいよ」
「そうか。……よっこい、しょ」
男は机から離れ、肩や首をゴキゴキと鳴らしながら、入口に向かった。
それと同時に扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「いらっしゃいませ、ディーズ設計事務所に……」
言いかけたところで、男は言葉を失った。
「……まさか君は」
「お久しぶりです、モーリスさん」
来客者は、フォコだった。
「生きていて何よりだ。また君に会えたことを、嬉しく思うよ」
「ありがとうございます、モーリスさん」
再会を喜びつつ、フォコは事務所内を見渡してみた。
と、机で頭を抱えている兎獣人を見て、フォコは目を見開く。
「あの子が、ペルシェちゃん? 大きくなりましたね」
「そうだ。……頭領に似て、精密さを求める設計でも我を通そうとするから、説得するのに骨が折れる」
「はは……」
と、話題に上ったペルシェが顔を上げ、こちらに振り向く。
「もー、おじちゃんいっつもソレばっかり言うし」
「……これも困りものだ。『所長と呼びなさい』と何度も言っているのだが、一向にそうしてくれない。おかげで商談の時は、いつも赤面させられる」
「……そうですかぁ」
8年前と全く変わらない師匠の姿と、大きく変わったペルシェとを見比べて、フォコは何だか、とても温かく、嬉しい気持ちになった。
「それで、ホコウ君。君が私のところに来たのは、単に生存報告や旧交を温めに来たわけではないだろう? 君の性格から言って、何らかの実利を伴わなければ、旧い知り合いを訪ねようとはしないだろうし」
「流石ですな。実は一つ、問題を抱えとりまして」
フォコは現在直面している案件――サザリーの行方を追っている旨を説明した。
「ふむ……。そのサザリー・エールなる人物は、私としても恐らくは、既に近隣のインディゴ王国なりコニフェル王国なりへ逃れてしまっているだろうと思う。
例えば『大三角形』クラスの権威でも持たない限り、捜索は容易ではないだろうな」
「それです。その権威、作ってしまおうかと思いましてな」
フォコの言葉に、モーリスは顔をしかめた。
「……ホコウ君。いくらなんでも、増上慢に過ぎはしないか?」
「え?」
「なるほど、君の遍歴を聞くに、確かに8年と言う期間を考えれば、常人を大きく超える成長ぶり、拡大ぶりを見せたと認めよう。
だがまだ25の若造だし、その活躍は西方でしたわけではない。排他的かつ同族主義的なきらいのある西方では、そんな経歴は逆効果だ。
君がいくら、北方や南海における活躍や権力を見せ付けたところで、西方では単に嫌われ、追い払われるだけだぞ。もっと自分の身の程を分かって行動すべきだ」
「……分かってますって。確かに、ポッと出の僕がいくらわーわー言うたって、こっちの皆さんは兎耳一つ、ぱたりとも動かしたりせえへんでしょうな。
だから――『ここ』で活躍した人の力、借りさせてもらおうかと思うんです」
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変わらない頑固者、見違えた兎娘。
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西方の港町、ブリックロードの、とある設計事務所。
「おじちゃん、こんなのどうかな?」
「……毎回頼んでいるが、『おじちゃん』はよしてくれ。仮にも私は、君の上司なのだから」
「いいじゃん。それより見て見て」
濃い銀色をした髪と耳、尻尾の兎獣人にせがまれ、その分厚い眼鏡をかけた短耳は設計図を眺める。
「どう? カッコ良くない?」
「この形状では中央部に、あまりにも剪断(せんだん)力がかかり過ぎる。中規模程度の時化に襲われた途端に、真ん中から破砕してしまうだろう」
「えー、作って見なきゃ分かんないじゃんよー」
弟子の意見に、男は肩をすくめる。
「作らずとも、予測が付く。もっと剛性を高められるよう、修正したまえ」
「むー」
兎獣人の娘は口を尖らせつつ、加筆して返された設計図に目を通す。
「カッコ良いのになぁ」
「何度も言うが、見た目より中身を重視した方がいい。客が必要としているのは利便性であって、装飾ではない」
「んなコト言ったって、おじちゃんのデザインは質素過ぎるんだって。もっとさー……」
と、文句を言いかけたところで、彼女の兎耳がぴょこりと、事務所の入口に向けられた。
「どうした?」
「お客さんっぽいよ」
「そうか。……よっこい、しょ」
男は机から離れ、肩や首をゴキゴキと鳴らしながら、入口に向かった。
それと同時に扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「いらっしゃいませ、ディーズ設計事務所に……」
言いかけたところで、男は言葉を失った。
「……まさか君は」
「お久しぶりです、モーリスさん」
来客者は、フォコだった。
「生きていて何よりだ。また君に会えたことを、嬉しく思うよ」
「ありがとうございます、モーリスさん」
再会を喜びつつ、フォコは事務所内を見渡してみた。
と、机で頭を抱えている兎獣人を見て、フォコは目を見開く。
「あの子が、ペルシェちゃん? 大きくなりましたね」
「そうだ。……頭領に似て、精密さを求める設計でも我を通そうとするから、説得するのに骨が折れる」
「はは……」
と、話題に上ったペルシェが顔を上げ、こちらに振り向く。
「もー、おじちゃんいっつもソレばっかり言うし」
「……これも困りものだ。『所長と呼びなさい』と何度も言っているのだが、一向にそうしてくれない。おかげで商談の時は、いつも赤面させられる」
「……そうですかぁ」
8年前と全く変わらない師匠の姿と、大きく変わったペルシェとを見比べて、フォコは何だか、とても温かく、嬉しい気持ちになった。
「それで、ホコウ君。君が私のところに来たのは、単に生存報告や旧交を温めに来たわけではないだろう? 君の性格から言って、何らかの実利を伴わなければ、旧い知り合いを訪ねようとはしないだろうし」
「流石ですな。実は一つ、問題を抱えとりまして」
フォコは現在直面している案件――サザリーの行方を追っている旨を説明した。
「ふむ……。そのサザリー・エールなる人物は、私としても恐らくは、既に近隣のインディゴ王国なりコニフェル王国なりへ逃れてしまっているだろうと思う。
例えば『大三角形』クラスの権威でも持たない限り、捜索は容易ではないだろうな」
「それです。その権威、作ってしまおうかと思いましてな」
フォコの言葉に、モーリスは顔をしかめた。
「……ホコウ君。いくらなんでも、増上慢に過ぎはしないか?」
「え?」
「なるほど、君の遍歴を聞くに、確かに8年と言う期間を考えれば、常人を大きく超える成長ぶり、拡大ぶりを見せたと認めよう。
だがまだ25の若造だし、その活躍は西方でしたわけではない。排他的かつ同族主義的なきらいのある西方では、そんな経歴は逆効果だ。
君がいくら、北方や南海における活躍や権力を見せ付けたところで、西方では単に嫌われ、追い払われるだけだぞ。もっと自分の身の程を分かって行動すべきだ」
「……分かってますって。確かに、ポッと出の僕がいくらわーわー言うたって、こっちの皆さんは兎耳一つ、ぱたりとも動かしたりせえへんでしょうな。
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