「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・集僚記 2
フォコの話、260話目。
死んでもカリスマ。
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2.
フォコの提案に対しても、モーリスはなお相好を崩さない。
「それで、私のところへ? ……だとするなら失望したと言わざるを得ない。君はもっと、客観的に物事を見られる人間だと思っていたのだが。
確かにこの8年間で、私も自分の店を立ち上げ、一定の成功を収めたとは自負している。だがこの西方、いや、この国内の全商人と比較しても、微々たるものでしかない。私より成功した人間は多いし、彼らの方がよほど権力を有している。
今の私はしがない、小さな商店主に過ぎない。頼みにされても、応えきれないよ」
「そらそうでしょうな」
フォコは謙遜したモーリスの言葉を、さらに貶めてみせた。
「僕かて、しょぼくれた商店の力で何とかしようなんて思てません」
「……ちょっと、兄ちゃん」
と、机に向かっていたペルシェが、怒りに満ちた顔で、こちらへ歩いてきた。
「しょぼくれた店って、何だよ? バカにすんなよ、こっちはこれでも、精一杯に仕事してんだ! アンタみたいに大成功したワケじゃないけど、それでも実績はあるんだよ。それをけなすなんて、アンタでも容赦しないぞ!」
「ほな、聞くけど」
フォコも立ち上がり、ペルシェに向き合う。
「君のお父さんと僕、どっちが偉いと思う?」
「……ふざけんなあああッ!」
ペルシェは顔を真っ赤にし、フォコを目一杯殴りつけた。
「うぐっ……」
「ドコまで調子に乗ってるんだ、テメエ! お前みたいな薄汚い狐野郎より、父さんの方が百倍は偉いに決まってんだろうが!
久々に顔を見て懐かしいと思ったけど、もう顔も見たくない! とっとと帰れーッ!」
ペルシェは散々まくし立て、倒れ込んだフォコを、さらに蹴り飛ばそうとする。
それを背後から、モーリスが抑える。
「落ち着きたまえ、ペルシェ! 気持ちは分かるが、落ち着くんだ!」
「ハァ、ハァ……」
羽交い絞めにされ、ようやくペルシェは止まる。
「……ホコウ君。私も失礼ながら、彼女と同意見だ。
君は確かに成功した商人だが、私の中では頭領とは、比較にならない。彼は本当に、西方の風雲児だった男だ。君とは比べるべくもない。
思い上がるのも、大概にしたまえ」
モーリスがそう諭したところで、フォコはよろよろと立ち上がりながら、突然笑い出した。
「……ふふ、あはは、……いいですな、うん。二人とも、おやっさんのこと、今でも誇りに思てくれてるみたいで。
それでこそ、僕の計画がうまく行くっちゅうもんですわ」
「……なに?」
フォコは唇ににじんだ血を拭き取りながら、椅子に座り直した。
「僕かて、自分の身の程は分かっとりますよ。
僕なんかより、おやっさんの方が絶対偉いに決まっとります。僕と同じ年の頃、既に西方商人であの人のことを知らない人なんて、いないくらいやったんですからな。
僕が力を借りたいのんは、ペルシェちゃんでもモーリスさんでもありません。おやっさんの力なんです」
「どう言うことだ……?」
フォコの真意が分からず、モーリス師弟は怪訝な顔をした。
フォコは自分の顔の腫れにも構わず、自分の計画を話し始めた。
「8年経った今でも、おやっさんの存在はお二人に強い影響を与えとります。それは恐らく、特別造船所の皆に限らず、西方で10年以上商人やっとる人にも。
仮に今、おやっさんがこの西方に帰ってきたら、その皆さんはどう反応しはるでしょうか」
「嬉しい」
率直に自分の感想を述べたペルシェに対し、モーリスは冷静に推察する。
「恐らく、今でも影響力は健在だろうな。
仮に死ぬこと無く、今でも商売を続けていれば、今現在アバントが就いている地位にいるのは、彼ではなく頭領だっただろう。それほどの実力と、存在感のある人だった。
端的な意見を述べれば、例えばアバント率いるスパス産業の構成の、その半分は、ジョーヌ海運のものだ。頭領が戻ってきたと知れば、それらの商店・商会は、すぐにでも我々の方へ移るだろう。アバントにしても、恐らく二、三日でその地位を失うことになる」
「でしょう? 今や『新三角形』とまでうわさされとるスパス産業ですら、骨抜きにされる影響力。それを利用せえへん手はありません。
だから今、僕はおやっさんを復活させようかと思うてるんですよ」
「はぁ……?」
ペルシェが口を「へ」の字に曲げる。
「兄ちゃん、ジョーシキって分かってる? 死んだ人は、生き返ったりしないんだよ」
「……ふふ」
フォコは不敵に笑い、こう返した。
「常識知らずは三流の結果しか残せへん。常識をわきまえてようやく、二流の結果が出せる。
せやけど一流はな、自分に都合のええもんを常識に変えてしまえるんや」
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死んでもカリスマ。
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フォコの提案に対しても、モーリスはなお相好を崩さない。
「それで、私のところへ? ……だとするなら失望したと言わざるを得ない。君はもっと、客観的に物事を見られる人間だと思っていたのだが。
確かにこの8年間で、私も自分の店を立ち上げ、一定の成功を収めたとは自負している。だがこの西方、いや、この国内の全商人と比較しても、微々たるものでしかない。私より成功した人間は多いし、彼らの方がよほど権力を有している。
今の私はしがない、小さな商店主に過ぎない。頼みにされても、応えきれないよ」
「そらそうでしょうな」
フォコは謙遜したモーリスの言葉を、さらに貶めてみせた。
「僕かて、しょぼくれた商店の力で何とかしようなんて思てません」
「……ちょっと、兄ちゃん」
と、机に向かっていたペルシェが、怒りに満ちた顔で、こちらへ歩いてきた。
「しょぼくれた店って、何だよ? バカにすんなよ、こっちはこれでも、精一杯に仕事してんだ! アンタみたいに大成功したワケじゃないけど、それでも実績はあるんだよ。それをけなすなんて、アンタでも容赦しないぞ!」
「ほな、聞くけど」
フォコも立ち上がり、ペルシェに向き合う。
「君のお父さんと僕、どっちが偉いと思う?」
「……ふざけんなあああッ!」
ペルシェは顔を真っ赤にし、フォコを目一杯殴りつけた。
「うぐっ……」
「ドコまで調子に乗ってるんだ、テメエ! お前みたいな薄汚い狐野郎より、父さんの方が百倍は偉いに決まってんだろうが!
久々に顔を見て懐かしいと思ったけど、もう顔も見たくない! とっとと帰れーッ!」
ペルシェは散々まくし立て、倒れ込んだフォコを、さらに蹴り飛ばそうとする。
それを背後から、モーリスが抑える。
「落ち着きたまえ、ペルシェ! 気持ちは分かるが、落ち着くんだ!」
「ハァ、ハァ……」
羽交い絞めにされ、ようやくペルシェは止まる。
「……ホコウ君。私も失礼ながら、彼女と同意見だ。
君は確かに成功した商人だが、私の中では頭領とは、比較にならない。彼は本当に、西方の風雲児だった男だ。君とは比べるべくもない。
思い上がるのも、大概にしたまえ」
モーリスがそう諭したところで、フォコはよろよろと立ち上がりながら、突然笑い出した。
「……ふふ、あはは、……いいですな、うん。二人とも、おやっさんのこと、今でも誇りに思てくれてるみたいで。
それでこそ、僕の計画がうまく行くっちゅうもんですわ」
「……なに?」
フォコは唇ににじんだ血を拭き取りながら、椅子に座り直した。
「僕かて、自分の身の程は分かっとりますよ。
僕なんかより、おやっさんの方が絶対偉いに決まっとります。僕と同じ年の頃、既に西方商人であの人のことを知らない人なんて、いないくらいやったんですからな。
僕が力を借りたいのんは、ペルシェちゃんでもモーリスさんでもありません。おやっさんの力なんです」
「どう言うことだ……?」
フォコの真意が分からず、モーリス師弟は怪訝な顔をした。
フォコは自分の顔の腫れにも構わず、自分の計画を話し始めた。
「8年経った今でも、おやっさんの存在はお二人に強い影響を与えとります。それは恐らく、特別造船所の皆に限らず、西方で10年以上商人やっとる人にも。
仮に今、おやっさんがこの西方に帰ってきたら、その皆さんはどう反応しはるでしょうか」
「嬉しい」
率直に自分の感想を述べたペルシェに対し、モーリスは冷静に推察する。
「恐らく、今でも影響力は健在だろうな。
仮に死ぬこと無く、今でも商売を続けていれば、今現在アバントが就いている地位にいるのは、彼ではなく頭領だっただろう。それほどの実力と、存在感のある人だった。
端的な意見を述べれば、例えばアバント率いるスパス産業の構成の、その半分は、ジョーヌ海運のものだ。頭領が戻ってきたと知れば、それらの商店・商会は、すぐにでも我々の方へ移るだろう。アバントにしても、恐らく二、三日でその地位を失うことになる」
「でしょう? 今や『新三角形』とまでうわさされとるスパス産業ですら、骨抜きにされる影響力。それを利用せえへん手はありません。
だから今、僕はおやっさんを復活させようかと思うてるんですよ」
「はぁ……?」
ペルシェが口を「へ」の字に曲げる。
「兄ちゃん、ジョーシキって分かってる? 死んだ人は、生き返ったりしないんだよ」
「……ふふ」
フォコは不敵に笑い、こう返した。
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