「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・集僚記 4
フォコの話、262話目。
死者の復活。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フォコがジョーヌ三姉妹を集めてから、2日後。
マチェレ王国の主要都市に、こんなビラが出回った。
「ジョーヌ海運人材募集 経験不問 希望者はブリックロードのディーズ設計事務所まで」
ビラが出回ったその日のうちに、ブリックロードには大量の人間が集まった。
まだ閉まったままの事務所を前に、職人と思しき者たちが雑談を交わしている。
「あなたも、ジョーヌ海運の募集に?」
「ええ、まあ」
「結構条件いいですもんね。今働いてるところの倍以上の給金だし」
「ですねぇ。こっちなんか、三倍ですよ」
「それに、『あの』ジョーヌ海運だとしたら」
「あ、実は私、昔のジョーヌ海運にいたんですよ」
「お、あなたもですか。……いやぁ、あの頃は良かった。おやっさんが結構乱暴な人でしたけど、基本的に意見を聞いてくれる人でしたからねぇ」
「そうそう。それに比べて、今はねぇ」
「旧海運がスパス産業に吸収されましたけど、そうなってからはもう、給料は減らされるし、仕事はきつくなるしで」
「ええ、本当に。まあ、女房子供を養わないといけませんから、今まで渋々やってましたけど」
と、事務所の扉が開かれる。
「皆さん、お待たせしましたー」
扉を開けて現れたのは、ルーである。
「今から面接を開始しまーす。整理札の番号順に、入ってきてくださーい」
まず、5名が事務所内に通される。
「よう、お前ら」
「……!」
彼らにとって聞き覚えのあるダミ声が、事務所内に響く。
「お、……おやっさん?」
「何だお前ら、オレの顔を忘れたのか?」
ほんのり薄暗い事務所の奥にある机の、その向こうに座っている男を見て、職人たちはビシ、と背筋を糺した。
「い、いえっ」
「……あー、ちっと悪いんだけっども、昔のケガがなーかなか治らなくてな。座ったまんまで話させてもらうが、カンベンな」
「あ、いえ、そんな、恐縮です」
フードと包帯で半ば隠されてはいたが、職人たちが見る限り、その男はクリオ・ジョーヌに間違いなかった。
「本当に、本当におやっさんだった! おやっさんが、戻ってきたぞ!」
「マジかよ……!?」
事務所から慌てて出てきた職人たちの言葉に、事務所を囲んでいた全員がざわめく。
「本当だ! あの話し方もそのまんまだし、俺たちのこと、ちゃんと覚えててくれてた! 間違いなく、あれはおやっさんだよ!」
と、扉の向こうからひょい、とルーが顔を出す。
「次の人、どうぞー」
こんな調子で、2日間かけて面接は行われ、そのほとんどが即日採用となった。
そして同時に、国中に「クリオ・ジョーヌ復活」の報せが飛び交った。
面接を終えて、クリオ? は包帯を取りつつ、隠れていたモールに声をかけた。
「もうええですよ、……うわぁ、のどが気持ち悪い」
「だろうねぇ。あんまりやり過ぎると、その術はのどを傷めるね。……ほい、解除」
包帯を取り終え、その下に隠れていた「魔術頭巾」をはぎ取り、濡れたタオルで顔をゴシゴシと拭く。
そこに現れたのは、フォコの顔だった。
「あー、あー。……水もらえます? まだちょい、のどがいがらっぽくて」
「はい、どうぞ」
ルーに水をもらい、フォコはぺこりと頭を下げた。
「ホンマ、お疲れ様でした。助かりましたわ」
「いえいえ、こちらこそ」
フォコはクリオに変装し、包帯で隠した「魔術頭巾」でルーから職人たちの情報を伝えられつつ、モールの術で声を変えて応対していたのだ。
包帯とフード、そして「頭巾」で耳は隠せたし、机に座りっ放しだったため、身長や尻尾が違うことも十分に隠すことができた。さらに、わざと事務所内を暗めにしていたこともあって、細かい顔の違いは十分に誤魔化すことができた。
そして応募に来た者たちに「間違いなく本人だ」と認識させたことで、後はうわさが一人歩きし、風説上は完全に復活したものとなるだろう――と言うのが、フォコの狙いである。
「でも、こんなの何べんもできないでしょ」
そう尋ねたペルシェに、フォコは肩をすくめる。
「いや、もうこれで終いです。後は僕たちが代理として動けば、それで十分です。
元からおやっさん、南海とこっちとを行ったり来たりしとったんですから、不在でも怪しまれませんしな」
「なーるほーどねー」
感心するプルーネに笑いかけつつ、フォコは応募してきた者たちの履歴を見返す。
「……ええですな。やっぱり半分くらい、いや、7割くらいはスパス系の人らでした」
そうつぶやいたフォコに、ファンが尋ねる。
「もしや、……と思うのですが、ニコル卿」
「なんでしょ?」
「乗っ取りをなさるおつもりで?」
その問いに、フォコは不敵に笑った。
「それも目論んでます。まあ、本来の目的はあくまで、国境を越えられるくらいの影響力作りですけども……」
そこで一旦言葉を切り、フォコは顔を伏せ、ぽつりとこう言った。
「……あいつを許したことはこの8年間、一度もありません」
@au_ringさんをフォロー
死者の復活。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フォコがジョーヌ三姉妹を集めてから、2日後。
マチェレ王国の主要都市に、こんなビラが出回った。
「ジョーヌ海運人材募集 経験不問 希望者はブリックロードのディーズ設計事務所まで」
ビラが出回ったその日のうちに、ブリックロードには大量の人間が集まった。
まだ閉まったままの事務所を前に、職人と思しき者たちが雑談を交わしている。
「あなたも、ジョーヌ海運の募集に?」
「ええ、まあ」
「結構条件いいですもんね。今働いてるところの倍以上の給金だし」
「ですねぇ。こっちなんか、三倍ですよ」
「それに、『あの』ジョーヌ海運だとしたら」
「あ、実は私、昔のジョーヌ海運にいたんですよ」
「お、あなたもですか。……いやぁ、あの頃は良かった。おやっさんが結構乱暴な人でしたけど、基本的に意見を聞いてくれる人でしたからねぇ」
「そうそう。それに比べて、今はねぇ」
「旧海運がスパス産業に吸収されましたけど、そうなってからはもう、給料は減らされるし、仕事はきつくなるしで」
「ええ、本当に。まあ、女房子供を養わないといけませんから、今まで渋々やってましたけど」
と、事務所の扉が開かれる。
「皆さん、お待たせしましたー」
扉を開けて現れたのは、ルーである。
「今から面接を開始しまーす。整理札の番号順に、入ってきてくださーい」
まず、5名が事務所内に通される。
「よう、お前ら」
「……!」
彼らにとって聞き覚えのあるダミ声が、事務所内に響く。
「お、……おやっさん?」
「何だお前ら、オレの顔を忘れたのか?」
ほんのり薄暗い事務所の奥にある机の、その向こうに座っている男を見て、職人たちはビシ、と背筋を糺した。
「い、いえっ」
「……あー、ちっと悪いんだけっども、昔のケガがなーかなか治らなくてな。座ったまんまで話させてもらうが、カンベンな」
「あ、いえ、そんな、恐縮です」
フードと包帯で半ば隠されてはいたが、職人たちが見る限り、その男はクリオ・ジョーヌに間違いなかった。
「本当に、本当におやっさんだった! おやっさんが、戻ってきたぞ!」
「マジかよ……!?」
事務所から慌てて出てきた職人たちの言葉に、事務所を囲んでいた全員がざわめく。
「本当だ! あの話し方もそのまんまだし、俺たちのこと、ちゃんと覚えててくれてた! 間違いなく、あれはおやっさんだよ!」
と、扉の向こうからひょい、とルーが顔を出す。
「次の人、どうぞー」
こんな調子で、2日間かけて面接は行われ、そのほとんどが即日採用となった。
そして同時に、国中に「クリオ・ジョーヌ復活」の報せが飛び交った。
面接を終えて、クリオ? は包帯を取りつつ、隠れていたモールに声をかけた。
「もうええですよ、……うわぁ、のどが気持ち悪い」
「だろうねぇ。あんまりやり過ぎると、その術はのどを傷めるね。……ほい、解除」
包帯を取り終え、その下に隠れていた「魔術頭巾」をはぎ取り、濡れたタオルで顔をゴシゴシと拭く。
そこに現れたのは、フォコの顔だった。
「あー、あー。……水もらえます? まだちょい、のどがいがらっぽくて」
「はい、どうぞ」
ルーに水をもらい、フォコはぺこりと頭を下げた。
「ホンマ、お疲れ様でした。助かりましたわ」
「いえいえ、こちらこそ」
フォコはクリオに変装し、包帯で隠した「魔術頭巾」でルーから職人たちの情報を伝えられつつ、モールの術で声を変えて応対していたのだ。
包帯とフード、そして「頭巾」で耳は隠せたし、机に座りっ放しだったため、身長や尻尾が違うことも十分に隠すことができた。さらに、わざと事務所内を暗めにしていたこともあって、細かい顔の違いは十分に誤魔化すことができた。
そして応募に来た者たちに「間違いなく本人だ」と認識させたことで、後はうわさが一人歩きし、風説上は完全に復活したものとなるだろう――と言うのが、フォコの狙いである。
「でも、こんなの何べんもできないでしょ」
そう尋ねたペルシェに、フォコは肩をすくめる。
「いや、もうこれで終いです。後は僕たちが代理として動けば、それで十分です。
元からおやっさん、南海とこっちとを行ったり来たりしとったんですから、不在でも怪しまれませんしな」
「なーるほーどねー」
感心するプルーネに笑いかけつつ、フォコは応募してきた者たちの履歴を見返す。
「……ええですな。やっぱり半分くらい、いや、7割くらいはスパス系の人らでした」
そうつぶやいたフォコに、ファンが尋ねる。
「もしや、……と思うのですが、ニコル卿」
「なんでしょ?」
「乗っ取りをなさるおつもりで?」
その問いに、フォコは不敵に笑った。
「それも目論んでます。まあ、本来の目的はあくまで、国境を越えられるくらいの影響力作りですけども……」
そこで一旦言葉を切り、フォコは顔を伏せ、ぽつりとこう言った。
「……あいつを許したことはこの8年間、一度もありません」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~