「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・集僚記 5
フォコの話、263話目。
8年ぶりの仇敵。
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5.
フォコは南海で店を立ち上げた時のように、キルシュ流通やネール職人組合、ロクミン大商会から出資を募り、総額5億クラムの資金を集めた。
その資金を元に、フォコは新ジョーヌ海運を創業した。
この動きに最も驚かされ、激しく動揺したのは、他ならぬアバント・スパスである。
「バカな! そんなのは嘘だ! 虚言だ!」
そう叫んではみたものの――誰もいない工場内では、既に手遅れである。
本拠にしていたエカルラット王国、スカーレットヒルの軍需工場から大急ぎでマチェレ王国まで出張り、各都市の事務所や商店、工場を周ったが、どこももぬけの殻と化していた。
元からアバントの経営方針やお小言、叱咤にうんざりしていたところに、「おやっさん」クリオの復活である。元いた職場より非常に良い条件での引き抜きもあって、全員がこれに応じたのだ。
そのためマチェレ国内におけるスパス産業は、完全に操業を停止していた。
「くそ、バカどもめッ! 誰かいないのかッ!」
アバントの怒声は、空しく響くだけだった。
アバントは怒りに任せ、セラーパークの繁華街に向かう。
「ここ、……だったか? こんなに人がいるとは……?」
新ジョーヌ海運の本店となった、元エール商会の商店に乗り込み、事実を確認しようとしたのである。
ほんの数日前まで廃屋となっていた商店は、往年のにぎわいを取り戻しており、人であふれかえっていた。
「……ええい!
どけッ! 邪魔だッ!」
アバントは客たちをかき分け、店に入って怒鳴る。
「この大ウソつきの、詐欺師どもッ! 何がクリオ・ジョーヌ復活だッ! そんなに言うなら本人を出してみやがれーッ!」
その怒鳴り声に、騒がしかった店内は静まり返る。
と――店の奥から、男が現れた。
「おーおー、これはこれは、スパス総裁さんやありませんか」
その姿を目にし、アバントの顔が真っ青になる。
「……ホコウ……!?」
「店に入るなり営業妨害とは、大商会の総裁が聞いて呆れますな。まるでチンピラやないですか」
「き、貴様、生きていたのか!?」
わなわなと震えるアバントを指差し、フォコは周りの丁稚たちに命じる。
「つまみ出しなさい。商売の邪魔ですし、話は僕が、外で聞いときますわ」
「はい」「ただいま」
元スパス産業の丁稚たちに両脇を取られ、アバントはぐいぐいと店の外に引きずり出された。
「離せ! 俺を誰だと思ってる、このクズ共!」
「人の店の者を見るなりクズ呼ばわりとは、器が知れますな」
フォコも店の外に出て、アバントと対峙する。
「……しかし、変わりましたな。見事に禿げてしもて」
「う、うるさい!」
アバントは顔も、禿げた頭も真っ赤にし、フォコに食ってかかる。
「お前だったのか、この詐欺師め! ふざけたことを! クリオは死んだんだ! 人をだまして商売とは、お前の器も……」「死んだ?」
が、フォコは意に介しない。
「死んだってあんた、自分の目でおやっさんの死んだところを、その目でばっちり見たとでも言わはるんですか? そんな侮辱しはるんでしたら、出るとこ出ましょか?」
「……う」
事実、クリオが死んだのを確認したのはフォコ一人だけであるし、その本人がさも生きているかのように、強気に出ているのだから、アバントも自信を持って、「じゃあ訴えてみろ」とは言えない。
「さ、死んだっちゅう証拠、あるんやったら出してみてくれはりますか? 無いんやったら、とっとと帰ってほしいんですけどもな」
「……ホコウうぅ……!」
アバントはギリギリと歯ぎしりするが、それ以上暴れることもできず、踵を返した。
「……覚えていろよ、ホコウ。きっと総帥が、お前を潰してくれるだろうからな」
「『総帥が』ってあんた、ホンマに総裁、一つの組織のリーダーのつもりですか?」
その一言に、アバントの足が止まる。
「おかしい話ですな。現地にいるあんたが、遠い中央の人間を頼りにしはるとか。
総裁とか人に呼ばせとるくせに、まるでガキの使いや。『おかーちゃーん、たすけてーなー、うえーん』みたいな感じがしよるわ」
「ぐ、う……っ」
プルプルと背中を震わせるのを見て、フォコは追い打ちをかけた。
「やるんやったらあんた自身で始末つけたらんかい! おんぶにだっこに肩車されとるような身で、自分のことを『総裁』とか人に呼ばすなや、ヌケサクが!」
「……っ」
アバントは振り返らず、その場を足早に立ち去った。
その直後――店の方から、パチパチと拍手が聞こえてきた。
「ん……?」
振り返ってみると、丁稚たちが並んでフォコに、賞賛を送っている。
「ありがとうございます、副総裁!」
「胸がすっとしました……!」
「あのタコ親父に、あれだけガツンと言ってくれるなんて!」
フォコは苦笑し、店員たちにこう返した。
「……まあ、あのおっさんとのゴタゴタは全部、僕が引き受けたりますわ。せやから皆さん、気にせず商売に精を出してくれたらええですしな。
さ、店に戻ってください。お客さん待たしたらあきませんで」
「はいっ!」
丁稚たちは意気揚々と、店に戻っていった。
それを見送りつつ、フォコはぼそ、とつぶやく。
「ここからが本番や。見とれよ、ケネス。
こっちでもガンガン、お前の牙城を叩いたるからな……!」
火紅狐・集僚記 終
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フォコは南海で店を立ち上げた時のように、キルシュ流通やネール職人組合、ロクミン大商会から出資を募り、総額5億クラムの資金を集めた。
その資金を元に、フォコは新ジョーヌ海運を創業した。
この動きに最も驚かされ、激しく動揺したのは、他ならぬアバント・スパスである。
「バカな! そんなのは嘘だ! 虚言だ!」
そう叫んではみたものの――誰もいない工場内では、既に手遅れである。
本拠にしていたエカルラット王国、スカーレットヒルの軍需工場から大急ぎでマチェレ王国まで出張り、各都市の事務所や商店、工場を周ったが、どこももぬけの殻と化していた。
元からアバントの経営方針やお小言、叱咤にうんざりしていたところに、「おやっさん」クリオの復活である。元いた職場より非常に良い条件での引き抜きもあって、全員がこれに応じたのだ。
そのためマチェレ国内におけるスパス産業は、完全に操業を停止していた。
「くそ、バカどもめッ! 誰かいないのかッ!」
アバントの怒声は、空しく響くだけだった。
アバントは怒りに任せ、セラーパークの繁華街に向かう。
「ここ、……だったか? こんなに人がいるとは……?」
新ジョーヌ海運の本店となった、元エール商会の商店に乗り込み、事実を確認しようとしたのである。
ほんの数日前まで廃屋となっていた商店は、往年のにぎわいを取り戻しており、人であふれかえっていた。
「……ええい!
どけッ! 邪魔だッ!」
アバントは客たちをかき分け、店に入って怒鳴る。
「この大ウソつきの、詐欺師どもッ! 何がクリオ・ジョーヌ復活だッ! そんなに言うなら本人を出してみやがれーッ!」
その怒鳴り声に、騒がしかった店内は静まり返る。
と――店の奥から、男が現れた。
「おーおー、これはこれは、スパス総裁さんやありませんか」
その姿を目にし、アバントの顔が真っ青になる。
「……ホコウ……!?」
「店に入るなり営業妨害とは、大商会の総裁が聞いて呆れますな。まるでチンピラやないですか」
「き、貴様、生きていたのか!?」
わなわなと震えるアバントを指差し、フォコは周りの丁稚たちに命じる。
「つまみ出しなさい。商売の邪魔ですし、話は僕が、外で聞いときますわ」
「はい」「ただいま」
元スパス産業の丁稚たちに両脇を取られ、アバントはぐいぐいと店の外に引きずり出された。
「離せ! 俺を誰だと思ってる、このクズ共!」
「人の店の者を見るなりクズ呼ばわりとは、器が知れますな」
フォコも店の外に出て、アバントと対峙する。
「……しかし、変わりましたな。見事に禿げてしもて」
「う、うるさい!」
アバントは顔も、禿げた頭も真っ赤にし、フォコに食ってかかる。
「お前だったのか、この詐欺師め! ふざけたことを! クリオは死んだんだ! 人をだまして商売とは、お前の器も……」「死んだ?」
が、フォコは意に介しない。
「死んだってあんた、自分の目でおやっさんの死んだところを、その目でばっちり見たとでも言わはるんですか? そんな侮辱しはるんでしたら、出るとこ出ましょか?」
「……う」
事実、クリオが死んだのを確認したのはフォコ一人だけであるし、その本人がさも生きているかのように、強気に出ているのだから、アバントも自信を持って、「じゃあ訴えてみろ」とは言えない。
「さ、死んだっちゅう証拠、あるんやったら出してみてくれはりますか? 無いんやったら、とっとと帰ってほしいんですけどもな」
「……ホコウうぅ……!」
アバントはギリギリと歯ぎしりするが、それ以上暴れることもできず、踵を返した。
「……覚えていろよ、ホコウ。きっと総帥が、お前を潰してくれるだろうからな」
「『総帥が』ってあんた、ホンマに総裁、一つの組織のリーダーのつもりですか?」
その一言に、アバントの足が止まる。
「おかしい話ですな。現地にいるあんたが、遠い中央の人間を頼りにしはるとか。
総裁とか人に呼ばせとるくせに、まるでガキの使いや。『おかーちゃーん、たすけてーなー、うえーん』みたいな感じがしよるわ」
「ぐ、う……っ」
プルプルと背中を震わせるのを見て、フォコは追い打ちをかけた。
「やるんやったらあんた自身で始末つけたらんかい! おんぶにだっこに肩車されとるような身で、自分のことを『総裁』とか人に呼ばすなや、ヌケサクが!」
「……っ」
アバントは振り返らず、その場を足早に立ち去った。
その直後――店の方から、パチパチと拍手が聞こえてきた。
「ん……?」
振り返ってみると、丁稚たちが並んでフォコに、賞賛を送っている。
「ありがとうございます、副総裁!」
「胸がすっとしました……!」
「あのタコ親父に、あれだけガツンと言ってくれるなんて!」
フォコは苦笑し、店員たちにこう返した。
「……まあ、あのおっさんとのゴタゴタは全部、僕が引き受けたりますわ。せやから皆さん、気にせず商売に精を出してくれたらええですしな。
さ、店に戻ってください。お客さん待たしたらあきませんで」
「はいっ!」
丁稚たちは意気揚々と、店に戻っていった。
それを見送りつつ、フォコはぼそ、とつぶやく。
「ここからが本番や。見とれよ、ケネス。
こっちでもガンガン、お前の牙城を叩いたるからな……!」
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NoTitle
このシーンでは、本当にフォコ君自身、胸がスッとしてただろうなぁ、と思います。