「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・回西記 1
フォコの話、264話目。
大商会の威光。
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1.
「あ、ジョーヌ海運の方ですね。おうわさはかねがね」
「どもども」
マチェレ王国―コニフェル王国間、国境監視所。
フォコはランニャとモール、プルーネを連れて、ここを管理する役人と会っていた。
「ちょっとお隣さんへ行きたいんですけども、ええです?」
「どういったご用件でしょうか? あ、手続き上でですね、どうしてもそこだけ、きちんと聞かないといけませんので、ご容赦のほどを」
恐らくこの役人は、ただの一般国民に対しては、こんなへりくだり方などしないだろう。
だがフォコがジョーヌ海運副総裁を名乗り、その証を見せたところ、役人は前述のように、ひどく低姿勢になった。
「ええ、おやっさん……、あー、と、総裁が商売の方、もっかい西方全国へ展開して行こかと仰られまして、僕がその視察に」
「あ、なるほどなるほど、かしこまりました。えーと、まあ、その、本来手続き上でですね、審査などでお時間『など』をいくらかいただくんですけども」
「あー」
フォコはにっこり笑い、一旦ポケットに右手を入れてから握手する。
「これで」
「……ありがとうございます」
役人は手を離すが、右手は拳を握ったままだ。
「では手続き上、通行許可証の発行だけ、ちょっとお時間を取らさせていただきます。少々お待ちくださいませ」
役人は右手を隠し気味に、そそくさと監視所の奥へ消えていった。
「……いくら渡したの、兄ちゃん?」
「2000キュー。こっちの金貨、ちっちゃいの2枚やね」
「案外安いね? もっと渡すもんかと思ってたけど」
「もっぺん帰ってくる時も同額渡すやろし、それで十分やろ」
と、役人がニコニコしながら、許可証を手に戻ってきた。
「はい、ソレイユ様。こちらが皆さんの許可証となります」
「どもども」
フォコの予想していた通り、「ジョーヌ海運」のブランド力は絶大だった。
始業からほんの数日で店舗は大盛況、設計所や造船所はフル稼働の状態となり、その評判はマチェレ王国中に届いていた。
国境通過審査においてもその効果は絶大であり、一般人であれば数週間待たされた上に許可証発行ができるかできないか、優遇を受ける宗教人であっても一両日待たされると言うところを、たったの15分で通過することができた。
「おやっさん様々やな」
「……んでもさ、いつまでお父さんが生きてるって言うつもり? 流石にそんな長く続けてられないし、もしバレたら大変だよ?」
プルーネの質問に、フォコはニヤリと笑う。
「せやね、3ヶ月くらい後かな。
西方中に商売の基盤を築き、いよいよこれからと言うところで突然の悲報。その遺志を娘たちが継いで、……なんちゅうのんは、結構ドラマチックやと思わへん?」
「……ワルいなぁ、兄ちゃんは」
プルーネはクスクスと笑い、フォコの肩をバンバン叩いた。
発起・資金調達から人材募集、開業までをたったの1週間で済ませ、早々に新ジョーヌ海運の経営を軌道に乗せたフォコは、本来の目的――央中恐慌の鍵となる清王朝の後継者、清双葉・三守姉弟と、彼らを連れ回しているサザリーの捜索に乗り出した。
ただし、「自分はサザリー・エールを探している」と公言して回っては、標的のサザリー自身や彼を擁護するスパス側を警戒させることになるし、仮にも「大三角形」の人間を付け狙っていると知れれば、この地での商売に悪影響を及ぼしかねない。
そのため公には、先程の役人に話したように、「西方各地へ営業、および商談に向かう」としている。
国境を抜け、1時間半ほど歩いたところで、一行はコニフェル王国の端に位置する、小さな街に到着した。
「ま、仕事も仕事できちんとこなしとかな、あきませんしな」
「こっちに来たってことは兄ちゃん、リオン家の人にでも会うつもりしてんの? こっちに本拠、あったよね」
プルーネにまた問われ、フォコは小さくうなずく。
「ああ、そやったねぇ。挨拶しとこかな」
「……」
と、二人の後ろにいたランニャが頬を膨らませていることに、モールが気付く。
「どうしたね?」
「どうしたもこうしたもないっ」
ランニャは尻尾を怒らせながら、フォコの後ろ姿をにらんでいた。
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大商会の威光。
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「あ、ジョーヌ海運の方ですね。おうわさはかねがね」
「どもども」
マチェレ王国―コニフェル王国間、国境監視所。
フォコはランニャとモール、プルーネを連れて、ここを管理する役人と会っていた。
「ちょっとお隣さんへ行きたいんですけども、ええです?」
「どういったご用件でしょうか? あ、手続き上でですね、どうしてもそこだけ、きちんと聞かないといけませんので、ご容赦のほどを」
恐らくこの役人は、ただの一般国民に対しては、こんなへりくだり方などしないだろう。
だがフォコがジョーヌ海運副総裁を名乗り、その証を見せたところ、役人は前述のように、ひどく低姿勢になった。
「ええ、おやっさん……、あー、と、総裁が商売の方、もっかい西方全国へ展開して行こかと仰られまして、僕がその視察に」
「あ、なるほどなるほど、かしこまりました。えーと、まあ、その、本来手続き上でですね、審査などでお時間『など』をいくらかいただくんですけども」
「あー」
フォコはにっこり笑い、一旦ポケットに右手を入れてから握手する。
「これで」
「……ありがとうございます」
役人は手を離すが、右手は拳を握ったままだ。
「では手続き上、通行許可証の発行だけ、ちょっとお時間を取らさせていただきます。少々お待ちくださいませ」
役人は右手を隠し気味に、そそくさと監視所の奥へ消えていった。
「……いくら渡したの、兄ちゃん?」
「2000キュー。こっちの金貨、ちっちゃいの2枚やね」
「案外安いね? もっと渡すもんかと思ってたけど」
「もっぺん帰ってくる時も同額渡すやろし、それで十分やろ」
と、役人がニコニコしながら、許可証を手に戻ってきた。
「はい、ソレイユ様。こちらが皆さんの許可証となります」
「どもども」
フォコの予想していた通り、「ジョーヌ海運」のブランド力は絶大だった。
始業からほんの数日で店舗は大盛況、設計所や造船所はフル稼働の状態となり、その評判はマチェレ王国中に届いていた。
国境通過審査においてもその効果は絶大であり、一般人であれば数週間待たされた上に許可証発行ができるかできないか、優遇を受ける宗教人であっても一両日待たされると言うところを、たったの15分で通過することができた。
「おやっさん様々やな」
「……んでもさ、いつまでお父さんが生きてるって言うつもり? 流石にそんな長く続けてられないし、もしバレたら大変だよ?」
プルーネの質問に、フォコはニヤリと笑う。
「せやね、3ヶ月くらい後かな。
西方中に商売の基盤を築き、いよいよこれからと言うところで突然の悲報。その遺志を娘たちが継いで、……なんちゅうのんは、結構ドラマチックやと思わへん?」
「……ワルいなぁ、兄ちゃんは」
プルーネはクスクスと笑い、フォコの肩をバンバン叩いた。
発起・資金調達から人材募集、開業までをたったの1週間で済ませ、早々に新ジョーヌ海運の経営を軌道に乗せたフォコは、本来の目的――央中恐慌の鍵となる清王朝の後継者、清双葉・三守姉弟と、彼らを連れ回しているサザリーの捜索に乗り出した。
ただし、「自分はサザリー・エールを探している」と公言して回っては、標的のサザリー自身や彼を擁護するスパス側を警戒させることになるし、仮にも「大三角形」の人間を付け狙っていると知れれば、この地での商売に悪影響を及ぼしかねない。
そのため公には、先程の役人に話したように、「西方各地へ営業、および商談に向かう」としている。
国境を抜け、1時間半ほど歩いたところで、一行はコニフェル王国の端に位置する、小さな街に到着した。
「ま、仕事も仕事できちんとこなしとかな、あきませんしな」
「こっちに来たってことは兄ちゃん、リオン家の人にでも会うつもりしてんの? こっちに本拠、あったよね」
プルーネにまた問われ、フォコは小さくうなずく。
「ああ、そやったねぇ。挨拶しとこかな」
「……」
と、二人の後ろにいたランニャが頬を膨らませていることに、モールが気付く。
「どうしたね?」
「どうしたもこうしたもないっ」
ランニャは尻尾を怒らせながら、フォコの後ろ姿をにらんでいた。
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