「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・回西記 2
フォコの話、265話目。
見放された総裁。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
一方、フォコに追い払われたアバントは、本拠地であるスカーレットヒルに戻ってきていた。
「くそおぉ……、ホコウの奴め……ッ」
頭の中は怒りで真っ赤に煮えたぎっていたが、ここでケネスにフォコのことを報告するのも、彼に負けたようで悔しい。
何より彼自身に魔力は無いため、誰かに代理で「頭巾」を使って報告してもらう必要があるが、彼の自尊心から言って「火紅にあしらわれた」などと、自分から他人に知らせることなどできない。
「誰がガキの使いだ、くそッ」
怒りを紛らわせようと、ワインを瓶から直接グビグビと飲み込んでいく。
「総裁……。まだ昼間ですよ」
見かねた大番頭がそう忠告するが、基本的にアバントは下の人間を軽く見る性格である。
「あぁ? 昼間だからどうした? この国に『昼間に酒を飲むことを禁ずる』なんて法律は無いぞ!」
「確かにございません。しかし今はまだ、就業時間の最中で……」
「丁稚どもがあくせくあくせく働いてるから、俺も汗水たらして木材でも担げと言うのか?
はっ、この俺を誰だと思ってる!? アバント・スパス総裁だ! この商会で、いいや、この国で一番金持ち、一番偉いんだぞ! 何故俺が、そんなことをしなきゃならんのだッ!」
「いや、別にそんなことまでは……。私が言いたいのはですね、職人たちのやる気に関わりますから、どうか皆の手本、見本になるようにと……」「うるさい、小言野郎ッ!」
アバントは酔いと怒りに任せ、酒瓶を投げる。酒瓶は大番頭の頭をかすめて壁に叩きつけられ、パン、と音を立てて割れた。
「……っ」
「見本だと? ああ、いい見本だろうが、この俺は!?
クズがあくせくゴミみたいに働いてる横で、こうしてお前の言うように、真っ昼間っから酒をグイグイ飲める身分だ! うらやましいだろうが、え!?
早くこの俺のようになれと言う、いい見本じゃないか!」
「……総裁。何か、あったのですか? 戻ってきてからずっと、そんな調子ではありませんか」
大番頭の言葉に、アバントはピク、と体を震わせる。
「……で、出ていけ! さっさと仕事に戻れ!」
「総裁……」
「聞こえなかったのか!? さっさと部屋から出ていけッ!」
「……失礼しました」
取りつく島もなく、大番頭はそそくさと部屋を後にした。
「……くそっ」
アバントは机に足を投げ出し、またワインを飲み始めた。
フォコと対面する前から、スパス産業の業績は悪化していた。
予定されていた北方への武具大量輸出が破算になったことに加え、大金を投じてきた南海から全面的に撤退せざるを得なくなったことで、経営は行き詰りつつあったのだ。
それでなくても、海外資本を笠に着た新参者の上に、経営力の無さを度々露呈してきた、商人としては落第、西方商業網にとって裏切り者同然の男である。
エール商会と旧ジョーヌ海運を吸収し成り上がった直後は、「大三角形」筋をはじめとして何かと持てはやされ、商売の話も引っ切り無しに持ち込まれていたが、設立から8年が経った今、スパス産業は西方の各商会から、半ば村八分にされている状況にあった。
それでもまだ、ケネスから央中に恐慌を起こす計画を聞かされ、それによって発生するであろう利益を分けてもらえると聞かされていたし、事実、大量に残っていた在庫も恐慌発生以後、順調にさばけてきてはいた。このまま穏便に過ごせば、何とか経営を立て直せるだろうと、アバントは安堵していたところだったのだ。
そこに新ジョーヌ海運の登場と引き抜き、フォコからの挑発である。アバントが怒り狂うのも、当然と言えた。
とは言え、不調の原因は自分の身から出た錆である。
セラーパークでフォコと対峙したうわさを聞いた者は、誰一人としてアバントに同情などしなかった。
「いいなぁ、マチェレ王国の奴らは。全員するっと、ここから抜けられて」
「俺たちもできるならしたいよなぁ」
「うんうん」
「あ、そうそう。さっきさぁ、事務所の方行ったらさ」
「何かあったのか?」
「酒くせーんだよ。またタコ総裁が、酒飲んで暴れてやがるんだ。……やってらんねーぜ」
「全くだ。……こっちでもジョーヌ海運からの募集があったらさ、皆で移らねーか?」
「ああ、そうしようそうしよう」
「誰があんなバカのために仕事なんかするかっつーの」
本拠地、スカーレットヒルの工場においても、アバントは皆から見放されていた。
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見放された総裁。
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一方、フォコに追い払われたアバントは、本拠地であるスカーレットヒルに戻ってきていた。
「くそおぉ……、ホコウの奴め……ッ」
頭の中は怒りで真っ赤に煮えたぎっていたが、ここでケネスにフォコのことを報告するのも、彼に負けたようで悔しい。
何より彼自身に魔力は無いため、誰かに代理で「頭巾」を使って報告してもらう必要があるが、彼の自尊心から言って「火紅にあしらわれた」などと、自分から他人に知らせることなどできない。
「誰がガキの使いだ、くそッ」
怒りを紛らわせようと、ワインを瓶から直接グビグビと飲み込んでいく。
「総裁……。まだ昼間ですよ」
見かねた大番頭がそう忠告するが、基本的にアバントは下の人間を軽く見る性格である。
「あぁ? 昼間だからどうした? この国に『昼間に酒を飲むことを禁ずる』なんて法律は無いぞ!」
「確かにございません。しかし今はまだ、就業時間の最中で……」
「丁稚どもがあくせくあくせく働いてるから、俺も汗水たらして木材でも担げと言うのか?
はっ、この俺を誰だと思ってる!? アバント・スパス総裁だ! この商会で、いいや、この国で一番金持ち、一番偉いんだぞ! 何故俺が、そんなことをしなきゃならんのだッ!」
「いや、別にそんなことまでは……。私が言いたいのはですね、職人たちのやる気に関わりますから、どうか皆の手本、見本になるようにと……」「うるさい、小言野郎ッ!」
アバントは酔いと怒りに任せ、酒瓶を投げる。酒瓶は大番頭の頭をかすめて壁に叩きつけられ、パン、と音を立てて割れた。
「……っ」
「見本だと? ああ、いい見本だろうが、この俺は!?
クズがあくせくゴミみたいに働いてる横で、こうしてお前の言うように、真っ昼間っから酒をグイグイ飲める身分だ! うらやましいだろうが、え!?
早くこの俺のようになれと言う、いい見本じゃないか!」
「……総裁。何か、あったのですか? 戻ってきてからずっと、そんな調子ではありませんか」
大番頭の言葉に、アバントはピク、と体を震わせる。
「……で、出ていけ! さっさと仕事に戻れ!」
「総裁……」
「聞こえなかったのか!? さっさと部屋から出ていけッ!」
「……失礼しました」
取りつく島もなく、大番頭はそそくさと部屋を後にした。
「……くそっ」
アバントは机に足を投げ出し、またワインを飲み始めた。
フォコと対面する前から、スパス産業の業績は悪化していた。
予定されていた北方への武具大量輸出が破算になったことに加え、大金を投じてきた南海から全面的に撤退せざるを得なくなったことで、経営は行き詰りつつあったのだ。
それでなくても、海外資本を笠に着た新参者の上に、経営力の無さを度々露呈してきた、商人としては落第、西方商業網にとって裏切り者同然の男である。
エール商会と旧ジョーヌ海運を吸収し成り上がった直後は、「大三角形」筋をはじめとして何かと持てはやされ、商売の話も引っ切り無しに持ち込まれていたが、設立から8年が経った今、スパス産業は西方の各商会から、半ば村八分にされている状況にあった。
それでもまだ、ケネスから央中に恐慌を起こす計画を聞かされ、それによって発生するであろう利益を分けてもらえると聞かされていたし、事実、大量に残っていた在庫も恐慌発生以後、順調にさばけてきてはいた。このまま穏便に過ごせば、何とか経営を立て直せるだろうと、アバントは安堵していたところだったのだ。
そこに新ジョーヌ海運の登場と引き抜き、フォコからの挑発である。アバントが怒り狂うのも、当然と言えた。
とは言え、不調の原因は自分の身から出た錆である。
セラーパークでフォコと対峙したうわさを聞いた者は、誰一人としてアバントに同情などしなかった。
「いいなぁ、マチェレ王国の奴らは。全員するっと、ここから抜けられて」
「俺たちもできるならしたいよなぁ」
「うんうん」
「あ、そうそう。さっきさぁ、事務所の方行ったらさ」
「何かあったのか?」
「酒くせーんだよ。またタコ総裁が、酒飲んで暴れてやがるんだ。……やってらんねーぜ」
「全くだ。……こっちでもジョーヌ海運からの募集があったらさ、皆で移らねーか?」
「ああ、そうしようそうしよう」
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