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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・神算録 3

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    晴奈の話、第105話。
    割と仲良し?

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     翌日、正午過ぎ。
    「なんか今日、肌寒いわね」
     リストが両手を組み、寒そうな様子で晴奈が泊まる部屋にやってきた。
    「コートかなんか無い?」
    「外套か? そこにある、私の羽織で良ければ」
     一人で碁を詰めていた晴奈が壁にかけてある、藍色の羽織を指差す。
    「ちょっと借りるね。……おー、あったかーい」
    「それは良かった。しかし、リストたちは北方の生まれだろう? 寒さには強いと思っていたが」
    「あー、確かに寒いけど、防寒具が充実してるから。今頃だととっくに冬の対策が済んでるくらいだもん。それにアタシ、ちょこっと冷え性だし」
    「ほう」
     晴奈は立ち上がり、リストの手を握ってみる。
    「む……、氷のようだ。そこで座っていてくれ。火をもらってくる」
    「ありがと、セイナ」
     晴奈は給湯室に向かい、火のついた炭を何本か持って戻ってきた。
    「持ってきたぞ。そこの火鉢を部屋の中央に置いてくれ」
    「コレ? よいしょ……、っと」
     火鉢に炭をくべると、間も無く火鉢に置いてあった炭にも火が移り、部屋はじんわりと暖まってきた。
    「はー……、あったかぁい。もーホント、今日寒いのよね」
    「エルスの言では、今日か明日くらいに雨が降ると言っていた」
     晴奈の言葉に、リストは露骨に嫌そうな顔をする。
    「えぇ? この寒いのに雨? 勘弁してよぉ、風邪引いちゃうじゃない」
    「私に言われてもなぁ」
    「それに雨だと、今持ってる銃弾がしけっちゃうかも」
    「エルスもそれは危惧していたな。そこで攻め込まれたら、かなり厳しくなる」
     火鉢にかじりつくように暖を取っていたリストが、晴奈に首を向ける。
    「……エルスエルスって、アンタ気にし過ぎじゃない、エルスのコト?」
    「そうか?」
     きょとんとする晴奈を見て、リストはぷい、と首を戻す。
    「……アタシが気にし過ぎかな。気にしないで、セイナ」
    「ああ、そうする。……リスト、ところで一つ聞くが」
    「何?」
    「エルスのことをどう思っているのだ?」
     聞いた途端、リストの肩と長い耳がビクッと震える。
    「は、はぁ? いきなり何変なコト聞くのよ? あ、あんないっつも笑ってるようなヤツ、気になんかしたコトないわよ、ふんっ」
    「(どう見ても、随分気にかけているようにしか見えないのだが)
     ……そうか。おかしなことを聞いてすまなかった。その、なんだ、……菓子でも持って来ようか?」
    「そ、そうね。もらおっかな、うん」
     二人は一瞬見つめ合い、気まずそうに笑った。



    「ほら、雨が降りそうですよ」
    「そうですね」
     窓の外を嬉々として見つめている天原に対し、ウィルバーはむすっとした顔で茶菓子をむさぼっている。
    (ったく、何でこんな学者崩れの相手なんかしなきゃなんねーんだ)
    「……まずっ」
     と、天原が茶を口に含むなり、大げさな仕草とともに顔をゆがめる。
    「何ですか、この苦さは? 下水じゃないですか、まるで」
    「失礼ですがアマハラ卿、茶はその苦味と言いますか、渋味を楽しむものですよ」
     茶を淹れたウィルバーの従者が、おずおずと返答する。
     すると天原はバン、と茶器を机に叩きつけて反論した。
    「何を馬鹿げたことを! お茶と言うのはもっとこう、甘いものでしょう!?」
    「は……?」
     従者とウィルバーが顔を見合わせ、目配せする。
    (おい、コイツ何言ってるんだ? 茶が甘い? こんなもんだろ、茶の味って)
    (はい、間違いなく。恐らく、いつも飲まれているものは、砂糖を入れておられるのではないかと)
    (……ガキか、コイツは)
     呆れつつも、ウィルバーはこう提案する。
    「じゃあ、砂糖でもお持ちしましょうか」
     しかしこれを聞いて、天原はさらに怒りをあらわにしてきた。
    「砂糖、入ってなかったんですか!? 茶って言うのは普通入ってるもんでしょ、砂糖!
     まったく、こんな一般常識も無いなんて、教主のご子息が聞いて呆れますね!」
     天原の罵倒にウィルバーのこめかみが跳ねるが、拳を堅く握って何とかこらえる。
    (キレんな、俺……。今コイツをボコっても、後で叔父貴に締め上げられるだけだ。こんなくだらねーコトで怒って、何になる)
     ウィルバーは平静を装って、従者に砂糖を持ってくるよう指示した。
    「……すみませんね。配慮が足りませんでした」
    「まあ、いいです。気にしませんよ、僕は心が広いですから」
     天原はふんぞり返り、ウィルバーをあからさまに見下しながら、話題を変えてきた。
    「ところで、ウィルバー僧兵長。一つ、面白い話をしてあげましょうか」
    「……何です?」
     ウィルバーは「面白い話」には思えなかったため、ぶっきらぼうに応じたが、天原は構う様子も無く続ける。
    「1年前、黒鳥宮に北方の諜報員が侵入したことがありましたよね」
    「ええ、そう聞いています」
    「実はですね、現在央南連合軍を直接指揮しているのはなんと、その諜報員らしいのです」
    「へえ?」
     思いもよらない話に、怒り気味だったウィルバーも興味を引かれる。
    「さらにですね、黄海防衛にもその諜報員が絡んでいたとか」
    「何でスパイ風情がそんなコトを……?」
    「何でも、その諜報員の教育に当たったのがあの『知多星』、ナイジェル博士なんだそうで」
     聞きなれない単語に、ウィルバーは首をかしげる。
    「ち、た、……ちた、せい? と言うと?」
    「北方のジーン王国ではですね、武勲を挙げた者には『武星』、優れた研究実績を挙げた者には『知星』の称号が贈られるんですよ。
     で、ナイジェル博士はその『知星』勲章をなんと、8個も持っているんだそうです」
    「『知星』が8個で、『知多星』ですか。アタマ良さそうですね」
    「ええ、彼の半世紀以上に渡る王国軍への参与で、その軍事力は3倍以上になったとも言われています。
     そんな智者が直々に指導した男ですから司令官、戦略家としても、相当な腕前を持っているんでしょう」
    「なるほど。……しかし、そうなると今回の作戦、ちょっともろ過ぎないですか? そんなアタマ良さそうなヤツ相手だと、破られるんじゃないですか?」
     ウィルバーの指摘を受け、天原は「待ってました」と言わんばかりに、ニタニタと笑い出した。
    「そう、そこなんですよ僧兵長! そこが今回の作戦の狙いなんです!」
    「どう言う意味です?」
    「言ったでしょう、今回の指揮官は元諜報員だと! その前歴が、彼の目を狂わせるのです!」
    「諜報員の、前歴が……?」
     天原の言わんとすることがまったく分からず、ウィルバーは詳しく尋ねようとする。
    「それは、どう言う……」「お待たせしました、アマハラ卿。砂糖をお持ちいたしました」
     ところがそこで、従者の邪魔が入ってしまう。
    「ああ、ご苦労様です。
     ……そうですね、詳しい説明はこの、苦々しいお茶を飲んでからにしましょうか」
     天原は砂糖の入った小瓶をつかみ、茶器の中にザラザラと投入していった。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
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