「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・回西記 3
フォコの話、266話目。
「大三角形」との接触。
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3.
フォコたちがコニフェル王国入りしてから3日後。
「では、ヒノキ材20トンと、ブナ材18トンと。後は……」
「防腐剤と接着剤ですね。よろしければ私の方から、問屋を紹介させていただいても?」
「あ、助かります。どうもですー」
フォコは手早く王国の主要都市を回り、資材の買い付けを行っていた。
そして今、商談を交わしているのが、件の「大三角形」の一角――リオン家の一人、茶色い毛並みの兎獣人、サーシャ・リオンである。
「ほな、明日にでもご紹介いただいたとこ、訪ねてみます」
「はい。あ、ちなみにそのお店、私の甥夫婦が経営してるんです」
「ほうほう。あ、そう言えばうちの方でも、総裁の娘さんで、夫婦で農場を経営されてはる人がおりましてな。
僕、『外』の人間なもんであんまり、こっちの慣習と言うか、そう言うのんに疎いんですけども。結構多いんでしょうか、ご夫婦とかご家族で経営されてるとこって」
話は商談から雑談に移り、両者の間にくだけた雰囲気が流れる。
「西方は『家族ぐるみ』の風潮が強いんです。山や深い森が多いせいか、一つの家族、家系が固まって共同生活を営むことが多く、それがそのまま文化になってるんですね。
近年では街道や船なんかで割と拓けてきましたが、それでもソレイユさんの仰っていた通り、家族、一族で固まって店を経営、と言うスタイルが主流ですね。
……でも、そこから考えると特殊ですよね、ジョーヌ海運さんって。失礼ですけど、『狐』で外国人のソレイユさんが、副総裁だなんて」
「総裁とは長年の付き合いなもんで。僕が14歳の丁稚しとった頃から、総裁一家とは懇意にしとりましたし」
「へぇ……。今おいくつでしたっけ、ソレイユさん?」
「25になります」
それを聞いて、サーシャはピコ、と兎耳を揺らす。
「と言うことは11年で、丁稚から副総裁へ? 随分な出世ですね」
その言葉に、フォコは自分が疑われていることを悟る。
しかし、無理に取り繕おうとはせず、フォコはある程度真実を話すことにした。
「……まあ、何ですかね。実を言うてしまえば、ジョーヌ海運の方で、えらい騒ぎがあったんですわ」
「騒ぎ?」
「僕は昔、南海のジョーヌ海運特別造船所っちゅうところにいたんです。ほんで、そこに、……まあ、ある男がおりまして。
そいつは番頭やっとったんですが、総裁の命とその座を狙っとったんですよ。ほんで、ある時ついに、襲われてしまいました」
「襲われた……? でもあなた、ジョーヌ総裁は生きていると」
「まあ、そこから色々あったんですわ。僕も大ケガを負いましたし、本当にもう、僕自身ですら、死んでしまったもんと思てました。
ところがですわ」
フォコはそこから大嘘を立て続けにつき通し、話を作り上げた。
「グス……、なんて感動的な……。本当に、……グスッ、大変だったんですね」
「あ、いえ、そんな」
涙ぐむほど信用した様子を見せたサーシャは、フォコにこんなことを尋ねてきた。
「……グスッ。……失礼しました。
あの、聞いていた感じだと、その番頭をしていた男と言うのは、……もしかして、アバント・スパス氏では?」
「ご存じで?」
「そりゃ、まあ。……今や私たち『大三角形』の敵ですから。
それ以前に、彼自身が経歴を明かして、ジョーヌ海運を買収する理由にしていましたから」
「……何と言ってました?」
サーシャは肩をすくめ、こう答えた。
「……そうですね、こんな感じだったかしら。『自分が尊敬してやまない総裁が亡くなった今、彼の遺志を継げるのは自分しかいない。どうか自分に大義を全うさせてくれ』と」
「……ふざけたことを」
「ええ、お話を伺った今、私もそう思います。
それに何より、彼は参入してきた当初から、西方資本における寄生虫と見なされてきましたし、特に最近では害しか成さない存在。
我々『大三角形』、いえ、西方で活動するすべての商人の、最大の敵と言ってもいい男です」
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「大三角形」との接触。
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フォコたちがコニフェル王国入りしてから3日後。
「では、ヒノキ材20トンと、ブナ材18トンと。後は……」
「防腐剤と接着剤ですね。よろしければ私の方から、問屋を紹介させていただいても?」
「あ、助かります。どうもですー」
フォコは手早く王国の主要都市を回り、資材の買い付けを行っていた。
そして今、商談を交わしているのが、件の「大三角形」の一角――リオン家の一人、茶色い毛並みの兎獣人、サーシャ・リオンである。
「ほな、明日にでもご紹介いただいたとこ、訪ねてみます」
「はい。あ、ちなみにそのお店、私の甥夫婦が経営してるんです」
「ほうほう。あ、そう言えばうちの方でも、総裁の娘さんで、夫婦で農場を経営されてはる人がおりましてな。
僕、『外』の人間なもんであんまり、こっちの慣習と言うか、そう言うのんに疎いんですけども。結構多いんでしょうか、ご夫婦とかご家族で経営されてるとこって」
話は商談から雑談に移り、両者の間にくだけた雰囲気が流れる。
「西方は『家族ぐるみ』の風潮が強いんです。山や深い森が多いせいか、一つの家族、家系が固まって共同生活を営むことが多く、それがそのまま文化になってるんですね。
近年では街道や船なんかで割と拓けてきましたが、それでもソレイユさんの仰っていた通り、家族、一族で固まって店を経営、と言うスタイルが主流ですね。
……でも、そこから考えると特殊ですよね、ジョーヌ海運さんって。失礼ですけど、『狐』で外国人のソレイユさんが、副総裁だなんて」
「総裁とは長年の付き合いなもんで。僕が14歳の丁稚しとった頃から、総裁一家とは懇意にしとりましたし」
「へぇ……。今おいくつでしたっけ、ソレイユさん?」
「25になります」
それを聞いて、サーシャはピコ、と兎耳を揺らす。
「と言うことは11年で、丁稚から副総裁へ? 随分な出世ですね」
その言葉に、フォコは自分が疑われていることを悟る。
しかし、無理に取り繕おうとはせず、フォコはある程度真実を話すことにした。
「……まあ、何ですかね。実を言うてしまえば、ジョーヌ海運の方で、えらい騒ぎがあったんですわ」
「騒ぎ?」
「僕は昔、南海のジョーヌ海運特別造船所っちゅうところにいたんです。ほんで、そこに、……まあ、ある男がおりまして。
そいつは番頭やっとったんですが、総裁の命とその座を狙っとったんですよ。ほんで、ある時ついに、襲われてしまいました」
「襲われた……? でもあなた、ジョーヌ総裁は生きていると」
「まあ、そこから色々あったんですわ。僕も大ケガを負いましたし、本当にもう、僕自身ですら、死んでしまったもんと思てました。
ところがですわ」
フォコはそこから大嘘を立て続けにつき通し、話を作り上げた。
「グス……、なんて感動的な……。本当に、……グスッ、大変だったんですね」
「あ、いえ、そんな」
涙ぐむほど信用した様子を見せたサーシャは、フォコにこんなことを尋ねてきた。
「……グスッ。……失礼しました。
あの、聞いていた感じだと、その番頭をしていた男と言うのは、……もしかして、アバント・スパス氏では?」
「ご存じで?」
「そりゃ、まあ。……今や私たち『大三角形』の敵ですから。
それ以前に、彼自身が経歴を明かして、ジョーヌ海運を買収する理由にしていましたから」
「……何と言ってました?」
サーシャは肩をすくめ、こう答えた。
「……そうですね、こんな感じだったかしら。『自分が尊敬してやまない総裁が亡くなった今、彼の遺志を継げるのは自分しかいない。どうか自分に大義を全うさせてくれ』と」
「……ふざけたことを」
「ええ、お話を伺った今、私もそう思います。
それに何より、彼は参入してきた当初から、西方資本における寄生虫と見なされてきましたし、特に最近では害しか成さない存在。
我々『大三角形』、いえ、西方で活動するすべての商人の、最大の敵と言ってもいい男です」
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