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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・回西記 5

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    フォコの話、268話目。
    フォコの囚われ。

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    5.
     エール本店での会議を終え、皆は三々五々に散る。
     ある者は早々に宿へ戻って床に就き、またある者は今後の商業展開を検討し合い、そしてある者は――。

    「ひっく、ひっく、ぐす……」
     ランニャは歳の近いマフスとイール、そして暇だったレブとランドを伴って、バーに来ていた。
    「ランニャ、呑み過ぎだよ」
     兄のランドがそう諭すが、ランニャはぶるぶると首を振る。
    「ぐすっ、ぐすっ……、いいんだよぅ、呑まなきゃやってらんないよぅ」
    「落ち着いてください、ランニャさん」
     横にいたマフスからもたしなめられるが、却ってランニャの荒れ方がひどくなるばかりだ。
    「うるさいよぉ、どうせあたしは落ち着きがないんだぁ、ふえぇぇん」
    「駄々っ子だな、まるで」
     今度はレブが煽ってみたが、これも火に油を注ぐだけだった。
    「うあーん」
    「……ほっといた方がいいんじゃない?」
     イールの意見に、ランド以外の皆は無言でうなずく。
     しかしランドは、両手で小さく×を作る。
    「そうも行かないよ。この子は自制が利かないから。
     ……ほらランニャ、水。もうお酒はおしまい。ね?」
    「ひっく、ひっく……、ごくごく」
     兄が差し出した水を、ランニャは泣きながら一気にあおった。
    「……お兄ちゃん、優しいな」
    「そりゃ、ね」
     ランドは優しくランニャの頭を撫で、水をもう一杯渡す。
    「よしよし、もうたっぷりお酒は呑んだんだし、次はゆっくりでいいから吐き出しなよ、君の中に溜まってるものを、さ」
    「……お母さんと同じこと言ってる」
    「意識して言ったからね。ほら、僕になら気軽に言えるだろ? 何でも話しなよ」
    「うん……」
     ランニャはようやく落ち着いた様子を見せ、ぽつぽつと話し始めた。
    「お兄ちゃんもさ、あたしがフォコ君のこと、大好きだって知ってるだろ」
    「うん。昔っからべったりだったよね」
    「でさ、何年かぶりに再会して、やったー! ……って思ってたのにさ、あいつ、他の女にばっかりずーっと、目を向けてるんだもん。
     そのくせ、あたしには『うるさい』とか『黙ってろ』とか、つめったいことばーっかり言ってくるし。もうあいつ、あたしのこと、嫌いなんだよ」
    「それは無いよ。彼は嫌いなものは、きっぱりと排除するタイプだ。もし君を嫌っているなら、なんだかんだと言いくるめて、クラフトランドに帰してるさ」
    「……なんか、それだとあたしがド素直なアホみたいじゃん」
    「いやいや、君が素直なんじゃなく、彼が狡猾なんだよ。……まあ、それは置いといて。
     ランニャ、君がずっとずっと昔からホコウのことを好きだったように、ホコウはホコウで、ずっとずっと昔から、ティナさんのことを好きなんだよ。
     君のホコウに対する愛情は、簡単に切り替えられるほど軽いものかい?」
    「……そんなわけ、ないじゃないか」
    「だろう? きっと彼もそれくらい強い愛情を、ティナさんに抱いてる。だからこそ、君がどれほど今、強く押しかけても、彼は見向きもしないだろう。
     彼は8年間、囚われっぱなしなんだよ。ティナさんへの愛と、その感情をどこにも持って行けない自分自身に。
     君が今すべきことは、彼の視界に無理矢理立つことじゃない。囚われたままの彼を解放してやらなきゃいけないんだ。解放されない限り、彼はいつまでも、君の方を向いたりなんかしない。いつまでも、邪険に扱われるままさ」
    「……そう、だよな」
     ランニャはとろんとした目をしながらも、神妙な顔つきで、もう一度水を口に運んだ。
    「……どうすりゃいいんだろう?」
    「そりゃ、一つしかない」
     今度はランドの方が、酒を口に運ぶ。
    「彼の心の整理を、きっちりと付けさせるしかない。
     何の情報も無いから、生きているか、それとも死んでいるのか、判断できないけども――ティナさんがどうなったか、ホコウがちゃんと知り、納得することでしか、整理は付けられない。
     君にできることは、それしかない。ホコウを助けて、ティナさんに会わせてあげるしかないんだ。……そこから、まあ、口説くなりなんなり」
    「……それ、超、難しいじゃんか。愛し合ってる二人が再会を果たしたところに、あたしが無理無理割り込んでいくなんて、邪魔者なだけじゃないか」
     口をとがらせる妹に、ランドは肩をすくめて笑いかけた。
    「僕にもできそうにはないな、それは。……後は、まあ、『二人目』になるとか?」
    「ばーか。それじゃケネスのクズ野郎と一緒じゃんか」
     ランニャはクスクス笑い、ランドにデコピンをぶつけた。
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