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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・回西記 7

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    フォコの話、270話目。
    罠か、善意か?

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     312年、5月24日。
     フォコはランドとファン、ルー、ルシアン、ペルシェを連れ、「大三角形」の会合が行われるフェルミナ王国を訪れた。
    「いや、しかし、緊張しますな、ニコル卿」
    「ええ、確かに」
     西方商業界の大物たちが揃うとあって、フォコもファンも、緊張の色を隠せない。
     そんな二人を和ませようと、ルーがやんわりと尋ねてくる。
    「今日は、誰が来るって?」
    「えーと……。まず、僕が直接会うたサーシャ卿と、それから彼女のお兄さんの、ギュスト・リオン卿。
     それと、二人のお父さんで、リオン商会の総裁である、ルイ=ベルフォード・リオン翁。
     トット商会側からは、総裁のエルフェノーラ・トット媼と、息子さんのアンリ・トット卿とその奥さんのマリー・フィナ氏。
     後は西方のあちこちから、有力な商人が何名か来ると聞いてます」
    「あら」
     返事を聞いて、ルーがにこっと笑う。
    「アンリ君はわたしが小っちゃい頃、会ったことあるわよ。そっかー、そりゃ結婚してるわよねぇ」
    「そら、歳が一緒くらいでしたら、ねぇ」
    「んま、ホコウ君ったら。女性の歳のことなんか、話題に挙げちゃ嫌よ?」
     そう言ってちょん、と背中を突かれ、フォコは妙な声を挙げてしまう。
    「ふひゃぁ!?」
    「クスクス……」
     と、ルシアンもおずおずと口を開く。
    「僕も、リオン翁とトット媼には会ったことがあるよ。まだ、本家の方にいた時。色々と教えてもらったなぁ。……うぅ、そう考えると会い辛いなぁ」
    「まあ、しゃあないでしょう。
     ちゅうか、こうして面と向かって会うチャンスなんて、今の身分ではもう滅多にないんですし、ここで『精一杯再起できるよう頑張ります』とアピールしといた方が、後々ええんとちゃいます?」
    「なるほど、そう言う見方もあるよな……。そうだな、そうしよう」
     頼りなさげなルシアンに、ペルシェが喝を入れる。
    「しっかりしてよ、伯父さん。この中で二番目に歳食ってるくせに」
    「はは……、面目ない」
     と、最も年長者であるファンが、「ふむ……」と短くうなる。
    「どうしました、ファンさん?」
    「あ、いや。……まあ、その。これはあくまで私見でございますが、何だか妙に、うまく行き過ぎているような気も、しないではないのです」
    「え?」
    「私も西方商人の端くれでございますから、彼らの性情はよく存じているつもりです。
     先日ニコル卿も仰っていた通り、西方人と言うのは排他的で、家族主義の人間たちです。仲間内、家族内での信頼関係は非常に厚いものですが、反面、仲間でない者、裏切り者に対しては、非常に冷酷な態度を執る者たちです。
     そんな西方商人の代表、総元締たるリオン家の方が、こんなにも簡単に、つい一月、二月前に店を構えたばかりの我々に、易々と胸襟を開くとは、どうしても腑に落ちんのです」
    「……確かに、それはみょんな話だとは思ったな」
     ファンの意見に、ランドもうなずいた。
    「ホコウ。考えてみれば、彼らにとって僕たちは、丸っきりスパス氏と同じ立場なんじゃないか?」
    「え? ……ふむ」
    フォコはランドの言葉を反芻し、内省する。
    「確かに、店を立ち上げた時の資金は北方や南海、央中からのですし、それはまさに外国資本そのものです。現地で大量に人員を引き抜いたことも、突然現れて西方全国に商売を展開し始めたのも、一緒。
     ランドさんの言う通り、『大三角形』の皆さんからしたら、新たな脅威に見えるでしょうな」
    「だろう? ……これはもしかしたら、罠かも知れないよ。
     ホコウ、今からでもタイカを……」
     言いかけたランドに、フォコは静かに首を振った。
    「何でです?」
    「何でって、罠に対してそのまま飛び込めって言うのかい?」
    「向こうは例え嘘でも、僕たちを信用するポーズを取って、丁重に招待してくれたんです。そこへ武器を手にして会合へ参加するなんて、とんでもなく失礼やないですか。
     形だけでも礼を尽くしてくれたんやったら、僕たちもそれに則るのが礼儀でしょう?」
    「理屈はそうだけど、じゃあ君は、会合の場に足を一歩踏み入れた途端、全身を矢に射抜かれてもいいやって言うのかい?」
    「心配のし過ぎやないですか? そこまで無茶苦茶なことするような人たちやとは、僕には思えませんよ……」
     フォコの意見に、ルシアンたち兄妹はうなずいた。
    「ええ、流石にそこまでするなんて思えないわ」
    「そうだよ。いくらなんでも、考え過ぎだ。第一、今は疎遠になったとはいえ、僕たちエール家の人間もいるんだから、そんな乱暴なんかしやしないさ」
    「……うーん」
     ランドはまだ腑に落ち無さそうな顔をしていたが、それ以上反論しなかった。



     夜になり、フォコたちは会合の場、トット家の別荘を訪ねた。
    「こんばんは、ジョーヌ海運の者です」
    「ようこそいらっしゃいました」
     トット家の使用人たちが出迎え、ほどなく招待主のサーシャも、屋敷の奥から姿を見せた。
    「ようこそ、ソレイユ副総裁。そして、エール家の皆様。それから……、ロックスさんと、ファスタさんでしたか」
    「お招きいただき、光栄の極みです」
     フォコは前言通りに深く頭を下げ、礼を尽くす。
    「そうかしこまらずに。
     ああ、既にリオン、トット両家の当主が奥におります。まだ少し早いですが、良ければ会っていただけますか?」
    「ええ、是非」
     サーシャに先導され、一行は屋敷の奥へと進む。
    「こちらです」
     と、サーシャは大きな扉の手前に立ち、すっと横に引いた。
    「この奥におります。どうぞ」
    「あ、はい」
     促されるままに、フォコたちは扉を開け、中の大広間へと入る。

     と――。
    「ソレイユさん」
     背後から、サーシャの声がかけられた。
    「あなた、バカなの?」
    「……」
     フォコは目の前に並ぶ従者たちと、その手に構えられている弩弓や剣、短槍を見て、肩をすくめた。
    「……だから言ったのに」
     ランドの呆れた声にも振り返らず、フォコは広間の中央に座る二人の、兎獣人の老人――リオン翁と、トット媼を見つめていた。

    火紅狐・回西記 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    うっかり忘れてましたが、8月1日に「火紅狐」の連載一周年を迎えてました。
    「蒼天剣」の時より人気があり、イラストまでいただいて……。
    非常にうれしい限りです。
    これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。
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