「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
火紅狐番外編 その3
フォコの話、のその合間に。
イールの恋心;やさしくしてよ。
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火紅狐番外編 その3
妹を慰めるランドの陰で、イールも憮然とした顔で、酒をあおっていた。
「……ったく、なにが『君にできることはそれしかない』、よぉ。朴念仁のクセして、いっちょまえに色恋語ってんじゃないわよぉ」
「……何故、イールさんは荒れてらっしゃるんでしょうか」
小声でそう尋ねたマフスに、レブはため息交じりで答える。
「イール、何度かランドにアプローチしてるらしいんだよ。でもな、あいつまーったく気付いてないんだよ、自分が好かれてるってことに」
「……まさか? 非常に聡明な方なのに」
「学問とか政治とかには頭が働くみたいだけども、恋愛事に関してはてんで間抜けなんだよ、あいつの頭は。
俺の知る限り、もう4、5回はあいつ、告白されてるんだぜ?」
「……勿体ない話! イールさん、あんなに可憐な方なのに」
「だよなぁ。しかも、分かってない上で、とんでもない切り返し方ばっかりするから、その後いーっつも、イールは泣くんだ」
「泣いてないわよっ」
「まあ、まあ」
顔と目を真っ赤にするイールをなだめつつ、レブはニヤニヤしながら話を続けた。
「ここ最近で、一番ひでーなーって思ったのは……」
西方に来て、2週間ほど経った時のこと。
「ねーぇ、ランドっ」
フォコが東奔西走している間、ランドたちはサザリーの行方を探るため、聞き込みを行っていた。
その日はランドとイールがペアになり、酒場や宿などを回っていたのだが、二人きりの行動であるし、イールにとっては半ばデートの気分になっていた。
「ん、どうしたの?」
「酒場とかもさ、人、集まるけど、お店関係も見てみない? ほら、エール氏って商人だったんでしょ? その筋でうわさを聞いたって人、いるかも知れないわよ?」
「なるほど。その線も探ってみようか」
「じゃあさ、じゃあさ、……えーと、あのお店とか!」
イールが指差した先には、洋服店があった。
「服? なんで?」
「えーと、ほら、逃亡生活するのに、同じ服じゃすぐ汚れて目立っちゃうでしょ? 立ち寄ってるかも知れないし、わりと人が集まるから、見た人もいるんじゃないかなーって」
「……うーん、まあ、うなずけなくはないかな」
イールに押される形で、ランドは店へと入った。
「いらっしゃいませー」
「あ、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」
と、ランドがサザリーのことを尋ねようとしたところで、イールは壁に掛けられた薄手の、白と薄桃色のセーターに目を留めた。
「あ、見て見て見て、ねえ、ランド!」
「な、何?」
「アレ! アレ、可愛くない!?」
「ん、まあ、そうだね。……えっと、それでですね」
ランドは話を続けようとしたが、イールのはしゃぐ様子を見た店員は、ニコニコと笑顔を向けてきた。
「はい、あちらのセーターですね。今、非常に人気なんですよ。春・秋用でちょっと、売り出すには時期が遅めなんですけども、その代わりお安くさせていただいてます。いかがでしょうか?」
「いりません」
話を切り出したかったランドは、それをにべもなく断った。
「イール、今は仕事中だ。
そりゃ確かに可愛いデザインだと思うし、夢中になってしまうのも分からないではない。でもその服を買うのは、仕事を遂行する上で必要なこと?」
「……じゃ、ないけど」
「分かってくれたらいい。
店員さん、今言った通り、僕らは仕事で立ち寄らせてもらったんです。人を探していまして……」
「……で、あんまり悔しいのと欲しいのとで、後でその店に行ったら」
「……売り切れてたのよ。……もぉ、ホントにランドのバカぁー……」
話を聞いていたマフスは、困ったような、同情するような表情を返した。
「ほ、本当に困り者ですね、それは。少しくらい、融通を利かせてもいいと思いますね」
「でしょぉ……」
「……えーと」
と、マフスが恐る恐る、こう尋ねてきた。
「そのお店って、セラーパークの3番街の南端にある『モード・ル・ラパン』ですか?」
「……え、何で知ってんの?」
「わたし、寒がりなんです。ですからセーターが欲しいなと思って、その店に行ったんですよ。
でも、イールさんの方がお似合いになるかと思うので、よろしければ宿に戻ってから、差し上げます」
そう言ってはにかんだマフスに、イールは目を丸くし、続いて潤ませた。
「……いっそ、アンタと付き合おうかしら。あの朴念仁眼鏡より優しいし、思いやりあるし」
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イールの恋心;やさしくしてよ。
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火紅狐番外編 その3
妹を慰めるランドの陰で、イールも憮然とした顔で、酒をあおっていた。
「……ったく、なにが『君にできることはそれしかない』、よぉ。朴念仁のクセして、いっちょまえに色恋語ってんじゃないわよぉ」
「……何故、イールさんは荒れてらっしゃるんでしょうか」
小声でそう尋ねたマフスに、レブはため息交じりで答える。
「イール、何度かランドにアプローチしてるらしいんだよ。でもな、あいつまーったく気付いてないんだよ、自分が好かれてるってことに」
「……まさか? 非常に聡明な方なのに」
「学問とか政治とかには頭が働くみたいだけども、恋愛事に関してはてんで間抜けなんだよ、あいつの頭は。
俺の知る限り、もう4、5回はあいつ、告白されてるんだぜ?」
「……勿体ない話! イールさん、あんなに可憐な方なのに」
「だよなぁ。しかも、分かってない上で、とんでもない切り返し方ばっかりするから、その後いーっつも、イールは泣くんだ」
「泣いてないわよっ」
「まあ、まあ」
顔と目を真っ赤にするイールをなだめつつ、レブはニヤニヤしながら話を続けた。
「ここ最近で、一番ひでーなーって思ったのは……」
西方に来て、2週間ほど経った時のこと。
「ねーぇ、ランドっ」
フォコが東奔西走している間、ランドたちはサザリーの行方を探るため、聞き込みを行っていた。
その日はランドとイールがペアになり、酒場や宿などを回っていたのだが、二人きりの行動であるし、イールにとっては半ばデートの気分になっていた。
「ん、どうしたの?」
「酒場とかもさ、人、集まるけど、お店関係も見てみない? ほら、エール氏って商人だったんでしょ? その筋でうわさを聞いたって人、いるかも知れないわよ?」
「なるほど。その線も探ってみようか」
「じゃあさ、じゃあさ、……えーと、あのお店とか!」
イールが指差した先には、洋服店があった。
「服? なんで?」
「えーと、ほら、逃亡生活するのに、同じ服じゃすぐ汚れて目立っちゃうでしょ? 立ち寄ってるかも知れないし、わりと人が集まるから、見た人もいるんじゃないかなーって」
「……うーん、まあ、うなずけなくはないかな」
イールに押される形で、ランドは店へと入った。
「いらっしゃいませー」
「あ、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」
と、ランドがサザリーのことを尋ねようとしたところで、イールは壁に掛けられた薄手の、白と薄桃色のセーターに目を留めた。
「あ、見て見て見て、ねえ、ランド!」
「な、何?」
「アレ! アレ、可愛くない!?」
「ん、まあ、そうだね。……えっと、それでですね」
ランドは話を続けようとしたが、イールのはしゃぐ様子を見た店員は、ニコニコと笑顔を向けてきた。
「はい、あちらのセーターですね。今、非常に人気なんですよ。春・秋用でちょっと、売り出すには時期が遅めなんですけども、その代わりお安くさせていただいてます。いかがでしょうか?」
「いりません」
話を切り出したかったランドは、それをにべもなく断った。
「イール、今は仕事中だ。
そりゃ確かに可愛いデザインだと思うし、夢中になってしまうのも分からないではない。でもその服を買うのは、仕事を遂行する上で必要なこと?」
「……じゃ、ないけど」
「分かってくれたらいい。
店員さん、今言った通り、僕らは仕事で立ち寄らせてもらったんです。人を探していまして……」
「……で、あんまり悔しいのと欲しいのとで、後でその店に行ったら」
「……売り切れてたのよ。……もぉ、ホントにランドのバカぁー……」
話を聞いていたマフスは、困ったような、同情するような表情を返した。
「ほ、本当に困り者ですね、それは。少しくらい、融通を利かせてもいいと思いますね」
「でしょぉ……」
「……えーと」
と、マフスが恐る恐る、こう尋ねてきた。
「そのお店って、セラーパークの3番街の南端にある『モード・ル・ラパン』ですか?」
「……え、何で知ってんの?」
「わたし、寒がりなんです。ですからセーターが欲しいなと思って、その店に行ったんですよ。
でも、イールさんの方がお似合いになるかと思うので、よろしければ宿に戻ってから、差し上げます」
そう言ってはにかんだマフスに、イールは目を丸くし、続いて潤ませた。
「……いっそ、アンタと付き合おうかしら。あの朴念仁眼鏡より優しいし、思いやりあるし」
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2015.06.01 タイトル表記を修正
2015.06.01 タイトル表記を修正
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