fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    火紅狐番外編 その3

     ←火紅狐・回西記 7 →カウンタ素材;マカロンとシュークリーム
    フォコの話、のその合間に。
    イールの恋心;やさしくしてよ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    火紅狐番外編 その3
     妹を慰めるランドの陰で、イールも憮然とした顔で、酒をあおっていた。
    「……ったく、なにが『君にできることはそれしかない』、よぉ。朴念仁のクセして、いっちょまえに色恋語ってんじゃないわよぉ」
    「……何故、イールさんは荒れてらっしゃるんでしょうか」
     小声でそう尋ねたマフスに、レブはため息交じりで答える。
    「イール、何度かランドにアプローチしてるらしいんだよ。でもな、あいつまーったく気付いてないんだよ、自分が好かれてるってことに」
    「……まさか? 非常に聡明な方なのに」
    「学問とか政治とかには頭が働くみたいだけども、恋愛事に関してはてんで間抜けなんだよ、あいつの頭は。
     俺の知る限り、もう4、5回はあいつ、告白されてるんだぜ?」
    「……勿体ない話! イールさん、あんなに可憐な方なのに」
    「だよなぁ。しかも、分かってない上で、とんでもない切り返し方ばっかりするから、その後いーっつも、イールは泣くんだ」
    「泣いてないわよっ」
    「まあ、まあ」
     顔と目を真っ赤にするイールをなだめつつ、レブはニヤニヤしながら話を続けた。
    「ここ最近で、一番ひでーなーって思ったのは……」



     西方に来て、2週間ほど経った時のこと。
    「ねーぇ、ランドっ」
     フォコが東奔西走している間、ランドたちはサザリーの行方を探るため、聞き込みを行っていた。
     その日はランドとイールがペアになり、酒場や宿などを回っていたのだが、二人きりの行動であるし、イールにとっては半ばデートの気分になっていた。
    「ん、どうしたの?」
    「酒場とかもさ、人、集まるけど、お店関係も見てみない? ほら、エール氏って商人だったんでしょ? その筋でうわさを聞いたって人、いるかも知れないわよ?」
    「なるほど。その線も探ってみようか」
    「じゃあさ、じゃあさ、……えーと、あのお店とか!」
     イールが指差した先には、洋服店があった。
    「服? なんで?」
    「えーと、ほら、逃亡生活するのに、同じ服じゃすぐ汚れて目立っちゃうでしょ? 立ち寄ってるかも知れないし、わりと人が集まるから、見た人もいるんじゃないかなーって」
    「……うーん、まあ、うなずけなくはないかな」
     イールに押される形で、ランドは店へと入った。
    「いらっしゃいませー」
    「あ、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」
     と、ランドがサザリーのことを尋ねようとしたところで、イールは壁に掛けられた薄手の、白と薄桃色のセーターに目を留めた。
    「あ、見て見て見て、ねえ、ランド!」
    「な、何?」
    「アレ! アレ、可愛くない!?」
    「ん、まあ、そうだね。……えっと、それでですね」
     ランドは話を続けようとしたが、イールのはしゃぐ様子を見た店員は、ニコニコと笑顔を向けてきた。
    「はい、あちらのセーターですね。今、非常に人気なんですよ。春・秋用でちょっと、売り出すには時期が遅めなんですけども、その代わりお安くさせていただいてます。いかがでしょうか?」
    「いりません」
     話を切り出したかったランドは、それをにべもなく断った。
    「イール、今は仕事中だ。
     そりゃ確かに可愛いデザインだと思うし、夢中になってしまうのも分からないではない。でもその服を買うのは、仕事を遂行する上で必要なこと?」
    「……じゃ、ないけど」
    「分かってくれたらいい。
     店員さん、今言った通り、僕らは仕事で立ち寄らせてもらったんです。人を探していまして……」



    「……で、あんまり悔しいのと欲しいのとで、後でその店に行ったら」
    「……売り切れてたのよ。……もぉ、ホントにランドのバカぁー……」
     話を聞いていたマフスは、困ったような、同情するような表情を返した。
    「ほ、本当に困り者ですね、それは。少しくらい、融通を利かせてもいいと思いますね」
    「でしょぉ……」
    「……えーと」
     と、マフスが恐る恐る、こう尋ねてきた。
    「そのお店って、セラーパークの3番街の南端にある『モード・ル・ラパン』ですか?」
    「……え、何で知ってんの?」
    「わたし、寒がりなんです。ですからセーターが欲しいなと思って、その店に行ったんですよ。
     でも、イールさんの方がお似合いになるかと思うので、よろしければ宿に戻ってから、差し上げます」
     そう言ってはにかんだマフスに、イールは目を丸くし、続いて潤ませた。
    「……いっそ、アンタと付き合おうかしら。あの朴念仁眼鏡より優しいし、思いやりあるし」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2015.06.01 タイトル表記を修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【火紅狐・回西記 7】へ
    • 【カウンタ素材;マカロンとシュークリーム】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【火紅狐・回西記 7】へ
    • 【カウンタ素材;マカロンとシュークリーム】へ