「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・双老記 1
フォコの話、271話目。
真実をお話しなさい。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
武器を手にした従者たちに取り囲まれ、身動きのできないフォコたちの前に、サーシャが立ちはだかる。
「私の涙が、本物だと思った? 本当にあんなホラ話、信じてもらえたと思ってたの?」
「……」
「調べたところ、あなたの周りには荒事処理に向いていそうな人間が何人もいたみたいだけど、何故ここへ連れて来なかったの?」
「……」
「そんなに私たちのこと、信用していたの? そうだとしても、不用心過ぎない?」
「……」
「質問に答えたら?」
「……」
フォコは何も言わず、じっとサーシャを眺める。
「私の言ってること、分からないのかしら? それとも怯えてるの? あなた、思ってたより……」「よい、サーシャ。下がっていなさい」
と、サーシャの背後にいた兎獣人の、老人の男性が声をかける。
「お父様……」
「その……、金と赤の毛並みの、狐獣人の彼と話がしたい。こちらに連れてきなさい」
「はい」
サーシャは素直に従い、フォコに付いてくるよう促した。
「こっちへ来て」
「……」
フォコも、言われるがままに付いていく。
広間の中央で、豪奢なソファに腰掛けていた兎獣人二人の前に連れて来られたフォコは、深々とお辞儀をした。
「初めまして。ジョーヌ海運副総裁、火紅・ソレイユと申します」
「……」
老人二名はじっとフォコをにらみ、やがてゆっくりと口を開いた。
「お初にお目にかかる。リオン家当主、ルイ=ベルフォード・リオンだ」
「わたくしはトット家の当主、エルフェノーラ・トットと申します」
「……」
そこで言葉が途切れる。
互いに顔を見つめ合った後、口を開いたのはリオン翁だった。
「……初めに聞いておこう、ソレイユ君とやら。
君は副総裁だそうだが、……彼はどこだ?」
「彼、ですか?」
とフォコは尋ねてはみたが、それが誰を指すのかは理解していた。
「あの、猫獣人の騒々しい小男、クリオ・ジョーヌだ。おかしいとは、思わないのかね?」
「……」
「こうしてリオン家、トット家の当主二人が出席するこの会合で、何故トップたる彼ではなく、副総裁、ナンバー2の君がやって来た? 筋が違うと思わんのかね?
それとも……、彼は我々より上の人間だと、君はそう思っているのか?」
「いえ、そんなことは」
「ならば何故、この場にいない? 時間は20日近く与えたはずだ。南海にいると言うなら、魔術師を雇うなり何なりして船を急がせ、この場に到着するよう図るべきではないのか? それだけの余裕も手段も、あっただろう?」
「それは……」
言い訳を考えようとするフォコに、今度はトット媼が尋ねてくる。
「もしできないと言うのなら、前もって、これこれこうした事情により……、と、説明してしかるべきでは? それも怠るとは、よほどわたくしたちを軽く見ているようですね」
「そうでは、ありません」
「では、どう考えていた?
……いや、いい。もう、はっきりと言ってやろう、詐欺師くん」
リオン翁は傍らに立てかけていた杖で、フォコを指した。
「ジョーヌ総裁は、既にこの世におらんのだろう? だからこそ物理的に、ここへ来ることもできないし、心理的にも、彼の不在を我々に通達しようとは思わなかったのだ。
君は彼がいないことを知っている。いないと言うことは、実質のトップ、ナンバー1は他ならぬ君であり、それを知っているが故に、ここに来るべき人間は君自身だと、君は無意識的に考えていたのだろう。
だからこそ、ジョーヌ総裁がここへ来られないことを伝えるのを、怠ってしまったのだ。そうだろう、ゴールドマン君?」
「……っ」
嘘と偽名を看破され、フォコは言葉を失う。
「その金と赤の毛並みで、そこいらの無名の商人だなどとは言わせんよ、『狐』くん。
西方商人の我々にとっては、その毛並みは最も警戒すべき商家、ゴールドマン家の人間である、何よりの証ではないか」
「さあ、真実をお話しなさい。
何の狙いで、死人が生きているように見せかけ、海外資本を注入して、倒れた商会とエール本家から断絶された人間とを復帰させ、西方中を練り歩いたのか。
もうこれより先、嘘は、一切つくことを許しませんよ」
「……」
フォコはすぐには答えられず、じっと黙っていた。
しかし、自分と仲間に無数の武器が向けられ、西方の権力者に文字通り睨まれているこの状況で、話す他にやれるべきことは無い。
「……改めて、自己紹介をさせていただきます」
フォコはもう一度、深々と頭を下げた。
「僕の本当の名前は、ニコル・フォコ・ゴールドマンと申します」
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真実をお話しなさい。
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武器を手にした従者たちに取り囲まれ、身動きのできないフォコたちの前に、サーシャが立ちはだかる。
「私の涙が、本物だと思った? 本当にあんなホラ話、信じてもらえたと思ってたの?」
「……」
「調べたところ、あなたの周りには荒事処理に向いていそうな人間が何人もいたみたいだけど、何故ここへ連れて来なかったの?」
「……」
「そんなに私たちのこと、信用していたの? そうだとしても、不用心過ぎない?」
「……」
「質問に答えたら?」
「……」
フォコは何も言わず、じっとサーシャを眺める。
「私の言ってること、分からないのかしら? それとも怯えてるの? あなた、思ってたより……」「よい、サーシャ。下がっていなさい」
と、サーシャの背後にいた兎獣人の、老人の男性が声をかける。
「お父様……」
「その……、金と赤の毛並みの、狐獣人の彼と話がしたい。こちらに連れてきなさい」
「はい」
サーシャは素直に従い、フォコに付いてくるよう促した。
「こっちへ来て」
「……」
フォコも、言われるがままに付いていく。
広間の中央で、豪奢なソファに腰掛けていた兎獣人二人の前に連れて来られたフォコは、深々とお辞儀をした。
「初めまして。ジョーヌ海運副総裁、火紅・ソレイユと申します」
「……」
老人二名はじっとフォコをにらみ、やがてゆっくりと口を開いた。
「お初にお目にかかる。リオン家当主、ルイ=ベルフォード・リオンだ」
「わたくしはトット家の当主、エルフェノーラ・トットと申します」
「……」
そこで言葉が途切れる。
互いに顔を見つめ合った後、口を開いたのはリオン翁だった。
「……初めに聞いておこう、ソレイユ君とやら。
君は副総裁だそうだが、……彼はどこだ?」
「彼、ですか?」
とフォコは尋ねてはみたが、それが誰を指すのかは理解していた。
「あの、猫獣人の騒々しい小男、クリオ・ジョーヌだ。おかしいとは、思わないのかね?」
「……」
「こうしてリオン家、トット家の当主二人が出席するこの会合で、何故トップたる彼ではなく、副総裁、ナンバー2の君がやって来た? 筋が違うと思わんのかね?
それとも……、彼は我々より上の人間だと、君はそう思っているのか?」
「いえ、そんなことは」
「ならば何故、この場にいない? 時間は20日近く与えたはずだ。南海にいると言うなら、魔術師を雇うなり何なりして船を急がせ、この場に到着するよう図るべきではないのか? それだけの余裕も手段も、あっただろう?」
「それは……」
言い訳を考えようとするフォコに、今度はトット媼が尋ねてくる。
「もしできないと言うのなら、前もって、これこれこうした事情により……、と、説明してしかるべきでは? それも怠るとは、よほどわたくしたちを軽く見ているようですね」
「そうでは、ありません」
「では、どう考えていた?
……いや、いい。もう、はっきりと言ってやろう、詐欺師くん」
リオン翁は傍らに立てかけていた杖で、フォコを指した。
「ジョーヌ総裁は、既にこの世におらんのだろう? だからこそ物理的に、ここへ来ることもできないし、心理的にも、彼の不在を我々に通達しようとは思わなかったのだ。
君は彼がいないことを知っている。いないと言うことは、実質のトップ、ナンバー1は他ならぬ君であり、それを知っているが故に、ここに来るべき人間は君自身だと、君は無意識的に考えていたのだろう。
だからこそ、ジョーヌ総裁がここへ来られないことを伝えるのを、怠ってしまったのだ。そうだろう、ゴールドマン君?」
「……っ」
嘘と偽名を看破され、フォコは言葉を失う。
「その金と赤の毛並みで、そこいらの無名の商人だなどとは言わせんよ、『狐』くん。
西方商人の我々にとっては、その毛並みは最も警戒すべき商家、ゴールドマン家の人間である、何よりの証ではないか」
「さあ、真実をお話しなさい。
何の狙いで、死人が生きているように見せかけ、海外資本を注入して、倒れた商会とエール本家から断絶された人間とを復帰させ、西方中を練り歩いたのか。
もうこれより先、嘘は、一切つくことを許しませんよ」
「……」
フォコはすぐには答えられず、じっと黙っていた。
しかし、自分と仲間に無数の武器が向けられ、西方の権力者に文字通り睨まれているこの状況で、話す他にやれるべきことは無い。
「……改めて、自己紹介をさせていただきます」
フォコはもう一度、深々と頭を下げた。
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