「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・双老記 2
フォコの話、272話目。
目的は、3つ。
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2.
本名を名乗ったフォコに、両当主は小さくうなずいた。
「ニコル、か。原初の大商人と称される、初代ゴールドマン家当主、『金火狐』エリザ・ゴールドマンの実弟と同じ名だな。
ではニコル卿、君は何故、この地へやって来た? 何故、この地で大嘘をつき、商売を立ち上げたのだ?
ホコウ・ソレイユと名乗る君のことを、我々はつぶさに調べた。なるほど、経歴の大部分に嘘は無い。北方でキルシュ流通の大番頭、ナンバー2になり、その後南海において旧ロクシルム商業連合、現ロクミン大商会の結成に立ち会い、そこの顧問に収まった。
その間に、北方で経済復興を成し、南海ではスパス産業を打ち負かし、それぞれで巨額の富と莫大なシェアを獲得――経歴を見るに、君は相当のやり手のようだ。
だが、その後に何故、ここへやって来たのか? その関係性が、今一つつかめない。我々両家の大多数が、『北方、南海と商業網を拡げてきたのだから、その延長線上の行為、即ちここへものうのうと商売網を拡げに来たのだろう』と考えてはいるが、それにしてはやり方が奇抜で、かつ、真実を知れば皆が激怒するようなやり口だ。
聞かせてくれないか、ニコル卿。君の目的は、一体なんだ?」
リオン翁に淡々と尋ねられ、フォコは口を開いた。
「目的は、3つ。
一つは、央南において一国を壊滅状態においやり、その王位継承者を誘拐し、この西方へ逃げ込んだ最低の商人、サザリー・エール氏を捜索するためです」
「ふむ。わたくしたちも、そのうわさは存じています。
誇りある我々『大三角形』の一角、エール家が最早、そこまで没落したのかと、これほど憤り、心の痛む話はありません。商売と呼ぶにはあまりにも卑劣で、残忍で、恥ずべき行いをした彼を、わたくしたちは絶対に、許しはしないでしょう。
そして同時に、彼がスパス産業と通じていると言うことも、存じています。だからこその『スパス潰し』だったのですが、その点においてはあなたと、わたくしたちの利害は一致しますね」
「はい」
「しかし、あなたに何の関係が? この数年ずっと央南で活動していた彼と、何の関わりがあるのですか?」
「それについては、彼から」
フォコはランドを指し示し、話すよう促す。
「……長い裸耳の方、こちらへ」
「はい」
手招きされたランドはフォコの横に立ち、央南での経緯を説明した。
「なるほど。その継承者を連れ戻さない限り、中央における恐慌は止まないと。
ゴールドマン家の方なら、確かに央中での恐慌は憂うべき事態でしょうね。しかしわたくしたちにとっては、単なる特需のきっかけでしかない。彼らを西方から返す義理はありません」
そう返したトット媼に、フォコは首を横に振った。
「いいえ、トット媼。僕は、ゴールドマン家の者ではありません」
「……嘘は、許さないと言ったはずです」
「嘘ではありません。僕はゴールドマン家を、追われた身なんです」
「追われた?」
そう尋ね返され、フォコは自分の経歴を明かした。
「なるほど、現当主のケネス・ゴールドマンが、あなたのご両親を……。そう聞けば、わざわざ北方や南海で立身した説明が付きますね。
なるほど、理由の2つ目が分かりました。あなたは亡きクリオ・ジョーヌの遺した奥方やその縁者が不遇を囲っていたのを不憫に思い、彼らのいる『ジョーヌ海運』を、もう一度立ち上げたかった、……と言うわけですね」
「そうです」
フォコはうなずき、回答した。
「僕の知るジョーヌ海運は、非常に働き甲斐があり、楽しく、社会の役に立つと、深く実感できた職場でした。また、僕の商人としての基礎は、ジョーヌ海運で培ったものです。
そんな大恩あるジョーヌ海運が、アバント・スパスの強欲とケネス・エンターゲートの野心のために吸収され、歪められ、辱められた。僕にはそれが、たまらなく許せなかったんです」
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目的は、3つ。
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2.
本名を名乗ったフォコに、両当主は小さくうなずいた。
「ニコル、か。原初の大商人と称される、初代ゴールドマン家当主、『金火狐』エリザ・ゴールドマンの実弟と同じ名だな。
ではニコル卿、君は何故、この地へやって来た? 何故、この地で大嘘をつき、商売を立ち上げたのだ?
ホコウ・ソレイユと名乗る君のことを、我々はつぶさに調べた。なるほど、経歴の大部分に嘘は無い。北方でキルシュ流通の大番頭、ナンバー2になり、その後南海において旧ロクシルム商業連合、現ロクミン大商会の結成に立ち会い、そこの顧問に収まった。
その間に、北方で経済復興を成し、南海ではスパス産業を打ち負かし、それぞれで巨額の富と莫大なシェアを獲得――経歴を見るに、君は相当のやり手のようだ。
だが、その後に何故、ここへやって来たのか? その関係性が、今一つつかめない。我々両家の大多数が、『北方、南海と商業網を拡げてきたのだから、その延長線上の行為、即ちここへものうのうと商売網を拡げに来たのだろう』と考えてはいるが、それにしてはやり方が奇抜で、かつ、真実を知れば皆が激怒するようなやり口だ。
聞かせてくれないか、ニコル卿。君の目的は、一体なんだ?」
リオン翁に淡々と尋ねられ、フォコは口を開いた。
「目的は、3つ。
一つは、央南において一国を壊滅状態においやり、その王位継承者を誘拐し、この西方へ逃げ込んだ最低の商人、サザリー・エール氏を捜索するためです」
「ふむ。わたくしたちも、そのうわさは存じています。
誇りある我々『大三角形』の一角、エール家が最早、そこまで没落したのかと、これほど憤り、心の痛む話はありません。商売と呼ぶにはあまりにも卑劣で、残忍で、恥ずべき行いをした彼を、わたくしたちは絶対に、許しはしないでしょう。
そして同時に、彼がスパス産業と通じていると言うことも、存じています。だからこその『スパス潰し』だったのですが、その点においてはあなたと、わたくしたちの利害は一致しますね」
「はい」
「しかし、あなたに何の関係が? この数年ずっと央南で活動していた彼と、何の関わりがあるのですか?」
「それについては、彼から」
フォコはランドを指し示し、話すよう促す。
「……長い裸耳の方、こちらへ」
「はい」
手招きされたランドはフォコの横に立ち、央南での経緯を説明した。
「なるほど。その継承者を連れ戻さない限り、中央における恐慌は止まないと。
ゴールドマン家の方なら、確かに央中での恐慌は憂うべき事態でしょうね。しかしわたくしたちにとっては、単なる特需のきっかけでしかない。彼らを西方から返す義理はありません」
そう返したトット媼に、フォコは首を横に振った。
「いいえ、トット媼。僕は、ゴールドマン家の者ではありません」
「……嘘は、許さないと言ったはずです」
「嘘ではありません。僕はゴールドマン家を、追われた身なんです」
「追われた?」
そう尋ね返され、フォコは自分の経歴を明かした。
「なるほど、現当主のケネス・ゴールドマンが、あなたのご両親を……。そう聞けば、わざわざ北方や南海で立身した説明が付きますね。
なるほど、理由の2つ目が分かりました。あなたは亡きクリオ・ジョーヌの遺した奥方やその縁者が不遇を囲っていたのを不憫に思い、彼らのいる『ジョーヌ海運』を、もう一度立ち上げたかった、……と言うわけですね」
「そうです」
フォコはうなずき、回答した。
「僕の知るジョーヌ海運は、非常に働き甲斐があり、楽しく、社会の役に立つと、深く実感できた職場でした。また、僕の商人としての基礎は、ジョーヌ海運で培ったものです。
そんな大恩あるジョーヌ海運が、アバント・スパスの強欲とケネス・エンターゲートの野心のために吸収され、歪められ、辱められた。僕にはそれが、たまらなく許せなかったんです」
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