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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・神算録 4

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    晴奈の話、第106話。
    エルスの急所。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     さらに時間は経ち、夕闇が迫り始めた頃。
    「うーん」
     また、エルスがうなっていた。見かねた晴奈が、背後から尋ねる。
    「どうした?」
    「腑に落ちないんだよねぇ」
    「挟み撃ち、と言う予想がか?」
    「そうなんだよ。確かに推測の域を出ない、って言うことも不安なんだけど、それよりも距離的に問題のある作戦なんだよね」
     迷いがちに話すエルスに、晴奈も同意する。
    「それは私も感じていた。いくら有効な策とは言え、教団にとってはあまりに本拠地から遠いからな」
    「そうなんだよ。彼らの本拠地、黒鳥宮からここまでは、どんなに軽装でも一ヶ月近くはかかる。兵站(へいたん)――補給路や退路、通信網――の問題を考えると、いくらなんでも遠すぎるし。
     だもんで、悩んでるんだ。『何のために東から』って言う、最初の疑問から離れられないんだよね。もうあまり、時間が無いのに……」
    「まあ、焦るな。まだ雨は降っていないし、日も暮れていない。そもそも今日攻めてくるとも限らぬ。
     まだまだ時間はあるはずだ。結論を急ぐこともあるまい」
    「まあ、それもそうなんだけどね。……職業病かなぁ」
     エルスは恥ずかしそうに頭をかきながら笑う。
    「職業病?」
    「元々、諜報員だったからねぇ。敵陣の真っ只中に忍び込む仕事だから、どうしても急いで考える癖が付いちゃうんだよ。
     即判断、即行動でないと、敵に囲まれて袋叩きに遭っちゃう可能性もある」
    「なるほど、それで『理解より行動』か」
    「そう言うこと」



    「と言うわけです」
    「なるほど。それは確かに、スパイらしいと言えばらしいですね」
     少し時間は戻り、天原とウィルバーの会話に戻る。
    「この作戦の本領は、相手に疑念を抱かせることにあります。
     わざと戸惑うような情報を与え、混乱させるわけです。『本当にこんな作戦を取るのか?』と疑心暗鬼にさせる、この点が重要なんですよ。
     さらにですよ、混乱しているところに情報を与えます。これで相手は、我々の意図を見抜く」
    「見抜いちゃまずいじゃないですか」
     驚くウィルバーに対し、天原は人差し指を振る。
    「チッチッチ……、そこなんですよ。そこがこの作戦の、本当に効果的なところなんです。
     例えば僧兵長、あなたが道を歩いていて、その前方に落とし穴があったとしましょう。あなたは直前でそれを見つけた。どうしますか?」
    「そりゃ、避けますよ」
    「そうでしょう? しかし避けた……、いや、避けさせたところにもう一つ、落とし穴があれば?」
    「……!」
     ウィルバーは作戦の真意に気付き、息を呑んだ。
    「相手は急いで判断する性質の人間ですから、こう言う罠には楽しくなるくらい引っかかりますよ。『何故ここに、こんな分かりやすい落とし穴があるのか?』と言う疑念を抱く前に、避けてくれるんですからね、ヒヒヒ……」
     ウィルバーは無言のまま、茶をすする。
    (なるほど……。確かにこりゃ、すげー作戦だ。少なくともオレなら、簡単に引っかかるだろうな。
     学者崩れと甘く見てたが、……まあ、多少は叔父貴の入れ知恵もあるだろうが)
     ウィルバーは天原の狡猾さに、素直に感心した。



     地図を眺めてうなるエルスを放って、晴奈は天玄館を散策していた。
    (……むう)
     窓の外はどんよりと曇り、今にも雨を降らせようと言わんばかりに、雲がゴロゴロと鳴っている。
    (まずいな、これは。本当に今降られて攻め入られては、我々はかなり不利になる)
     晴奈の心にも、不安な黒い雲が覆い始めていた。
    (確かに心配だな。もしここで攻め込まれれば、我々の剣技はその本領を発揮できぬ。リストたちの銃も使い物にならなくなる。敵もなかなか侮れぬな)
     不安でたまらなくなり、晴奈はまたエルスのところに戻った。
    「うーん」
     まだ、エルスはうなり続けている。
    「エルス、お主の言う通りだった。外はいつ、雨が降ってもおかしくない具合になっている」
    「そっか。嫌な予想が当たっちゃったな、はは……」
     いつも笑い顔ですましているエルスも、今回ばかりは力なく笑っている。
    「悩んでいる一番の理由は、対策が講じられないことなんだ。
     こちらの不利は、天気の問題だから仕方が無い。でもその分、何が起こるか推測できるし、把握もしやすいから補助の計画も立てられる。
     だからそっちについては、もう準備を整えるようリストに言ってあるんだ」
    「そうか。それなら多少は安心できるな」
    「だけど敵の出方がはっきりしない。どう言う攻め方をするのか、いまだに確信が持てない。さっきは『挟み撃ちだろう』なんて言ったけれど、もしこれがハズレだったら、大変なことになる」
    「むう……」
     エルスは自信なさげに、もう一つの可能性を語る。
    「他に考えられることとしては、本当に東からじゃなく、西から来るのが主力部隊だと言う可能性。だけどこれも昨日言った通り、地形的な理由で不可解な面がある。
     この謎が解ければ、どうにか対策も講じられるんだけどねぇ」
    「……まあ、少しは気分転換でもしたらどうだ? これ以上一人で煮詰まっていても、解決案は出るまい」
    「ま、そりゃそうだ。……お茶でも飲みに行こうか」
     エルスは肩をポキポキと鳴らし、伸びをした。

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    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
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    ~ Comment ~

     

    どもども、いつもありがとうございます。
    こちらの世界では、銃は魔術より射程距離が短く、
    また、刀剣より威力が無い半端な武器として扱われたり、
    その反面、前述の武器よりも手っ取り早く使える、
    両者のいいところを併せ持った兵器でもある、
    と言う見方もされています。
    魔術が誰にでも使えるわけではない、と言う制約があると、
    ファンタジー世界における銃の存在価値は高まってくるんじゃないかな、と考えています。

    これからが盛り上がりどころです。
    よろしくご清読ください(*゚ー゚)b

     

    ファンタジーで銃の価値をどこに見出すかは難しいですね。グッゲンハイムの世界でも銃はありますけど、そこまでメジャーではない。剣と並ぶ実用性のある武器・・・という位置づけになっていますからね。魔法の概念があると、どこに基軸を置くかが問題になりますよね。どうも、LnadMでした。
    戦いはこれからって感じですね・。
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