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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・双老記 3

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    フォコの話、273話目。
    それほどの力を持ちながら。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「……」「……」
     フォコの答弁に、老人たちは顔を寄せ合い、ボソボソと何かを交わす。
     少しして、リオン翁がフォコに目を向ける。
    「なるほど。一つは、サザリー・エール君の捜索。もう一つは、ジョーヌ海運の復活。君が動いた理由は概ね、分かった。
     だがこんな理由だけでは、君をここから帰すわけには行かん」
    「何故です?」
    「もし、仮に。我々が君の行いを容認し、スパスを潰し、ジョーヌ海運と、こちらにいるエール家の人間が台頭して、新たな『大三角形』を形成できたとしよう。
     その時、我々は大きな問題を抱えることになる。君の息がかかった、新たなエール家とジョーヌ海運と言う、味方ではあるが敵ともなりうる巨大な組織を、我々の中に招き入れることになるからだ。
     君がもし、西方を支配しようと目論む、野心ある商人であるならば、これは我々にとって由々しき事態となる。それは単純に、我々の地位や権威が脅かされると言うだけではない。
     一度門戸を開き、胸襟を許した人間を排斥、排除することは、家族(ファミリー)に重きを置く我々にとっては、とてつもない罪を作ることになるからだ。
     家族を傷付けようと言う者には、我々は断固として制裁を加えなければならない。だが家族に対して制裁を加えることは、同時に我々へも帰ってくる、罰にもなる。
     我々の組織(ファミリー)の掟は、何を置いてもその組織と、組織の人間に対する『信用』、『信頼』なのだ。それを反故にすることは、自分と、そして相手が相互に与え、受けたその『信頼』を踏みにじる行為に他ならぬ。
     西方人は、信じた人間には無償の愛と施し、援助を惜しまない。だが、信じた人間との間にひとたび裏切りが起これば、それはもう、何を以ってしても償えぬ。そしてその結果、血みどろの戦争、殺戮が起こっても、致し方ない。だからこそ、一度信じた人間は、容易には裏切ってはならぬ。それが西方人の考えだ。
     実際、現在の西方では争いが絶えん。西方における国同士の争いの原因は結局のところ、そこに帰結するのだ。遠い遠い昔、外国の力、即ち中央政府やその配下の諸侯、中央商人の力を借りたいくつかの国が、古くから続いてきた西方人同士の信頼関係を破棄した。
     その報いとして、現在の戦争、緊張状態が残っている。この美しい西方の地を愛する我々は、もうこれ以上、同じ西方人の間で、余計な争いを増やしたくは無いのだ。
     そこで私たちは、君に問うてきた。君は果たして、我々に害のない存在なのか? 君は果たして、新たな争いを持ち込みはしないか? そして、果たして我々に、利益をもたらしてくれる、信じるに値する存在なのか? と。
     私たちが知りたいのは、そこだ。今まで聞かされてきたのは、結局は君の側の利益に関わるものだけだ。聞かせてもらおう、君の言う、3つ目の理由を。
     それがもし、我々の側の利益につながらない、結局は君たちの都合による話であれば、もうこれ以上、会話を交わす意味は無い」
     そう言って、リオン翁は杖の先をひょい、と挙げる。
     従者たちが3名、フォコとランドの方へ、武器を構えたまま近付いてきた。
    「死にはしないまでも、気を失う程度には痛め付けさせてもらおう。それをニコル卿、君が我々についてきた数々の嘘の代償としよう。
     その後君たちを箱に詰め、港まで運ぶ。そのまま何らかの荷物と一緒に紛れさせる形で、国外へと退去してもらうぞ」
    「……っ」
     そんな目に遭えば、下手をすれば箱詰めのまま死んでしまう。ランドとフォコは、ゴクリと固唾を呑んだ。
    「それが嫌、と言うのであれば、わたくしたちが十分納得の行く説明をなさい。
     さあ、話しなさい。あなたが西方を訪れた、3つ目の理由を」
    「……」
     トット媼に問われ、フォコはもう一度固唾を呑む。
    「喉が、乾きましたか?」
    「……ええ」
    「水でも?」
    「いいえ。話を終えてから、いただきます」
     フォコは額に浮かんだ汗を袖で拭い、自分の信念を語った。

    「僕には、個人的な希望や恨み、仲間の幸せや生活、組織の維持と成長など、色んな課題や使命、欲望、あるいは期待が、非常に数多く、この身に寄せられています。
     確かにそれは、解決し、維持していくべきものです。今日を生き、自分と周りの生活を保ち、向上させるために、どうしても継続しなければならないことです。
     しかし目先の問題の解決に追われ、自分の周りばかりの現状維持に努めることが、果たして、……僭越ながら、北方や南海で大きな成功を収め、何十万、あるいは百万、二百万に上る人間の生活と命運を担う立場となった僕の、やることだろうか、と。
     苦難を乗り越え、危急を脱し、成功と名声、富を積み上げる毎に、僕の中でそうした思いは、強まっていきました」
    「……」
     両大老は、黙ってフォコの言葉を聞いている。
    「烏滸がましい考えかも知れませんが、僕はこの数年間の商売で、既に力を手に入れている。その気になれば、世界の進む方向、方角を――ほんのわずか、1度か、2度かだけでも――変える力を。
     それほどの力を持ちながら、僕は、ただ欲望と野望を満たすためだけに、己の人生を生きていいのか、と。
     もっと、より多くの人々のために、その人たちが豊かに、楽しく、明るく暮らせるために、その力を行使すべきなのではないか、と。
     そう自問し続けています」
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