「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・双老記 4
フォコの話、274話目。
そのお願いのために。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
トット媼が口を開く。
「つまり、世界平和のために、ここへ来たと?」
「少し……、違います。引き続き、もう少し詳しく、話をさせていただくことを、ご容赦ください」
フォコはぺこ、と頭を下げ、話を続けた。
「確かにトット媼、仰る通り僕の最終的な目標は、世界の平和になるでしょう。ですが、ただいたずらにそれを唱えるだけで、何ができるでしょうか?
こうして口を開き、しゃべることは、無料、無償でできる。しかし、そうであるが故に、力など無い。ただ『平和を目指しましょう』と言うだけで、誰が世界を平和にできるでしょうか?
重い荷を運ぶ人間に、ただ『頑張れ』などと言ったところで、何の助けにもならない。本当に助けになることは、その荷を一緒に持ってやること。それか、荷を運ぶ車を買ってやるか。
本当に人を助けるには、筋力なり、財力なりの、『力』がいる。その力を、僕は商会と言う形で手に入れてきました。……ですが、今の僕には」
フォコはそこで言葉を切り、隣に立つランドの肩を叩いた。
「親友であり、真に世界の行く末を憂う義士、ランド・ファスタ卿の考える世界平和――寡数の人間によっていいように操られ、世界各地の、数千万に上る数の人間をことごとく不幸に陥れる中央政府を打倒し、新たな世界秩序を築き上げる。
その崇高な理念を実現させてやれるだけの力は、まだ僕にはありません。もっと、力が必要なのです」
「……そこで、我々を吸収し、自分の力にしようと?」
そう尋ねたリオン翁に、フォコは静かに首を振って否定した。
「それのどこが、『平和』と言えます? 誰かを傷付けてまで、自分の考えを無理無理推し進める自分勝手な人間に、『平和』を唱える資格なんて!
僕はそんな乱暴な方法で、世界平和なんか目指したいと思いません。味方になってくれるかも知れない、少なくともこうして話を最後まで聞いていただけるような、礼を尽くしていただける方に、刃を向けるようなことは絶対に致しませんし、その用意も一切しなかった。
もしもあなたが、徹頭徹尾、僕たちを完全に敵と断定し、最初から対立されていたら、その通りではありませんが。流石の僕も、明らかな敵――世界平和などどうでもいい、自分の身と利益だけがすべて、他人はすべて獲物かゴミ――そんな輩に対しては、真っ向から攻勢に出ますから。
こちらからも問わせていただきます。あなた方は、どちらです? 自分の利益が大事な方ですか? それとも、世界にあまねく皆の平和と利益を願う方ですか?
もし後者であるなら、是非とも力を貸していただきたい。そのお願いのために、僕はここへ来たのです」
「……」
話を終えたフォコを、両大老はじっと見つめていた。
やがてトット媼が、ゆっくりと口を開いた。
「……質問を受けておいて、さらに質問を重ねるのは失礼かと思いますが、一つだけ。
あなたは……、本当は、エール家の人間ではないのですか?」
「いいえ……?」
思っても無い質問をされ、フォコはきょとんとする。
「そうですか、……そうでしょうね。
しかし、既視感を感じずにはいられません。ねえ、ルイ?」
「ああ。確かに私も、同じ男の姿を、この金と赤の狐獣人に見た」
「……?」
首をかしげたフォコに、ようやく老人たちは笑いかけてくれた。
リオン翁が立ち上がり、従者たちに命じる。
「晩餐の支度を。少しばかり夜は更けたが、まだ二日酔いをしない程度にはディナーを楽しめる時間だからな」
「かしこまりました」
フォコたちを囲んでいた従者は武器を下ろし、ささっと広間から出て行った。
と、トット媼が従者の一人を呼ぶ。
「ちょっと、いいかしら」
「はい」
「水をニコル卿に差し上げてちょうだい。長々とお話されて、喉がひどく乾いてらっしゃるでしょうからね」
「かしこまりました」
「それから、ご来賓の皆さんに席を。ずっと立ちっぱなしにさせてしまいましたからね」
「はい」
警戒が解かれ、フォコたち一行は揃って、安堵のため息を漏らした。
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そのお願いのために。
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4.
トット媼が口を開く。
「つまり、世界平和のために、ここへ来たと?」
「少し……、違います。引き続き、もう少し詳しく、話をさせていただくことを、ご容赦ください」
フォコはぺこ、と頭を下げ、話を続けた。
「確かにトット媼、仰る通り僕の最終的な目標は、世界の平和になるでしょう。ですが、ただいたずらにそれを唱えるだけで、何ができるでしょうか?
こうして口を開き、しゃべることは、無料、無償でできる。しかし、そうであるが故に、力など無い。ただ『平和を目指しましょう』と言うだけで、誰が世界を平和にできるでしょうか?
重い荷を運ぶ人間に、ただ『頑張れ』などと言ったところで、何の助けにもならない。本当に助けになることは、その荷を一緒に持ってやること。それか、荷を運ぶ車を買ってやるか。
本当に人を助けるには、筋力なり、財力なりの、『力』がいる。その力を、僕は商会と言う形で手に入れてきました。……ですが、今の僕には」
フォコはそこで言葉を切り、隣に立つランドの肩を叩いた。
「親友であり、真に世界の行く末を憂う義士、ランド・ファスタ卿の考える世界平和――寡数の人間によっていいように操られ、世界各地の、数千万に上る数の人間をことごとく不幸に陥れる中央政府を打倒し、新たな世界秩序を築き上げる。
その崇高な理念を実現させてやれるだけの力は、まだ僕にはありません。もっと、力が必要なのです」
「……そこで、我々を吸収し、自分の力にしようと?」
そう尋ねたリオン翁に、フォコは静かに首を振って否定した。
「それのどこが、『平和』と言えます? 誰かを傷付けてまで、自分の考えを無理無理推し進める自分勝手な人間に、『平和』を唱える資格なんて!
僕はそんな乱暴な方法で、世界平和なんか目指したいと思いません。味方になってくれるかも知れない、少なくともこうして話を最後まで聞いていただけるような、礼を尽くしていただける方に、刃を向けるようなことは絶対に致しませんし、その用意も一切しなかった。
もしもあなたが、徹頭徹尾、僕たちを完全に敵と断定し、最初から対立されていたら、その通りではありませんが。流石の僕も、明らかな敵――世界平和などどうでもいい、自分の身と利益だけがすべて、他人はすべて獲物かゴミ――そんな輩に対しては、真っ向から攻勢に出ますから。
こちらからも問わせていただきます。あなた方は、どちらです? 自分の利益が大事な方ですか? それとも、世界にあまねく皆の平和と利益を願う方ですか?
もし後者であるなら、是非とも力を貸していただきたい。そのお願いのために、僕はここへ来たのです」
「……」
話を終えたフォコを、両大老はじっと見つめていた。
やがてトット媼が、ゆっくりと口を開いた。
「……質問を受けておいて、さらに質問を重ねるのは失礼かと思いますが、一つだけ。
あなたは……、本当は、エール家の人間ではないのですか?」
「いいえ……?」
思っても無い質問をされ、フォコはきょとんとする。
「そうですか、……そうでしょうね。
しかし、既視感を感じずにはいられません。ねえ、ルイ?」
「ああ。確かに私も、同じ男の姿を、この金と赤の狐獣人に見た」
「……?」
首をかしげたフォコに、ようやく老人たちは笑いかけてくれた。
リオン翁が立ち上がり、従者たちに命じる。
「晩餐の支度を。少しばかり夜は更けたが、まだ二日酔いをしない程度にはディナーを楽しめる時間だからな」
「かしこまりました」
フォコたちを囲んでいた従者は武器を下ろし、ささっと広間から出て行った。
と、トット媼が従者の一人を呼ぶ。
「ちょっと、いいかしら」
「はい」
「水をニコル卿に差し上げてちょうだい。長々とお話されて、喉がひどく乾いてらっしゃるでしょうからね」
「かしこまりました」
「それから、ご来賓の皆さんに席を。ずっと立ちっぱなしにさせてしまいましたからね」
「はい」
警戒が解かれ、フォコたち一行は揃って、安堵のため息を漏らした。
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