「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・双老記 5
フォコの話、275話目。
問題が残っています。
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5.
従者が持ってきた水を一気に呷り、フォコは両大老にぺこりと頭を下げた。
「お許しいただき、誠に痛み入ります」
「うむ。我々も、思うところがあったものでな」
そう答えたリオン翁はフォコに手招きし、同時にまだ硬直したままのルーとルシアンを呼び寄せた。
「椅子が遅いな。もう少し立ったままで話をさせてもらうことを、ご容赦願いたい」
「あ、いえ、そんな」
「ニコル卿。君はセブス……、セバスチャン・エール翁と会ったことがあるのか?」
そう問われ、フォコはきょとんとする。
「いいえ。何故です?」
「そうか、会ったことも無く、先程の所信を語ったのか。驚かされたな、本当に」
「ええ、確かに」
トット媼も同意し、自分たちがフォコを許した理由を語った。
「ルシアン・エール。プラチナ・エール。君たちは、セブスのことを覚えているか?」
「ええ、勿論です」
うなずくエール兄妹に、リオン翁はニヤリと笑って見せた。
「さっきの、ニコル卿の言葉。どう思った?」
そう問われ、ルシアンはもう一度うなずく。
「……僕もびっくりしてるんです。親父がいつか言っていたこと、そのまんまだったので」
「え?」
話の流れが分からず、フォコとルーは目を白黒させるばかりである。
と、そこへようやく、3人が並んで座れる程度の長椅子と、真っ赤なワインが運ばれてきた。
「お待たせした。さあ、かけてくれ。
と……、話の続きだが、かつて先代エール家当主、セバスチャン・エール卿は、『大三角形』の力を、広く世界に行使することはできないかと考えていた。
そう、ニコル卿、君の言った通り、強い権力を持った我々が、単に西方の経済循環を維持するだけで、大商家の役割を果たしているのかと、疑問に思っていたのだ」
それを聞いて、フォコは驚いた。
「それは、確かにさっき、僕が言ったことと、すごく良く似ていますね」
「うむ。……だが残念ながら、彼からその話を聞いた当時の我々は、もっと内々にしか目を向けていなかったのだ。
不安定な世界情勢に対し、我々が選んだのは組織の保身だった。余計な争いに身を投じず、この『大三角形』の維持を選んだのだ。
しかし……、その結果はどうだったか? セブス亡き後のエール家はあっと言う間に、死に体になってしまった。『大三角形』崩壊のその余波は我々をも襲い、西方経済全体の停滞、後退をも招いた。
さらにあの鼻持ちならぬスパス産業の台頭に関しても、我々は組織を維持するために、またも保身を選んだ。その結果、増長したスパスは西方内の商店や工場を次々に買い叩き、我々の商業網を蝕んでいった。
この二度の危機でようやく、我々は悟ったのだ。組織の維持のためには、ただ嵐をやり過ごそうとするだけ、身を守っているだけでは駄目なのだ、と」
「しかし今のわたくしたちでは、どうしても『攻め』ができないのです。
老いたわたくしやルイでは、組織の現状維持が精一杯。わたくしたちの子供も、何十年も西方のやり方で続けてきた分、急な方針転換ができない。かと言って今現在、若手に組織全体の方向性をガラリと換え、成長させられるような人材も無し。
悔しいことに、現実の問題として、わたくしたちだけでスパス産業を、そして背後にいるエンターゲート氏を西方から追い出すことはできないのです」
「そこへニコル卿、君の出現だ。
さっきも述べた通り、我々にとって君は、非常に不気味な存在だったのだ。我々の中には、これを三度目の危機、蝕まれつつある西方経済に追い打ちをかける者、と考える者も少なくなかった。
しかし、エルを初めとして、君は現状を打開する救世主になるかもしれない、と考える者もいた。そこで私たちは、君を試したのだ。
結果、君は私とエルが思っていたよりも、ずっと素晴らしい見識の持ち主であることが分かった。是非とも、我々の計画――『スパス潰し』に協力してもらいたい」
「ありがとうございます」
と、フォコはそこで頭を下げたが――。
「……ただ、一つだけ問題が残っています」
そこでまた、両大老が表情を曇らせた。
「あなたは西方に対し、大きな嘘をついたまま。それは、お忘れになっては困るわ」
「……う」
「恐らく君は、……そうだな、二ヶ月か、三ヶ月か経った辺りで、ジョーヌ氏死亡のうわさを流し、ルシアン君かプラチナ君、もしくはジョーヌ氏の娘さん辺りを、新たな総裁に立てようと考えていたのではないか?」
「……仰る通りです」
フォコの返答に、リオン翁は非難の目を向けた。
「そこだ。君は嘘をつき過ぎる。極めて悪い性根だ。その不義だけは、改めてほしい。
不義によって、エール家は没落したのだからな」
そう言って、両大老はルシアンに――かつてはエール家の後継者と目されていた男に、目を向けた。
火紅狐・双老記 終
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問題が残っています。
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5.
従者が持ってきた水を一気に呷り、フォコは両大老にぺこりと頭を下げた。
「お許しいただき、誠に痛み入ります」
「うむ。我々も、思うところがあったものでな」
そう答えたリオン翁はフォコに手招きし、同時にまだ硬直したままのルーとルシアンを呼び寄せた。
「椅子が遅いな。もう少し立ったままで話をさせてもらうことを、ご容赦願いたい」
「あ、いえ、そんな」
「ニコル卿。君はセブス……、セバスチャン・エール翁と会ったことがあるのか?」
そう問われ、フォコはきょとんとする。
「いいえ。何故です?」
「そうか、会ったことも無く、先程の所信を語ったのか。驚かされたな、本当に」
「ええ、確かに」
トット媼も同意し、自分たちがフォコを許した理由を語った。
「ルシアン・エール。プラチナ・エール。君たちは、セブスのことを覚えているか?」
「ええ、勿論です」
うなずくエール兄妹に、リオン翁はニヤリと笑って見せた。
「さっきの、ニコル卿の言葉。どう思った?」
そう問われ、ルシアンはもう一度うなずく。
「……僕もびっくりしてるんです。親父がいつか言っていたこと、そのまんまだったので」
「え?」
話の流れが分からず、フォコとルーは目を白黒させるばかりである。
と、そこへようやく、3人が並んで座れる程度の長椅子と、真っ赤なワインが運ばれてきた。
「お待たせした。さあ、かけてくれ。
と……、話の続きだが、かつて先代エール家当主、セバスチャン・エール卿は、『大三角形』の力を、広く世界に行使することはできないかと考えていた。
そう、ニコル卿、君の言った通り、強い権力を持った我々が、単に西方の経済循環を維持するだけで、大商家の役割を果たしているのかと、疑問に思っていたのだ」
それを聞いて、フォコは驚いた。
「それは、確かにさっき、僕が言ったことと、すごく良く似ていますね」
「うむ。……だが残念ながら、彼からその話を聞いた当時の我々は、もっと内々にしか目を向けていなかったのだ。
不安定な世界情勢に対し、我々が選んだのは組織の保身だった。余計な争いに身を投じず、この『大三角形』の維持を選んだのだ。
しかし……、その結果はどうだったか? セブス亡き後のエール家はあっと言う間に、死に体になってしまった。『大三角形』崩壊のその余波は我々をも襲い、西方経済全体の停滞、後退をも招いた。
さらにあの鼻持ちならぬスパス産業の台頭に関しても、我々は組織を維持するために、またも保身を選んだ。その結果、増長したスパスは西方内の商店や工場を次々に買い叩き、我々の商業網を蝕んでいった。
この二度の危機でようやく、我々は悟ったのだ。組織の維持のためには、ただ嵐をやり過ごそうとするだけ、身を守っているだけでは駄目なのだ、と」
「しかし今のわたくしたちでは、どうしても『攻め』ができないのです。
老いたわたくしやルイでは、組織の現状維持が精一杯。わたくしたちの子供も、何十年も西方のやり方で続けてきた分、急な方針転換ができない。かと言って今現在、若手に組織全体の方向性をガラリと換え、成長させられるような人材も無し。
悔しいことに、現実の問題として、わたくしたちだけでスパス産業を、そして背後にいるエンターゲート氏を西方から追い出すことはできないのです」
「そこへニコル卿、君の出現だ。
さっきも述べた通り、我々にとって君は、非常に不気味な存在だったのだ。我々の中には、これを三度目の危機、蝕まれつつある西方経済に追い打ちをかける者、と考える者も少なくなかった。
しかし、エルを初めとして、君は現状を打開する救世主になるかもしれない、と考える者もいた。そこで私たちは、君を試したのだ。
結果、君は私とエルが思っていたよりも、ずっと素晴らしい見識の持ち主であることが分かった。是非とも、我々の計画――『スパス潰し』に協力してもらいたい」
「ありがとうございます」
と、フォコはそこで頭を下げたが――。
「……ただ、一つだけ問題が残っています」
そこでまた、両大老が表情を曇らせた。
「あなたは西方に対し、大きな嘘をついたまま。それは、お忘れになっては困るわ」
「……う」
「恐らく君は、……そうだな、二ヶ月か、三ヶ月か経った辺りで、ジョーヌ氏死亡のうわさを流し、ルシアン君かプラチナ君、もしくはジョーヌ氏の娘さん辺りを、新たな総裁に立てようと考えていたのではないか?」
「……仰る通りです」
フォコの返答に、リオン翁は非難の目を向けた。
「そこだ。君は嘘をつき過ぎる。極めて悪い性根だ。その不義だけは、改めてほしい。
不義によって、エール家は没落したのだからな」
そう言って、両大老はルシアンに――かつてはエール家の後継者と目されていた男に、目を向けた。
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