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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・確執記 3

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    フォコの話、278話目。
    スパス産業の台頭。

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    3.
     指を折られ、散々袋叩きに遭い、その上拘束されたまま、南海の無人島にほっぽり出されたアバントを回収したのは、他でもないケネスだった。
    「これはこれは。ナイスミドルが見る影もない」
     応急処置を受け、甲板に寝かされていたアバントの姿を見下ろし、ケネスは薄笑いを浮かべている。
    「ゼェ……、ゼェ……」
    「どうだね、スパス君。療養も兼ねて、このまま西方へ戻っておくか? 今さらナラン島に戻っても仕方あるまい?」
    「そ……そう、ですね……」
     その返答を聞き、ケネスはニヤリと笑った。
    「そうか。なら、都合がいい」
    「つ、都合です、か?」
    「そうだな……。半年ばかり向こうで活動し、ジョーヌ海運を買収しておいてくれ」
     そう命じられ、アバントは目を丸くした。
    「ば、ばい、しゅう?」
    「そうだ。さっきの砲撃で、クリオ・ジョーヌとお付きの有象無象は死んだはずだ。となれば、西方の、そして南海に展開されているジョーヌ海運は、どうなるか?
     カリスマ的存在の総裁が不在となれば、海運の経営はままならん。3ヶ月もすれば、どうごまかしても不在の影響は濃くなる。お前の怪我が治るくらいの頃には、ジョーヌ海運の操業は完全停止、経営破綻は確実だ。
     海運に残された丁稚ども、職人どもはただ右往左往、座して死すのを待つばかりの状態だ。そこでお前が、『自分がジョーヌの代わりになる』と名乗りを上げ、実績を挙げれば、半年で海運はお前のものになる」
    「し、しかし、クリオが、いないとは言え、ほ、他にも、実力のある、奴は、いますよ。お、俺なんかが、て、手を、挙げたところで、どうにも……」
    「だから実績を挙げれば、と言っただろう? 私の話が理解できないのか?」
     ケネスは馬鹿にしたような目を向けつつ、ジョーヌ海運奪取の算段を伝えた。
    「まずは向こうで、商会を立ち上げろ。人員と資金は、私が都合してやる。その後で、大口の仕事を回す。
     それで勝手に、実績は挙がる。過程はどうあれ、稼ぐ人間が総裁になると宣言して、誰が文句を言うというのだ?」
    「なる……ほど」
     アバントは血まみれの顔をたどたどしく拭きながら、改めてケネスの計略と力に恐れ入った。

     ケネスの言葉通り、ジョーヌ海運から独立してスパス産業を立ち上げ、半年もする頃には、海運の人間は誰もアバントに対抗・反発できなくなっていた。
     アバントの成すがままにジョーヌ海運は解体・買収され、アバントは西方商業界の、新たな急先鋒となった。



     その急激な成長に最も警戒したのは、他ならぬルシアンである。
     妹からアバントの凶状を聞き及んでいたし、西方商人の間ではタブーとされていた、海外資本による西方内での経営展開を押し通した、「大三角形」の権威と商業網に、真っ向から対立する男だったからだ。
    「どう対抗すべきかな、エールの若旦那?」
     スパス産業の台頭を受け、「大三角形」の主要人物、特に次代を担うと目されている者たちが集い、どう対応するか、協議を行うこととなった。
    「若旦那なんてそんな、ははは……。まあ、それはさておき」
     当然、この場にはルシアンもおり、その場にいた誰もが彼を、正当な次期エール家当主として扱っていた。
    「僕の意見としては、やはりスパス産業には、厳しい態度を執るべきかと思うね」
    「ほう?」
     ルシアン同様、次期リオン家当主になるだろうとうわさされているギュスターヴ・リオン、通称ギュストは、ルシアンの意見に首をかしげた。
    「意外だな。君のことだから、協調路線を執るかと思っていたが」
    「少し思うところがあってね」
    「思うところとは?」
     ギュストにそう問われ、ルシアンは口を開きかけた。
    「え、っと……」
     しかし、その「思うところ」――可愛い妹の、その夫の死にアバントが関わっており、そのため強い不快感を覚えていることなど、口に出すことはできない。
     何故ならその夫とは、アバント以前に西方で嫌われていた外国商人、クリオ・ジョーヌその人のことであり、その彼と縁者であることが発覚すれば、ルシアン、そしてエール家の信用は急落するからだ。
     優柔不断で、どちらかと言えば臆病な面があり、さらに次期当主と目され、その家督と権威を一身に背負う身となったルシアンに、その事実を告白し、さらにそれを逆手にとって皆の同情と信用を得ようなどと言う離れ業は、到底できるはずもなかった。
    「……そうだな、まあ、僕の近しい知人と言うべきか、そんな感じの人間からも、あまりいいうわさを聞いてないからね。
     それに何より、我々『大三角形』の、最大の敵となろうとしている。今のうちに手を打たなければ……」「最大の敵、だと?」
     自論を通そうとしたルシアンに、場の奥にいたリオン翁が声を上げた。
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