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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・確執記 5

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    フォコの話、280話目。
    305年の三者会談。

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    5.
     呆れ返るミシェルに、ケネスはなおも自説を述べ続ける。
    「まあ、お聞きいただきたい。聞いていただければその道程、完全掌握の筋道は、自ずと分かるでしょう。
     先程も申し上げた通り、私の計画上、央中商人たちが存在し、商売をし続けていることは、非常に邪魔になる。そして一方で、央南と西方も奪取したいと考えている。となれば、同時進行で進めてみてはどうか、……と」
    「同時進行?」
     尋ね返したミシェルに対し、ケネスはニヤリと笑って見せた。
    「央南の中央政府名代である清家の当主、清一富王は凡愚ながら野心を持つ、取り入るには好都合の存在。彼を操り、央中に対して多額の債務を負わせます。
     そして彼に挙兵させ、確実に負けるであろう戦い、……そうですな、中央政府打倒などに向かわせて、央南を壊滅させるのです」
    「……」
     何と言うことのない、世間話でもするかのような口調で、世界の一地域を崩壊させようと提案するケネスに、ミシェルは強い嫌悪感を覚えた。
    「なるほど、君の言いたいことは分かった。名代であれば、絶大な信用を持っているからな。多少乱暴で強引な取引をしても、支払い能力は十分にあると判断される。
     その『絶対に潰れない取引先』を潰し、債権者となった央中商人たちを軒並み破産させると言うことか」
    「その通り」
    「もう一度言おう。君は、馬鹿げている。正気だとは思えない」
     ミシェルは大きく横に首を振り、この計画を否定する。
    「その清王朝、いくらなんでもそこまで愚鈍ではないだろう。
     中央政府打倒などと言う話からして、あまりにも非現実的だ。よしんば、その与太話をカズトミとか言うバカ殿が信じたとして、一体どれだけ借金を負わせるつもりだ? 30億クラムか? それとも50億? そんな額を、国王の裁量だけで動かせるわけがないだろう? 動かすには、その周りの大臣たちをも巻き込まねばならない。大臣なのだから、有識者でないはずが無い。間違いなく彼らは、そんな馬鹿げた浪費をさせないよう、制止するはずだ。
     そんな話など、実現するわけがない。私の弟のように、太陽を第三の月と信じ込ませるような弁舌の持ち主でもいない限りはな」
    「ええ。だからこそ、私はあなたにお話を持ちかけたのです」
    「……なんだと?」
     思いもよらない返答に、ミシェルはきょとんとする。

     それと同時に、閉め切っていたドアからノックの音が聞こえてきた。
    「入りたまえ」
    「へへ、どうも失礼しますよ、ケネスさん、それから兄さんも」
     入ってきたのは、話題に上ったそのサザリーだった。
    「既に、サザリー君は私の計画に賛同してくれています。是非とも、一国の王様をだましてみたいと申し出てくれました」
    「サザリー、お前……!」
     立ち上がりかけたミシェルの両肩に手をやりながら、サザリーはへらへらと笑いかけた。
    「まあまあ、面白い話じゃないか、兄さん。
     この計画が成功すれば、僕たちは中央大陸の三分の一を、とても一国の価格とは思えない、とんでもない安値で買えるんだよ? その利益たるや、この西方大陸での稼ぎをはるかに超えるはずだ。
     世界一は勿論、ケネスさんに譲るとしても、世界で二番目の大商人に、僕たちがなれるんだよ?」
    「道理を考えろ、サザリー! 世界の一地域を丸ごと潰して掌握するなど、中央政府が許すものか! 必ず何のかんのと理由をつけ、報復に出る!
     いいやそれ以前に、例えお前でも、央南の有識者陣を全員だまして浪費させるなど、到底できるものか!」
    「おや、これはおかしなことを。あなたは、弟のサザリー君ならできると仰っていたではないですか」
     そう突っ込んだケネスを、ミシェルはキッとにらみ付けた。
    「言葉の綾だ! 現実を考えれば、できるはずが……」「ところが現実は、あなたが思っていたよりも軟弱だったのですよ」「……どう言う意味だ?」
     ケネスはいやらしい笑みを浮かべ、サザリーにあごを向ける。
     それを受けて、サザリーは嬉しそうに話し始めた。
    「うん、僕は既に一度、央南に渡り、向こうの王様に会ってきたんだ。耳寄りな話があるって言って」
    「な……」
     目を丸くしたミシェルに畳み掛けるように、サザリーは話を続ける。
    「ケネスさんの人脈とコネで、面会できたんだよ。で、話をつけて、もう既に一件、6200万クラムをツケさせてるんだ。
     この調子だと、数年で目標額の30億にすぐ達しますよ、ケネスさん」
    「ご苦労。……と言うわけです、ミシェル卿。
     案ずるより産むが易し、と言うやつですな。あなたが無理だ、できないと諦める話を、我々はとっくに実行に移し、易々と成功させている。
     これに乗らないとは、『投機のミシェル・エール』の名が廃りますよ」
    「う……」
     そこでケネスは立ち上がり、卓の向かい側に座るミシェルに、ずい、と顔を近づけた。
    「それにミシェル卿。今、あなたが狙っているものを手に入れるチャンスも、私は提供するつもりですよ」
    「狙っている……、もの?」
     それを聞いて、ミシェルはまた、けげんな顔をした。
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