「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・確執記 6
フォコの話、281話目。
家族主義、組織主義の衝突。
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6.
双月暦305年――エール家にとってこの年は、3つの不幸が連なった年であった。
そのうちの1つが、セブス・エール翁の死であることは言うまでもないが、残る2つは――。
「ルシアン。何故、私が怒っているか、分かっているかね?」
「いえ……」
ルシアンはリオン翁から呼び出され、「大三角形」の主要人物たちの居並ぶ前に一人立たされ、審問を受けることとなった。
「僕が、何か怒らせてしまうようなことを?」
「そうだとも。君は私に対して、いや、『大三角形』として深く、強い絆で結ばれた皆に対して、やってはならぬことをした。それが何か、分かるかね?」
「……分かりません」
そう答えたルシアンに、リオン翁はふう……、と深いため息をついた。
「そうか、身に覚えがないと言うのだな、ルシアン。
……私は、密かに君の身辺を探らせていた」
「えっ」
目を丸くするルシアンに、リオン翁はこう続けた。
「何故、こんなことをしたか、だが。
君の不穏かつ不適切、不相応な発言――スパス氏を『最大の敵』と称したことが、あまりにも気にかかったためだ。
温厚な君が、明確な敵意を発したのは一体、何故か? それを、探らせていたのだ」
「それは……」
弁明しようとしたところで、リオン翁が杖の先を、がつっ、と苛立たしげな音を立てて床に叩き付けた。
「私の話に異議があると言うのなら、私が話し終えてからにしてもらおうか」
「……は、はい」
縮こまったルシアンをにらみつつ、リオン翁は調査結果を述べた。
「何週間か前に、君の所へ身を寄せた人間が、4名いることが分かった。1名は、長らく行方知らずになっていた、プラチナ・エールだと言う。
それだけをとれば、何とも感動的な話だ。私としても、彼女のことは気にかけていたからな。だが、彼女には3人の娘がいた。そこから、話がおかしくなってくる」
「……」
「その娘3名は、どうやらあの、クリオ・ジョーヌとの子供らしいな」
リオン翁の暴露に、審問の場は騒然となった。
「ジョーヌ……!?」
「まさか、彼とつながりが?」
「初耳だぞ!」
それらの声に対し、リオン翁は深々とうなずいてみせた。
「私もだ。そして皆の反応を見て分かる通り、それはまったくもって喜ばしいことではない。何故ならジョーヌ氏は、西方の人間ではないからだ。
プラチナは、大変なことをしでかしてしまった。『大三角形』は西方のためのものであり、外の人間のためのものではない。西方人にとっては外界からの侵略・侵入を阻む壁であるはずの我々の中に、あろうことか外国人を引き入れたのだ。
こんなことは到底、容認できるはずが無い! プラチナは、我々の関係に深いひびを入れたのだ! これはもう、大罪を犯したと言っても過言ではない」
妹を悪しざまに罵られ、温和なルシアンも流石に嫌悪感を覚える。
「そんな言い方、ないでしょう」
「何を言うか! ではルシアン、君はこれを何と言うことのないことだと?
確かにセラーパークなどの港町なら、大したこととは見られまい。毎日のように大勢の外国人が押し寄せるのだから、その中で恋愛感情も芽生えることも、少しばかりはあるだろう。
だがそれは、何の責任も権威も持たぬ、底辺の労働者くらいであれば誰も構いはせん、と言う話だ。そんな有象無象と、西方の経済を背負って立つ我々三大商家とを同じ天秤にかけるつもりなのか、君は!?」
「なっ……」
平然と弱者を見下し、貶めるこの放言に、いよいよルシアンは怒り出した。
「リオン翁、それは正気で言っていることですか!?」
「何を怒る? 本当のことだろう?
では君は、君の今いる地位を、路上でゴミ箱を漁る浮浪者に与えても、何ら『大三角形』にも、西方経済にも影響は無いと言うのか?」
「それとこれとは、筋の違う話でしょう? 詭弁じゃないですか!
ではリオン翁、あなたは僕の妹がしたことは、何の祝福も称賛も得られない、唾棄すべき行為だと言うのですか!」
「そうだ」
その返答に、ルシアンの理性が、ぷつりと音を立てた。
「……ふざけないでくださいッ! あなたは、あなたは……、愛する夫を失い、悲嘆にくれる妹を、さらに傷つけようと言うのですか!?」
「話はこれまでだ、ルシアン。もう君とは、話す意義がない」
「……え?」
急ににべもない態度を執られ、ルシアンは虚を突かれる。
「聞こえなかったのか? 君にはもはや、私に対して発言する権限はないのだ」
そうリオン翁が言い放つと同時に、ルシアンは両脇を、リオン家の従者に抱えられた。
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家族主義、組織主義の衝突。
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双月暦305年――エール家にとってこの年は、3つの不幸が連なった年であった。
そのうちの1つが、セブス・エール翁の死であることは言うまでもないが、残る2つは――。
「ルシアン。何故、私が怒っているか、分かっているかね?」
「いえ……」
ルシアンはリオン翁から呼び出され、「大三角形」の主要人物たちの居並ぶ前に一人立たされ、審問を受けることとなった。
「僕が、何か怒らせてしまうようなことを?」
「そうだとも。君は私に対して、いや、『大三角形』として深く、強い絆で結ばれた皆に対して、やってはならぬことをした。それが何か、分かるかね?」
「……分かりません」
そう答えたルシアンに、リオン翁はふう……、と深いため息をついた。
「そうか、身に覚えがないと言うのだな、ルシアン。
……私は、密かに君の身辺を探らせていた」
「えっ」
目を丸くするルシアンに、リオン翁はこう続けた。
「何故、こんなことをしたか、だが。
君の不穏かつ不適切、不相応な発言――スパス氏を『最大の敵』と称したことが、あまりにも気にかかったためだ。
温厚な君が、明確な敵意を発したのは一体、何故か? それを、探らせていたのだ」
「それは……」
弁明しようとしたところで、リオン翁が杖の先を、がつっ、と苛立たしげな音を立てて床に叩き付けた。
「私の話に異議があると言うのなら、私が話し終えてからにしてもらおうか」
「……は、はい」
縮こまったルシアンをにらみつつ、リオン翁は調査結果を述べた。
「何週間か前に、君の所へ身を寄せた人間が、4名いることが分かった。1名は、長らく行方知らずになっていた、プラチナ・エールだと言う。
それだけをとれば、何とも感動的な話だ。私としても、彼女のことは気にかけていたからな。だが、彼女には3人の娘がいた。そこから、話がおかしくなってくる」
「……」
「その娘3名は、どうやらあの、クリオ・ジョーヌとの子供らしいな」
リオン翁の暴露に、審問の場は騒然となった。
「ジョーヌ……!?」
「まさか、彼とつながりが?」
「初耳だぞ!」
それらの声に対し、リオン翁は深々とうなずいてみせた。
「私もだ。そして皆の反応を見て分かる通り、それはまったくもって喜ばしいことではない。何故ならジョーヌ氏は、西方の人間ではないからだ。
プラチナは、大変なことをしでかしてしまった。『大三角形』は西方のためのものであり、外の人間のためのものではない。西方人にとっては外界からの侵略・侵入を阻む壁であるはずの我々の中に、あろうことか外国人を引き入れたのだ。
こんなことは到底、容認できるはずが無い! プラチナは、我々の関係に深いひびを入れたのだ! これはもう、大罪を犯したと言っても過言ではない」
妹を悪しざまに罵られ、温和なルシアンも流石に嫌悪感を覚える。
「そんな言い方、ないでしょう」
「何を言うか! ではルシアン、君はこれを何と言うことのないことだと?
確かにセラーパークなどの港町なら、大したこととは見られまい。毎日のように大勢の外国人が押し寄せるのだから、その中で恋愛感情も芽生えることも、少しばかりはあるだろう。
だがそれは、何の責任も権威も持たぬ、底辺の労働者くらいであれば誰も構いはせん、と言う話だ。そんな有象無象と、西方の経済を背負って立つ我々三大商家とを同じ天秤にかけるつもりなのか、君は!?」
「なっ……」
平然と弱者を見下し、貶めるこの放言に、いよいよルシアンは怒り出した。
「リオン翁、それは正気で言っていることですか!?」
「何を怒る? 本当のことだろう?
では君は、君の今いる地位を、路上でゴミ箱を漁る浮浪者に与えても、何ら『大三角形』にも、西方経済にも影響は無いと言うのか?」
「それとこれとは、筋の違う話でしょう? 詭弁じゃないですか!
ではリオン翁、あなたは僕の妹がしたことは、何の祝福も称賛も得られない、唾棄すべき行為だと言うのですか!」
「そうだ」
その返答に、ルシアンの理性が、ぷつりと音を立てた。
「……ふざけないでくださいッ! あなたは、あなたは……、愛する夫を失い、悲嘆にくれる妹を、さらに傷つけようと言うのですか!?」
「話はこれまでだ、ルシアン。もう君とは、話す意義がない」
「……え?」
急ににべもない態度を執られ、ルシアンは虚を突かれる。
「聞こえなかったのか? 君にはもはや、私に対して発言する権限はないのだ」
そうリオン翁が言い放つと同時に、ルシアンは両脇を、リオン家の従者に抱えられた。
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