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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・確執記 7

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    フォコの話、282話目。
    エール商会ゼネスト。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
    「な、何を!?」
    「ルシアン。私は既に、ある決定を下している。
     プラチナのしたことは、到底容認はできない。よって、彼女をエール家から追放することを強く要請する」
    「そんな!」
     ルシアンの反応を見て、リオン翁は大きなため息をついた。
    「だろうな。君なら、そう反応するだろうと思っていた。
     だが、これも『大三角形』の維持のためだ。それを呑めないと言うのなら、我々は君にも連帯責任を取ってもらわねばならんと考えている」
    「連帯責任?」
    「現在、プラチナを擁護しているのは、次期エール家当主と目されている、君だ。
     だが、考えてもらいたい。『大三角形』の一角を担う者が、『大三角形』を脅かしている者を擁護しているなど、おかしい話だろう?」
    「そんな言い草こそ、おかしい……!」
     自分をにらみつけるルシアンに対し、リオン翁はふう、と重たげなため息をつく。
    「だから我々は、君が次期エール家の当主に就く権利を放棄するよう、これも要求する。
     プラチナの追放と、君の辞退。この二つの要求が受諾できないのであれば、我々は今後、エール家との取引の一切を停止する」
    「な……っ」
     これを聞いて、ルシアンは青ざめた。
    「よく、考えるように」
     リオン翁は杖で扉を指し示し、従者たちを使ってルシアンを追い出した。



     西方は、何かにつけて「組織」と「家族」を重視する傾向にある。
     この騒動も、ルシアンは妹と姪たちの安全と尊厳を尊重し、また、リオン翁は「大三角形」の体面を尊重した結果、起こったものだった。
     そのため、この時点での話し合いでは、両者は対立するばかりで、ルシアンの主張が通ることもなく、リオン翁の要求が通ることも、また無かった。

     だが、その衝突と反目は、エール家を窮地に追い込むこととなった。
     「大三角形」との取引停止を受け、エール商会の操業はストップせざるを得なかった。大口の原料・資材の供給元であるリオン家とトット家から、木板一枚、ネジ一本すら買えなくなってしまったからだ。
     そのため新しい供給元を探さなければならなくなり、ルシアンが奔走しようとしていたところで――。
    「何だって……!?」
     エール商会の傘下にある工場・商店のほとんどで、ルシアンに対する大規模な反対運動が勃発し、商会の運営が不可能になってしまったのだ。
    「……みんなからの要求は?」
     そう尋ねたルシアンに、商会の大番頭は何も言わず、ルシアンの顔をじっと見つめた。
    「……僕の、……次期当主の辞退か」
    「ええ。やはり、『大三角形』との取引が再開されないことには」
    「……話し合いの機会を、設けてくれ」
    「……それが……」
     何故か、大番頭はそこで言葉を濁す。
    「どうした?」
    「……話し合いは、既に始まっておりまして」
    「え?」
     予想外の展開に、ルシアンは面食らう。
    「僕がいない状態で、何故話が進んでいるんだ?」
    「……」
     だが大番頭は何も言わず、すっと後ずさりした。
    「どう言うことなんだ、一体!?」
    「……」
     そのまま、大番頭は執務室から離れる。
     そして代わりに、したり顔のミシェルとサザリーが入ってきた。

    「やあ、兄さん」
     ニヤニヤとした顔で、ミシェルはルシアンに詰め寄ってくる。
    「き、君が代わりに話を?」
    「そうだ。それでだが、まあ、結論から言おうか?」
    「……ああ」
     ルシアンがそう答えた途端、ミシェルはルシアンが座っている机を蹴りつけた。
    「兄さん、あんたはクビだ。エール商会に属するすべての商店・工場から、手を引いてもらう。そして勿論、エール家からも出て行ってもらうぞ!」
    「な……」
    「この数週間、あんたはあっちこっちを回って、原料・資材の買い付けに奔走していたようだが、その間商会の操業は完全に停止していた。
     その間の損失が一体、どれほどのものか、分かっているか?」
     この質問に、ルシアンは「う……」とうめくしかなかった。
    「分かっているようだな。そう、時価300億クラムにも上る、天文学的な大損害だ!
     まず、それが辞めてもらう、第一の理由だ。これに関して、異議申し立てがあるか?」
    「……」
     何も言えないルシアンに畳み掛けるように、サザリーが話を継いだ。
    「そして二つ目、あんたはあのリオン翁を怒らせちゃったんだ!
     もしもこのまま、何とか資材供給元が見つかったとして、あんたはそのまんま、のうのうと西方で商売できると思うの? できないでしょ、そんなの!
     あのクソじじいのことだ、何かにつけて邪魔してくるに決まってる! そうなったらまた、同じことが起きる! あんたがこのまま、エール商会に居座ってたらね!」
    「く……」
    「そして3つ目だ」
     再度、ミシェルが口を開く。
    「あんたは、プラチナとその娘たちを保護している。そう、西方人ではない人間との子供を、だ」
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