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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・確執記 8

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    フォコの話、283話目。
    当主問題の、最悪の解決。

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    8.
     リオン翁に続き、ミシェルまでもがリモナたちを否定したことで、ルシアンはまたも激昂した。
    「君まで、そんなことを言うのか! 例え半分でも、僕たちと血がつながっている子たちだろう!?」
    「だが半分は違う。そうである以上、私には擁護する理由はないし、その点においてはリオン翁と同意見だ。
     かねてからリオン翁に要請されてただろう、エール家から彼女らを追い出すことを? それに対しあんたが嫌だと言ったから、この騒ぎになったのだ。
     その全責任はあんたにある。だからこそ、あんたは出て行ってもらわなければならない。それとも300億を払い、リオン翁が納得するような説明をしてくれるのか?」
    「……それは……できないが……しかし……」
     苦い顔をするルシアンに、ミシェルはフンと鼻を鳴らした。
    「さっさとそこから立て、ルシアン」
    「えっ……」
    「できない以上、あんたはもうエール家の人間ではない。ましてや、次期当主でもない。そこに座る権利など、無い!」
     そう言うとミシェルはルシアンの胸ぐらをつかみ、無理矢理に椅子から引きずりおろした。
    「な、何をする!?」
    「聞こえなかったか、ルシアン」
     ミシェルはあごをしゃくり、サザリーに手伝うよう促す。
    「出て行ってもらう。二度と、うちの敷居をまたぐな」
    「はいはい出て行った、出て行った!」
     ミシェルとサザリーはルシアンの両脇をつかみ、そのまま屋敷の外まで連れ出した。

     その直後、ルーテシア母娘も同様に追い出され、ルシアンたちは路頭に迷うこととなった。



    「……これで満足か、ゴールドマン総帥」
    「ええ」
     ルシアンを追い出し、エール家当主となったミシェルは、再びケネスと会っていた。
    「本当にこれで、300億を肩代わりしてくれるんだろうな」
    「勿論ですとも。ただし、いずれは返済してもらわねばなりませんがね」
    「だろうな」
     当主となったものの、すぐに一連の騒動のツケが回り、ミシェルは既に汲々(きゅうきゅう)としていた。
     ルシアンを罷免するために叩き付けた時価300億の負債は当然、当主となったミシェルに返ってきた。これ自体は、ケネスからの借り入れと、スパス産業への商店・工場売却で凌ぐことはできたのだが――。
    「いつ頃、スパス産業を潰す?」
     ケネスの援助で台頭し、現在も急成長を続けるスパス産業の力は、300億の負債で傾いたエール商会には到底、対抗できるものではなくなっていた。
     このまま何年も経てば、いずれエール家は没落し、スパス産業に取って代わられる。それではミシェルたちに、何の旨味もない話だったが――。
    「まあ、北方や南海の戦争で一山、二山当ててからですから、短く見積もっても5年ほどでしょうな」
    「5年もかかるのか」
    「獲物は太らせてから食べるのが、最も賢く、最も美味になる。そう説明した通りです」
    「それは、分かっているが……」

     ケネスから持ちかけられた話は、こうだった。
     スパス産業が成長し、西方での権力を強めることで、西方商業網は従来の「大三角形」に依存したものから、スパス産業中心のものへと遷移していく。
     そうなれば現在のエール家同様、リオン家・トット家の影響力も弱まることとなり、「大三角形」は弱体化、あるいは消滅する。
     そうして西方商業網が作り変えられたところで、ケネスがアバントに指示を出し、何らかの方法でスパス産業をエール家へと明け渡す。
     これがすべて成功すれば、西方商業網はエール家、即ちミシェル一人に支配されることになる――と言うものだった。
     最初からケネスは、アバントのことを当て馬程度にしか見ておらず、本懐はエール家を籠絡・操縦することにあったのだ。

    「今現在、屋敷内だけでも火が点いたような状況にある。使用人はすべて解雇し、調度品や宝物も売り払った。
     5年も待たされては、我々は干上がってしまう。……まさか、それが目的ではないだろうな?」
    「まさか。このままスパス君に任せたところで、結局は『新参者』のレッテルを拭い去ることはできない。せっかく商業網を再編しても、彼では持て余すでしょう。そこはやはり、伝統と権威あるあなた方が舵取りをしなければ。
     まあ、私の方から生活費は都合しておきましょう」
    「……ああ。頼んだ」
     ほんの一瞬だが、沈んだ顔を見せたミシェルを見て、ケネスは内心ほくそ笑んでいた。
    (ククク……! そうやって落ち込んでいろ! 罪悪感を抱いていろ!
     お前もこの件で、相当後ろめたい思いをしたはずだ。そう、実の兄弟を追い出したと言う、西方人にはこらえがたい罪を犯したと、そう思っているはずだ。
     いったん罪の意識を抱えたら、それはどこまでも付きまとう――お前の行動は、その意識のせいで限定されていく。いくら稼ごうとも、心のどこかから『この利益はルシアンを追い出したからこそ……』とささやいてくる。いくら成功を積み重ねようとも、夢にはきっとお前の兄と妹が出てくるだろう。
     そしてそのうち、漠然と、しかし永続的に、こう思うはずだ――『罪を償わなければ』と。それでもう、お前の行動は操れる。
     こいつはもう、贖罪と言う理由なしに行動は起こせなくなる)



     ケネスの読み通り、「投機のミシェル」とまで呼ばれた彼はその後、自発的な経営・投資を行えなくなってしまった。現状の維持・悪化の回避ばかりを考え、新たな利益に飛びつけなくなったのだ。
     委縮した当主を筆頭に置いたエール家は、みるみる衰退していった。
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