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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・確執記 9

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    フォコの話、284話目。
    遊び人からの献策。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    9.
     話は双月暦312年、フォコたちが詰問を受けた後に戻る。
    「……うーん」
     エール家没落の顛末を聞いたフォコは、苦い顔をリオン翁に向けた。
    「それ、……言うてしまうと、翁が悪いんやないですか、結局の話は?」
    「……そうだな。今にして思えば、あまりにも心が狭すぎた。まさに老害だ」
     リオン翁は両手で顔を伏せ、深いため息をついた。
    「何が『大三角形』のメンツを、だ。大物ぶって、偉そうなことを言った、その結果がこれだ。
     小物と見なして放っておいたスパス産業は増長し、我々の手に余る存在と化した。ルシアンとプラチナを見捨てたことでエール家は没落し、スパスよりなお鼻持ちならぬ、ゴールドマン商会の手先になってしまった。
     痛感させられたよ――私はとっくの昔に、時代から取り残されてしまっていたのだと。時代遅れのことばかりを怒鳴り散らし、結局は場を汚しただけとはな」
     横にいたトット媼も、ふうと小さくため息をつく。
    「今さら言っても、遅いことです。
     今、私たちに必要なことは、その増長したスパス産業とどう対決し、下すか。そして、『大三角形』の中に侵入しようとしているゴールドマン商会を、どう追い出すか。
     ……後はニコル卿、あなたの処遇も」
    「……うーん……」
     フォコは何か提案しようかとも思ったが、問題の当事者に挙げられている身で何か言っても、自己弁護にしか聞こえないだろうと考え直し、うなるだけに留めた。

     と、その代わりに口を開いたのが――。
    「じゃあ、まとめてみたらどうです?」
     いつの間にかフォコたちの隣で、ワインを片手にチーズをほおばっていた遊び人、カントである。
    「何?」
    「だから、その3つの問題。結局のところ、ニコル卿も、スパスも、エール家のことも、根っこのところは一緒でしょ?
     ニコル卿はゴールドマン家の血筋の人で、ケネスだとか言う裸耳に追い出されて、巡り巡ってここまで来た。
     その追い出した張本人のケネスは、スパスと現在のエール家を操っている。
     じゃあ何が悪いかって、結局はその、ケネス・エンターゲート氏じゃないですか」
    「まあ、そらそうなりますな」
     同意したフォコに、カントはニコニコしながらワインの入った杯を差し出した。
    「でしょでしょ? じゃあつまるところ、そのケネスってのを叩きのめせば、今悩んでる全部の問題が、解決する気がするんですよ。
     で、アイデアマンのニコル卿に、僕なんかが提案するのも何なんですがね……」
     そう前置きし、カントはぴょん、と人差し指を立てた。
    「まず、ニコル卿。あなた、もうウソつくのは、やめたがいい。
     あなたはホコウ・ソレイユなんて名前の、怪しく卑しいインチキ西方人じゃなく、本当の本当は、ニコル・フォコ・ゴールドマンと言う、他でもないゴールドマン家の御曹司なのであると、それこそ全世界に対して、本当のことを言うんですよ」
    「えっ」
     この提案に、フォコは目を丸くした。
    「な、なんでですのん」
    「僕も40年ばかり生きてますが、その間丸っきり遊び倒してたわけじゃない。……ま、9割くらいは遊び倒してますけどね。まあ、そんなことはいい。
     色々、聞いてるんですよ。中央の事情とかね」
     そう言って、カントは中央政府とケネスに関係する、重大な事実を明かした。
    「……それ、ホンマに?」
    「ホンマにホンマ、至極本当の話ですとも。で、そこにニコル卿が突然の登場ですよ。どうなります?」
     カントに尋ねられ、フォコは予想を立てる。
    「……!」
     そして、一つの可能性に思い当たった。
    「……確かに、行けそうな可能性はありますな」
    「そう、その通り。……ま、お母さんが機嫌のいい時とかに、お皿割っちゃったことを告白するコドモじゃないですけどね、本当のことを言うなら、今しかないと思うんですよ、僕は。
     逆にですよ、今、本当のことを公表しなかったら、もう今後、言う機会は無くなると思います。
     あなた、これから一生、『インチキのホコウ』『ウソツキのソレイユ』だなんて、蔑まれたくないでしょ?」
    「……まあ……そうですな……」
     痛いところを突かれ、フォコは小さくうなずいた。
    「で、それで『向こう』が慌てふためいたところで、ニコル卿。あなた、央中にも権力者の知り合い、いるんでしょ? 確か、ネール職人組合の御大さんとか」
    「え、ええ。確かに、懇意にしとりますけども」
    「彼女やウチとかに、保証人になってもらって、本当の本当に、『自分はニコル・フォコ・ゴールドマンだ』と証明してもらうんです。で、そのまま『向こう』に行き、ケネスを糾弾すれば……」
    「僕が、……そのまま、ゴールドマン家の当主になれる、と?」
    「十中八九、なれるでしょうね。
     それでですよ。ケネスを追い出してしまえば、後はもう、全部解決です。スパスと現エール家は後ろ盾を失い、西方での地位は粉々に崩れ去るでしょう。
     あなたが、今、立ち上がれば、ね」

    火紅狐・確執記 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    確かに実現までには、まだ多少の難関があります。
    しかしようやく、仇敵の首に手がかかるところにまで、フォコ君は来ました。

    NoTitle 

    キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

    ターニングポイントですな。第二の。

    まあこのままワンサイドゲームにはならないでしょうけど……。
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