「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
雪鈴遭妖 1
ひさびさの「蒼天剣」。
雪乃と小鈴が、「あるもの」と遭遇した時のお話。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「あ、小鈴殿!」
双月暦513年、夏の頃。
いつものように紅蓮塞を訪れ、温泉と酒、そして修行場の厳かな空気を楽しんでいた旅客の橘小鈴を、晴奈が呼び止めた。
「あら、晴奈ちゃん」
ぺらぺらと手を振る小鈴の姿に、晴奈は笑顔になる。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
「あーら、ソコは『益々お美しくなられまして』とか言ってちょーだいな。……なんてのは冗談として。元気してた?」
「ええ、変わりなく」
「あいつらは?」
そう問われ、晴奈はきょとんとする。
「あいつら、とは?」
「ほら、こないだ告白しあってた奥手同士」
「……ああ」
晴奈は軽くはにかみつつ、その二人の現況を伝えた。
「あれ以来、二人でよく会うようになったようで。街の方では、うわさにもなっているとか」
「んふふ、片や紅蓮塞の跡取り、片や美人剣士だもんね。似合いのカップルよねー」
友人の幸せを素直に喜ぶ様子の小鈴に、晴奈も笑う。
「ええ。両人とも、とても幸せそうにしていて何よりです。師匠は私にとって非常に大切な方ですし、良太も弟のように可愛がっていましたから」
「……いい子ねぇ、あんた」
自分のことのように喜んでいる晴奈に、小鈴はニヤニヤするしかない。
「二人のコト、めちゃめちゃ好きなのねぇ。ケンカとかしたコト、無いんじゃない?」
「そうですね、した記憶が、……あ」
と、晴奈は以前に、口論になりかけた話を思い出した。
「そう言えば一度、師匠の機嫌を損ねたことがありました」
「あら、そーなの?」
「家族のことについて尋ねた際、非常に不機嫌になられまして」
「あー、分かる分かる」
どうやら小鈴も、同じ経験があったらしい。
「ソレ、確かに雪乃の逆鱗だわー。あたしも昔聞いた時、めちゃめちゃ嫌な顔されたもん」
「やはりそうですか……」
「んでも良太くんとは、ケンカしたことなさそーね。どっちかって言うと、アンタが一方的にまくし立てそうだし」
「はは、大体そうですね。……いや、それでも一度、口論になったことがありますね」
「え、そーなの? 意外ねぇ」
「良太はあれで、頑固なところがありますから」
「ふーん……。何の話してたの?」
尋ねられ、晴奈は記憶を掘り返す。
「あれは確か……、そうだ、妖狐騒ぎの話だったような」
「妖狐?」
「ええ。昨年暮れの話になるのですが、師匠のところに、妖狐討伐を要請する旨の手紙が届きまして。その際、『妖怪や怪物などいるものか』と、私と良太とで口論になったのです。
ちなみにその時、師匠は『怪物は実在のものである』として、屏風山脈で襲われた話を聞き、また、その証拠として」
そこで晴奈は言葉を切り、自分の胴を指差した。
「自分の体に付けられた傷を見せ、実在であると言うことを示されたのです。
実際拝見したところ、あの傷は確かに、刀傷や事故による切創などではなく、大型獣を思わせるものでした」
「あー、アレねぇ」
その反応に、晴奈はきょとんとした。
「ご存じなのですか?」
「ご存じも何も、あたし『その時』、真横に居たのよ? 介抱したのもあたしだし」
「そうでしたか」
驚く晴奈の顔を見て、小鈴はまた、ニヤニヤと笑う。
「……聞きたい?」
「え?」
「そん時のオハナシ。聞いてみたく、ない?」
そう問われ、晴奈は素直に答えた。
「ええ、是非」
「んっふっふ、素直でよろしい」
小鈴は楽しそうに笑い、ピンと人差し指を立てた。
「じゃー、どっか落ち着けそーなトコ行って話そっか」
「では、私の部屋で」
「ん、決まりね。じゃ行こ、行こっ」
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雪乃と小鈴が、「あるもの」と遭遇した時のお話。
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「あ、小鈴殿!」
双月暦513年、夏の頃。
いつものように紅蓮塞を訪れ、温泉と酒、そして修行場の厳かな空気を楽しんでいた旅客の橘小鈴を、晴奈が呼び止めた。
「あら、晴奈ちゃん」
ぺらぺらと手を振る小鈴の姿に、晴奈は笑顔になる。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
「あーら、ソコは『益々お美しくなられまして』とか言ってちょーだいな。……なんてのは冗談として。元気してた?」
「ええ、変わりなく」
「あいつらは?」
そう問われ、晴奈はきょとんとする。
「あいつら、とは?」
「ほら、こないだ告白しあってた奥手同士」
「……ああ」
晴奈は軽くはにかみつつ、その二人の現況を伝えた。
「あれ以来、二人でよく会うようになったようで。街の方では、うわさにもなっているとか」
「んふふ、片や紅蓮塞の跡取り、片や美人剣士だもんね。似合いのカップルよねー」
友人の幸せを素直に喜ぶ様子の小鈴に、晴奈も笑う。
「ええ。両人とも、とても幸せそうにしていて何よりです。師匠は私にとって非常に大切な方ですし、良太も弟のように可愛がっていましたから」
「……いい子ねぇ、あんた」
自分のことのように喜んでいる晴奈に、小鈴はニヤニヤするしかない。
「二人のコト、めちゃめちゃ好きなのねぇ。ケンカとかしたコト、無いんじゃない?」
「そうですね、した記憶が、……あ」
と、晴奈は以前に、口論になりかけた話を思い出した。
「そう言えば一度、師匠の機嫌を損ねたことがありました」
「あら、そーなの?」
「家族のことについて尋ねた際、非常に不機嫌になられまして」
「あー、分かる分かる」
どうやら小鈴も、同じ経験があったらしい。
「ソレ、確かに雪乃の逆鱗だわー。あたしも昔聞いた時、めちゃめちゃ嫌な顔されたもん」
「やはりそうですか……」
「んでも良太くんとは、ケンカしたことなさそーね。どっちかって言うと、アンタが一方的にまくし立てそうだし」
「はは、大体そうですね。……いや、それでも一度、口論になったことがありますね」
「え、そーなの? 意外ねぇ」
「良太はあれで、頑固なところがありますから」
「ふーん……。何の話してたの?」
尋ねられ、晴奈は記憶を掘り返す。
「あれは確か……、そうだ、妖狐騒ぎの話だったような」
「妖狐?」
「ええ。昨年暮れの話になるのですが、師匠のところに、妖狐討伐を要請する旨の手紙が届きまして。その際、『妖怪や怪物などいるものか』と、私と良太とで口論になったのです。
ちなみにその時、師匠は『怪物は実在のものである』として、屏風山脈で襲われた話を聞き、また、その証拠として」
そこで晴奈は言葉を切り、自分の胴を指差した。
「自分の体に付けられた傷を見せ、実在であると言うことを示されたのです。
実際拝見したところ、あの傷は確かに、刀傷や事故による切創などではなく、大型獣を思わせるものでした」
「あー、アレねぇ」
その反応に、晴奈はきょとんとした。
「ご存じなのですか?」
「ご存じも何も、あたし『その時』、真横に居たのよ? 介抱したのもあたしだし」
「そうでしたか」
驚く晴奈の顔を見て、小鈴はまた、ニヤニヤと笑う。
「……聞きたい?」
「え?」
「そん時のオハナシ。聞いてみたく、ない?」
そう問われ、晴奈は素直に答えた。
「ええ、是非」
「んっふっふ、素直でよろしい」
小鈴は楽しそうに笑い、ピンと人差し指を立てた。
「じゃー、どっか落ち着けそーなトコ行って話そっか」
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「ん、決まりね。じゃ行こ、行こっ」
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文章の読みやすさと分かりやすさには、結構気を付けてます。
難解な漢字、成語はちょくちょく使いますが。