「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
雪鈴遭妖 2
蒼天剣スピンオフ、第2話。
のんきな二人が出遭ったのは。
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2.
10年前――双月暦503年、屏風山脈の央南側山道を、少し外れたところ。
「あっづー」
上着を脱ぎ、胸元をはだけさせる小鈴を横に見ていた雪乃は、苦い顔をした。
「いくら二人っきりだからって、はしたなさ過ぎよ」
「いーじゃん、暑いんだし」
「もうちょっと痩せたら? わたしは暑く感じないもの」
それを聞いた小鈴は、皮肉っぽく笑う。
「むしろ痩せ過ぎなんじゃん? すっきりし過ぎじゃない、胸とかお尻とか」
「剣士なんだからこれくらいでいいのよ。あなたは魔術師だってことを踏まえても、ちょっと大き過ぎ」
「へっへーん」
挑発するように自分の胸を持ち上げ、強調する小鈴を見て、雪乃は呆れたため息を漏らした。
「もう、品が無いわね! そんなんじゃ、彼氏ができてもすぐ離れちゃうわよ?」
「いつまでも彼氏できない人に言われたくないしー」
「わ、わたしにはまだ早いもの! まだまだ剣士の修行も続けなきゃいけないし、旅の途中だし」
「はいはい言い訳おつかれさん」
「……今に見てなさいよ、小鈴」
「はいはい。ま、アンタに彼氏できたら、目一杯喜んであげるわよ」
そう返した小鈴に、眉を吊り上がらせていた雪乃は一転、くすっと笑った。
「ありがと、小鈴」
「……にしても暑いっ。
森の中なら山道より、ちょっとくらい涼しくなるかなと思ったけど、全然そんなコト無かったわね」
小鈴はきょろきょろと辺りを見回し、続いてかばんから薄手の浴衣を取り出した。
「趣味だけじゃ巫女服は着れないわね。暑いトコだと暑いし、寒いトコだと寒いし」
「袴装束なんてそんなもんでしょ。自然と親和性を高める、と言うのが売りなんだし」
「ま、そーなんだけどさ。そーなんだけども」
小鈴は浴衣を脇に抱え、森の方へ歩き出す。
「あたしは三流魔術師、知識はあるけど魔力は無いもん。
暑いもんは暑いし、自然との親和なんてのも一知半解な程度。恒常的に涼しくしようなんて術なんか知りもしないし、知っても使い切れないしー。
だから魔術を使うより、手軽に涼しくなる方法を執んの」
「……あなたの師匠が聞いたら泣くわね」
「ウチの母さんだもん、あたしの師匠。初歩教わってる時点からからテキトーなのよ。料理や裁縫と同列で教わったんだし。
んじゃ着替えて来るから、人が来ないか見ててね」
「ここで着替えたら? 二人きりなんだし」
「アンタ、あたしを何だと思ってんのよ。それくらいの恥じらいはありますよー、だ」
小鈴は雪乃に向かってぺろっと舌を出して見せ、そのまま林の奥へと消えた。
雪乃と小鈴は、共に旅の途中で出会った。
雪乃の方は、剣士修行の旅として。小鈴の方は、実家の家業である情報屋の仕事、情報収集の旅として。
温和で誠実、かつ人懐こい雪乃と、豪放磊落で姉御肌の小鈴は、会ってすぐに馬が合った。
そのため央南を一回りしてからこの屏風山脈まで、二人はずっと一緒に旅をしていた。
「小鈴、もう着替え終わった?」
五分ほど経ち、雪乃は小鈴に声をかけた。
しかし――返事が返ってこない。
「……小鈴?」
嫌な予感を覚え、雪乃は刀を手に、小鈴が向かった方へと進む。
「小鈴、大丈夫?」
「……」
と、かすかに女性の、悲鳴じみた声が聞こえてくる。
「小鈴!」
雪乃は刀を構え、声のした方へと向かった。
「シャアアア」
「シュルルル……」
巫女服の女性が、気味の悪い音を立てる真っ青な蛇4匹に囲まれている。
「た、助けて!」
「言われなくてもそうするわよ!」
雪乃は刀に火を灯す。焔流剣術の粋、「燃える刀」である。
「こっちに来なさい、荒縄ちゃん!」
雪乃はぴゅんと音を立て、刀を振り払う。
刀から飛んだ炎が蛇たちに向かい、そのうちの一匹の尻尾を焼く。
「ピイイイッ!?」
女性を囲んでいた蛇たちは、仲間の鳴き声で一斉に、雪乃の方へと振り返った。
「シャアアアア!」
「……残念だけど、今夜のご飯にはしたくない色ね。毒もありそうだし」
波打つように向かってきた蛇たちに向かい、雪乃はもう一度刀を薙ぎ払った。
「燃やすのが一番ね。『火閃』ッ!」
雪乃の刀から放たれた炎は一瞬で爆炎・爆轟へと変わり、蛇たちを丸焦げにし、粉みじんに吹き飛ばした。
「……またつまらぬものを、なんてね」
刀を納め、雪乃は巫女服の女性に近寄る。
「まったくもう、だから近くで着替えたらって、……って、あれ?」
と、そこへ別の声が飛んでくる。
「何してんの、雪乃? なんかドカンって音がしたけど」
雪乃の背後から、浴衣姿に着替えた小鈴が現れた。
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のんきな二人が出遭ったのは。
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10年前――双月暦503年、屏風山脈の央南側山道を、少し外れたところ。
「あっづー」
上着を脱ぎ、胸元をはだけさせる小鈴を横に見ていた雪乃は、苦い顔をした。
「いくら二人っきりだからって、はしたなさ過ぎよ」
「いーじゃん、暑いんだし」
「もうちょっと痩せたら? わたしは暑く感じないもの」
それを聞いた小鈴は、皮肉っぽく笑う。
「むしろ痩せ過ぎなんじゃん? すっきりし過ぎじゃない、胸とかお尻とか」
「剣士なんだからこれくらいでいいのよ。あなたは魔術師だってことを踏まえても、ちょっと大き過ぎ」
「へっへーん」
挑発するように自分の胸を持ち上げ、強調する小鈴を見て、雪乃は呆れたため息を漏らした。
「もう、品が無いわね! そんなんじゃ、彼氏ができてもすぐ離れちゃうわよ?」
「いつまでも彼氏できない人に言われたくないしー」
「わ、わたしにはまだ早いもの! まだまだ剣士の修行も続けなきゃいけないし、旅の途中だし」
「はいはい言い訳おつかれさん」
「……今に見てなさいよ、小鈴」
「はいはい。ま、アンタに彼氏できたら、目一杯喜んであげるわよ」
そう返した小鈴に、眉を吊り上がらせていた雪乃は一転、くすっと笑った。
「ありがと、小鈴」
「……にしても暑いっ。
森の中なら山道より、ちょっとくらい涼しくなるかなと思ったけど、全然そんなコト無かったわね」
小鈴はきょろきょろと辺りを見回し、続いてかばんから薄手の浴衣を取り出した。
「趣味だけじゃ巫女服は着れないわね。暑いトコだと暑いし、寒いトコだと寒いし」
「袴装束なんてそんなもんでしょ。自然と親和性を高める、と言うのが売りなんだし」
「ま、そーなんだけどさ。そーなんだけども」
小鈴は浴衣を脇に抱え、森の方へ歩き出す。
「あたしは三流魔術師、知識はあるけど魔力は無いもん。
暑いもんは暑いし、自然との親和なんてのも一知半解な程度。恒常的に涼しくしようなんて術なんか知りもしないし、知っても使い切れないしー。
だから魔術を使うより、手軽に涼しくなる方法を執んの」
「……あなたの師匠が聞いたら泣くわね」
「ウチの母さんだもん、あたしの師匠。初歩教わってる時点からからテキトーなのよ。料理や裁縫と同列で教わったんだし。
んじゃ着替えて来るから、人が来ないか見ててね」
「ここで着替えたら? 二人きりなんだし」
「アンタ、あたしを何だと思ってんのよ。それくらいの恥じらいはありますよー、だ」
小鈴は雪乃に向かってぺろっと舌を出して見せ、そのまま林の奥へと消えた。
雪乃と小鈴は、共に旅の途中で出会った。
雪乃の方は、剣士修行の旅として。小鈴の方は、実家の家業である情報屋の仕事、情報収集の旅として。
温和で誠実、かつ人懐こい雪乃と、豪放磊落で姉御肌の小鈴は、会ってすぐに馬が合った。
そのため央南を一回りしてからこの屏風山脈まで、二人はずっと一緒に旅をしていた。
「小鈴、もう着替え終わった?」
五分ほど経ち、雪乃は小鈴に声をかけた。
しかし――返事が返ってこない。
「……小鈴?」
嫌な予感を覚え、雪乃は刀を手に、小鈴が向かった方へと進む。
「小鈴、大丈夫?」
「……」
と、かすかに女性の、悲鳴じみた声が聞こえてくる。
「小鈴!」
雪乃は刀を構え、声のした方へと向かった。
「シャアアア」
「シュルルル……」
巫女服の女性が、気味の悪い音を立てる真っ青な蛇4匹に囲まれている。
「た、助けて!」
「言われなくてもそうするわよ!」
雪乃は刀に火を灯す。焔流剣術の粋、「燃える刀」である。
「こっちに来なさい、荒縄ちゃん!」
雪乃はぴゅんと音を立て、刀を振り払う。
刀から飛んだ炎が蛇たちに向かい、そのうちの一匹の尻尾を焼く。
「ピイイイッ!?」
女性を囲んでいた蛇たちは、仲間の鳴き声で一斉に、雪乃の方へと振り返った。
「シャアアアア!」
「……残念だけど、今夜のご飯にはしたくない色ね。毒もありそうだし」
波打つように向かってきた蛇たちに向かい、雪乃はもう一度刀を薙ぎ払った。
「燃やすのが一番ね。『火閃』ッ!」
雪乃の刀から放たれた炎は一瞬で爆炎・爆轟へと変わり、蛇たちを丸焦げにし、粉みじんに吹き飛ばした。
「……またつまらぬものを、なんてね」
刀を納め、雪乃は巫女服の女性に近寄る。
「まったくもう、だから近くで着替えたらって、……って、あれ?」
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