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    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    雪鈴遭妖 3

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    蒼天剣スピンオフ、第3話。
    巫女服違い。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「んじゃ、その子をあたしと間違えたのね」
    「ええ、まあ」
    「つっても、この子『狐』じゃん。なんで間違えんのよ」
    「それはその、暗かったし、巫女服だし」
     雪乃と小鈴は、蛇に襲われていた少女を介抱していた。
    「本当に助かりました……。まだまだ未熟な身でして」
     その巫女服の、狐獣人の少女は、まだ青い顔のまま、雪乃に礼を言った。
    「巫女服ってコトは、アンタ央南神道の人?」
    「あ、いえ、禅宗習合派です」
     ちなみに央南においては、中央大陸の北部・中部で広まっている天帝教よりも、土着の宗教である央南神道・禅道の力が強い。
     彼女の言う「習合派」と言うのは、その中間的な存在である。
    「あ、自己紹介が遅れました。私、鈴原鏡子と申します。央南は玄州、川料から旅をして参りました」
    「アンタも名前に『鈴』って付いてんのね。あたしは橘小鈴、よろしくね鏡子ちゃん」
     にっこり笑って鏡子と握手する小鈴に続き、雪乃も自己紹介を返す。
    「わたしは柊雪乃、焔流剣士よ。よろしく」
    「ご丁寧にありがとうございます、小鈴さん、雪乃さん」
     鏡子がぺこりと頭を下げたところで、小鈴が提案する。
    「ねえ鏡子ちゃん、もう夜も遅いし、今夜は一緒に野宿しない?」
    「いいんですか?」
    「ええ、勿論。雪乃もいいわよね?」
     そう問われたが、反対する理由は無い。
    「ええ。鏡子ちゃんが良ければ、わたしは構わないわ」
    「ありがとうございます。よろしく、お願いします」

     本格的に夜の帳が落ち、三人を照らすものは焚き火だけとなった。
    「へえ、それじゃお父さんは天神大学の教授なんだ」
    「ええ。でもここ数年は私が修行に出ていたこともあり、疎遠になっていて……、ふあ、ぁ」
    「眠そうね。……って、もうこんな時間だったわ」
     鞄から取り出した懐中時計を見た小鈴が、途端に眠そうな声色になった。
    「ふあ、ああ……。とは言え、こんなところで全員眠っちゃったら、明日には蛇の餌食になってるわね。あたしが頑張って起きとくから、二人は寝てて」
    「……小鈴」
     と、雪乃が呆れた声を出す。
    「あなたに寝ずの番なんて無理でしょ、低血圧で寝るのが大好きなくせに」
    「……3時間、いや、2時間は頑張る」
    「1時間が限度でしょ。いいわ、わたしが先に眠るし、限界になったら起こしてくれたらいいからね」
    「ごめーん、よろしく」
     ぺろっと舌を出す小鈴に苦笑しつつ、雪乃と鏡子は、先に眠ることにした。
    「寝るまで、少しお話続けましょ」
    「ええ」
    「鏡子ちゃんは、旅をして何年になるの?」
    「そうですね、3年ほどに」
    「わたしたちより長いのね。それじゃ鏡子ちゃんの方が、先輩ね」
    「クス、そうなりますね。雪乃さんたちはこの後、どちらに?」
    「聞いた話では、央中にゴールドコーストと言う街があって、そこに闘技場があるらしいの。腕試しもかねて、そこへ行ってみようかなって。
     小鈴の方は、どうするか分からないけど」
    「……」
    「鏡子ちゃん?」
     どうやら、寝入ってしまったらしい。

     と――それを察した小鈴が、そっと近付いてきた。
    「雪乃、ちょっと」
    「どうしたの? もう眠くなっちゃった?」
    「ハナっから眠たくなんかないわよ。ちょっとこっち来なさい」
    「ん……?」
     雪乃はそっと毛布から抜け出し、鏡子に被せてから、小鈴の呼ぶ方へと向かった。
    「なに? 険しい顔してるけど」
    「アンタ、変だなーと思わなかった?」
    「何が?」
    「鏡子ちゃんの話よ。あたし、どーしても腑に落ちないところがあんのよね」
    「って言うと?」
     鏡子の寝息を再度確認し、小鈴は話を切り出した。
    「話に矛盾があんのよ。
     あの子、天神大学で学んだって言ってたわよね。お父さんから魔術学をって」
    「ええ。で、その後、改めて神禅習合派に入って、と言っていたわね」
    「考えてみてよ、大学に入る歳、ふつーは18、19くらいだし、どんだけ才能に富んでても14か15くらいでしょ?
     んで、あの子の魔術知識を聞いてると、どうも四回生か院生くらい、論文も書けるかなってくらいよ? その上で習合派に入り直して修行っつったら、5、6年はザラ。
     最短で考えて、14足す4足す5で合計、何歳よ?」
    「23ね」
    「その上で3年、修行の旅でしょ? じゃあ今、早くて26歳、あたしたちより年上じゃない」
    「そうね。……え?」
     それに気付いた上で、雪乃は改めて、眠る鏡子の顔を見る。
     どう見ても、それは10代後半くらいの少女だった。
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