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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    雪鈴遭妖 4

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    蒼天剣スピンオフ、第4話。
    不気味な女の子。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     その矛盾に気付くも、雪乃はまだ楽観的に辻褄を合わせようとする。
    「でも、童顔ってこともあるでしょ?」
    「顔はまだそう言えるわよ。でも手は?」
    「……」
     毛布からちょこんと覗く鏡子の手は、確かに大人のものとは思えない。
    「それにね、雪乃。アンタ、あの子が襲われてた時、蛇を見たでしょ?」
    「ええ。それがどうかした?」
    「あの蛇、ちょっと焼け残ってたから見てみたんだけどね。あれはビョウブアオニシキって言ってね、基本は人を襲う種じゃないのよ。大体狼とか猪とか、中型の獣を集団で襲うの」
    「実際に彼女を襲おうとしてたわよ?」
    「どうやって獲物を見つけるか知ってる? 臭いを感知するのよ。逆に言えば、あの子からは獣系の臭いがしてたってコトよ」
    「感じないけど……」
    「そりゃ、あたしたちにはね。でも雪乃、あたしも一人で、その上暑い暑いって言いながら、汗だくで着替えてたのよ? 自分で言うのも恥ずかしいけど、その時多分、あたしの臭いは弱くなかったはずよ?
     もし人を襲うとしたら、あたしのところにも来ると思わない?」
    「……」
     間を置いてから、小鈴はさらに話を続けようとする。
    「後ね、……ずっと引っかかってんのよ。鈴原って名前の教授、どこかで聞いたなーって。
     あたしの家は情報屋やってるから、大きな事件とか事故は記録を残してるの。その記録のどこかで、読んだ覚えが……」
     と、そこで小鈴が黙り込んだ。

    「どうしたの?」「しっ」
     小鈴は傍らの魔杖を手に取りつつ、雪乃にも武器を持つよう無言で促す。
    「……?」
     雪乃も刀を佩きつつ、周囲に注意を配る。
     と――どこからか、しゅう、しゅう……、と、何らかの獣が息を潜めているかのような声が聞こえてきた。
    (……いいえ、どこからか、じゃない。目の前――鏡子ちゃんのところから!)
     その声は、少しずつ大きく、獰猛になっていく。
    「すう……しゅう……しゅう……すう……しゅるる……しゅるル……クルルル……グル、ルルルル……」
     そして同時に、雪乃は我が目を疑った。
     毛布の端からちょこんと見えていた手がみるみる大きくなり、そして爪が伸びて凶悪な形になっていく。
     反対側の端から覗いていた尻尾も大きさを増し、ふわふわとしていた毛並みは脂が乗り、ギラギラと光り出す。
     そして彼女の顔も、安らかな少女のものだったそれが、口からにゅるりと牙が伸び、全面にわさわさと毛が生え出して、獣のそれへと変貌していく。
    「なに……これ……!」
    「正直、分かんないわ……」
     鏡子だったその獣はパチ、と目を開け、くんくんと鼻を鳴らし始めた。
    「グルルルル……」
    「いかにも『食べ物探してます』って目、してるわよ」
    「そーね。……雪乃、コレけっこーヤバそうよ」
    「……ええ」
     やがてその怪物は雪乃と小鈴に、視点を定めた。
    「グルルル……グオオオオッ!」
    「来るわよ!」
     雪乃と小鈴は武器を構え、向かってきた怪物と対峙した。

     人間としての理性は完全に無いらしく、怪物は一直線に、迷うことなく小鈴へと向かってくる。
    「狙い、もしかしてあたし!?」
    「やっぱり肉付きが良さそうだからじゃない?」
    「脂肪だらけだから美味しくないわよ、きっと! ……『マジックシールド』!」
     小鈴は呪文を発動し、自分たちの前に半透明な、魔術の盾を作る。
    「グアアア……、ギャッ!?」
     突進してきた怪物は、その盾に顔を打ち付け、ごろんと倒れる。
    「きっつ……!」
     1回は防いだものの、魔術の盾には大きなひびが入る。
    「もっかい来るわよ! 雪乃、お願い!」
    「え、ええ!」
     怪物が体勢を立て直す間に、雪乃は刀に火を灯す。
    「……っ」
     しかし、その火はゆらゆらと、不安定に明滅している。
    (どうしよう……!? 相手は、さっきの……)
     雪乃の脳裏に、先程まで横で眠っていた、鏡子のあどけない顔が浮かぶ。
    「雪乃! 来るってば!」
    「……!」
     小鈴の声で、雪乃ははっと我に返る。
    「あ……っ」
     気付いた時には既に、怪物は小鈴の術を力づくで破り、今度は自分に向かって飛びかかってきたところだった。
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