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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    雪鈴遭妖 6

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    蒼天剣スピンオフ、第6話。
    気味の悪いデジャヴ。

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    6.
     朝になり、二人はもと野宿していた場所に戻ってきた。
    「良かった、荷物は元のままね。……雪乃、大丈夫?」
    「ええ。血は結構出ていたみたいだけど、普通に歩けるわ」
    「コレで一安心ね。……後は、『鏡子』のコトだけど」
     雪乃と小鈴はざっくりと切り裂かれてしまった道着と毛布を繕いながら、今後の対応を検討する。
    「選択肢は2つね。急いでこの場から逃げるか、それとも『鏡子』を倒すか」
    「選びたいのは前者ね。不意を突かれたとは言え、あれだけ獰猛なのは相手にしてられないわ。
     ……でも、あのまま放っておいたら、もしかしたら追いかけて来るかも知れないし、他の人が襲われるかも知れないし」
    「否定はできないわね。……ねえ、雪乃」
    「なに?」
    「あたし、鈴原教授の話を、頑張って思い出してみたんだけどね」
     と、小鈴が話を切り出そうとしたところで――。
    「……っ……」
     どこからか、かすかに悲鳴が聞こえてきた。
    「……今の?」
    「行ってみましょう!」
     二人は繕いかけのものを置き、武器を手に向かった。

     向かった先には、信じられないものが待っていた。
    「……え?」
    「どう言うこと?」
     それは昨日の事件が無ければ、すぐにでも飛び出していたであろう状況だった。
    「フシュルルルル……」
    「シャアアア……」
     狐獣人の女の子が、真っ青な蛇5匹に囲まれていたからだ。
    「え、と、……え?」
     昨日と違うのは、蛇の数と、女の子の見た目が、昨日よりもいくらか年上に見えたこと。そして一見、昨日と同じものを着ているように見えるが――。
    「……雪乃、あの紋って」
    「え、ええ……」
     彼女の来ていた服には、雪乃の道着に染め抜かれているのと同じ、焔流の家紋が付けられていた。
    「た、助けて!」
     その女の子は雪乃たちを見て、助けを求めてきた。
     その流れは昨日、雪乃が鏡子を助けた時と、まったく一致していた。

     ともかく、助けを請われた以上は見捨てるわけにも行かず、雪乃たちは蛇を退治した。
    「ありがとうございました!」
     女の子は深々と頭を下げ、雪乃たちに礼を言った。
    「いえ、まあ、当然のことを……、したまでで」
     何が起こっているのか分からず、雪乃たちはぎこちなく応対する。
    「私、まだまだ未熟な身でして」
    「そ、そう。……あの、その紋」
    「はい。あ、同門の方なのですね! 失礼いたしました!」
     女の子はもう一度、ぺこりと頭を下げ、名を名乗った。
    「私、鈴原鏡子と申します! 央南は玄州、川料から旅をして参りました!」



    (ねえ、……わたし、何が何だかさっぱり分かんないんだけど)
    (あたしだって分かんないわよ)
     目の前にふたたび現れた「鏡子」は、雪乃たちのことをまったく覚えていない。と言うよりも、初めて出会ったような素振りを見せていた。
    「どうされましたか、雪乃の姉(あね)さん?」
    「い、いいえ? 何でも? ……えーと、鏡子ちゃん。……その、焔流の紋付を着てると言うことは、うちの剣士なのよね? 昔、……から?」
    「あ、いえ。昔は天神大学の方で魔術を学んでおりましたが、旅をする間に焔流へと入門いたしまして」
    「そ、そう」
     前日と違う話の筋に、雪乃は困惑する。
    (どう考えても変よ、こんなの……。確かにこの子、昨日の鏡子ちゃんよね?)
    (……違うのかも)
     鏡子が焚き火にかけられた鍋の様子を見ている隙に、二人は小声で状況を確認し合う。
    (明らかに、記憶がすり替わってるわ。天神大学以前の記憶は、一緒みたいだけど)
    (別人、……じゃないわよね?)
    (半分別人、って感じね。……コレは仮説なんだけど)
     小鈴はチラチラと鏡子を見つつ、この異常を推理した。
    (あの子は怪物の時に、アンタの『記憶』を喰ったのかも知れない)
    (記憶……?)
    (言い換えれば、アンタの人物特性。剣士であることや身体能力、年齢なんかを。
     ホラ、昨日より大人になって見えるじゃん?)
    (そう、ね)
    (昨日流した血の分だけ、この子はアンタに近付いたのよ、きっと。もしも丸ごと喰われてたら、恐らくこの子はアンタそっくりになってたでしょうね)
    (まさか、そんな……!?)
    「あの?」
     と、鏡子が不安そうな目を向けてくる。
    「な、何かしら」
    「お顔が優れないご様子ですが、如何されましたか?」
    「ううん、何でも。……昨日ちょっと、ケガをしたから」
    「お怪我を?」
     鏡子は口を両手で覆い、顔を蒼ざめさせる。
    「ご無事なのですか!?」
    「ええ、小鈴が魔術で治してくれたから大丈夫よ」
    「そうでしたか……」
     どうやら、昨日の出来事はまったく、彼女の記憶から抜け落ちているようだった。
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