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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    雪鈴遭妖 9

     ←雪鈴遭妖 8 →火紅狐 目次(第6部;『大三角形』と金火狐継承騒動編 前編)
    蒼天剣スピンオフ、最終話。
    妖怪話の終わり。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    9.
    「……ひ、っ」
     背後の「鏡子」に気付いた小鈴は、咄嗟に魔杖を構えた。
    「ギ、イイイイイッ!」
     飛び込んできた「鏡子」は、小鈴に向かって爪を振り下ろす。
    「きゃああっ!」
     「鏡子」の爪はベキ、と音を立てて、小鈴の杖を真っ二つにした。
     しかし幸いなことに、その衝撃で小鈴本人は弾かれ、「鏡子」の間合いから外れる。
    「小鈴、そのまま横になってて!」
     雪乃はあらん限りの力を込めて、「火射」を放つ。
    「今度こそ、……燃えろおおおおおッ!」
     真っ赤に燃える剣閃が「鏡子」を捉え、もう一度「鏡子」は炎上する。
    「グア、ア、アッ」
     先程よりも燃える勢いは激しく、「鏡子」はバタバタともがく。
     そしてそのまま、崖から転がり落ちた。
    「……はあ……っ」
     雪乃は刀を構えたまま、「鏡子」が上がってこないか警戒する。
    「……もう大丈夫、……みたいよ」
     小鈴が立ち上がり、崖をもう一度覗き込む。
    「ホラ、あそこ」
     雪乃は恐る恐る、小鈴が指し示す方を見る。
    「……」
     崖の、かなり下の方に、真っ赤な点が見える。
     数分ほどしてその点は、すっと消えた。
    「……流石にこれだけの高さから落ちて、あれだけ燃えていたら」
    「今度こそ、決着したでしょーね。……あーあ」
     小鈴は真っ二つに折られた杖を拾い、残念そうな声を出す。
    「コレじゃ多分、もう使えないわね」
    「どうしよっか……?」
    「一旦引き返すしかないわね。あたし単体の魔力じゃ鼻血止めたり、虫刺されを治したりが精一杯だし。
     それに雪乃、アンタもボロボロでしょ。ケガもしてるし、失血もあるし」
    「……そうね」
    「あたしん家で休んだら? ふもとから、歩いて二日くらいだし」
     雪乃は肩をすくめ、刀を納めた。
    「お言葉に甘えさせてもらおうかしら。山越えはまた、元気になってからね」
    「そうしよ、そうしよっ。
     ま、ご飯のうまさは保証するわ。ウチは情報屋兼、定食屋だし」
     二人は荷物を取りに行くため、元居た場所へと戻っていった。



    「……ってワケで、最初の山越えは失敗しちゃったのよね」
    「なんと、そんな出来事が……」
     話を聞き終え、晴奈はチラ、と小鈴の持つ魔杖を見た。
    「そ、そ。この杖、その後に実家からもらったのよ。
     んで、もう一度山越えに挑戦して、その後はすんなり成功。あたしたちはゴールドコーストに行って、……ってのは、雪乃から聞いたんだっけ」
    「ええ。二人とも、ずっとそこに?」
    「ううん。あたしがいたのは3日くらいかな。その後はすぐ、北の方に行ったわね。雪乃は半年くらいいたらしいけど」
     と、部屋の戸がトントン、とノックされる。
    「晴奈、いる? 良太と街に行った帰りにお土産買ってきたんだけど、一緒にどうかしら?」
    「あ、はい」
     戸を開け、雪乃とその恋人、良太が入ってくる。
    「あら、小鈴」
    「ご無沙汰してます、小鈴さん」
    「どーもー。アツアツそうで何よりね」
     手を握ったままの二人を見て、小鈴が茶化す。
    「あっ……」
     慌てて手を離した雪乃を見て、小鈴はニヤニヤ笑った。
    「いいわねー、幸せそうで。あたしもそんな彼氏、ほしいわぁ」
    「小鈴ならすぐよ、きっと」
    「ま、ボチボチ探すコトにするわ。あ、あたしもお茶、お呼ばれしちゃっていい?」
    「ええ、勿論」
     雪乃はにっこりと、小鈴に笑いかけた。



     数年、あるいは、数十年後――。
    「本当に助かりました、ありがとうございます」
     一人の旅人が、屏風山脈の山道を少し外れたところで、青い蛇に囲まれていた狐獣人の少女を助けた。
    「いや、礼なんかいいよ。
     それより、一人でこんなところをうろうろしていては危険だ。俺と一緒に行かないか?」
    「いいんですか?」
    「ああ、構わん。……と、君、名前は?」
     少女はぺこりと頭を下げ、こう名乗った。
    「私、鈴原鏡子と申します。央南は玄州、川料から旅をして参りました」

    雪鈴遭妖 終
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