「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
雪鈴遭妖 9
蒼天剣スピンオフ、最終話。
妖怪話の終わり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
「……ひ、っ」
背後の「鏡子」に気付いた小鈴は、咄嗟に魔杖を構えた。
「ギ、イイイイイッ!」
飛び込んできた「鏡子」は、小鈴に向かって爪を振り下ろす。
「きゃああっ!」
「鏡子」の爪はベキ、と音を立てて、小鈴の杖を真っ二つにした。
しかし幸いなことに、その衝撃で小鈴本人は弾かれ、「鏡子」の間合いから外れる。
「小鈴、そのまま横になってて!」
雪乃はあらん限りの力を込めて、「火射」を放つ。
「今度こそ、……燃えろおおおおおッ!」
真っ赤に燃える剣閃が「鏡子」を捉え、もう一度「鏡子」は炎上する。
「グア、ア、アッ」
先程よりも燃える勢いは激しく、「鏡子」はバタバタともがく。
そしてそのまま、崖から転がり落ちた。
「……はあ……っ」
雪乃は刀を構えたまま、「鏡子」が上がってこないか警戒する。
「……もう大丈夫、……みたいよ」
小鈴が立ち上がり、崖をもう一度覗き込む。
「ホラ、あそこ」
雪乃は恐る恐る、小鈴が指し示す方を見る。
「……」
崖の、かなり下の方に、真っ赤な点が見える。
数分ほどしてその点は、すっと消えた。
「……流石にこれだけの高さから落ちて、あれだけ燃えていたら」
「今度こそ、決着したでしょーね。……あーあ」
小鈴は真っ二つに折られた杖を拾い、残念そうな声を出す。
「コレじゃ多分、もう使えないわね」
「どうしよっか……?」
「一旦引き返すしかないわね。あたし単体の魔力じゃ鼻血止めたり、虫刺されを治したりが精一杯だし。
それに雪乃、アンタもボロボロでしょ。ケガもしてるし、失血もあるし」
「……そうね」
「あたしん家で休んだら? ふもとから、歩いて二日くらいだし」
雪乃は肩をすくめ、刀を納めた。
「お言葉に甘えさせてもらおうかしら。山越えはまた、元気になってからね」
「そうしよ、そうしよっ。
ま、ご飯のうまさは保証するわ。ウチは情報屋兼、定食屋だし」
二人は荷物を取りに行くため、元居た場所へと戻っていった。
「……ってワケで、最初の山越えは失敗しちゃったのよね」
「なんと、そんな出来事が……」
話を聞き終え、晴奈はチラ、と小鈴の持つ魔杖を見た。
「そ、そ。この杖、その後に実家からもらったのよ。
んで、もう一度山越えに挑戦して、その後はすんなり成功。あたしたちはゴールドコーストに行って、……ってのは、雪乃から聞いたんだっけ」
「ええ。二人とも、ずっとそこに?」
「ううん。あたしがいたのは3日くらいかな。その後はすぐ、北の方に行ったわね。雪乃は半年くらいいたらしいけど」
と、部屋の戸がトントン、とノックされる。
「晴奈、いる? 良太と街に行った帰りにお土産買ってきたんだけど、一緒にどうかしら?」
「あ、はい」
戸を開け、雪乃とその恋人、良太が入ってくる。
「あら、小鈴」
「ご無沙汰してます、小鈴さん」
「どーもー。アツアツそうで何よりね」
手を握ったままの二人を見て、小鈴が茶化す。
「あっ……」
慌てて手を離した雪乃を見て、小鈴はニヤニヤ笑った。
「いいわねー、幸せそうで。あたしもそんな彼氏、ほしいわぁ」
「小鈴ならすぐよ、きっと」
「ま、ボチボチ探すコトにするわ。あ、あたしもお茶、お呼ばれしちゃっていい?」
「ええ、勿論」
雪乃はにっこりと、小鈴に笑いかけた。
数年、あるいは、数十年後――。
「本当に助かりました、ありがとうございます」
一人の旅人が、屏風山脈の山道を少し外れたところで、青い蛇に囲まれていた狐獣人の少女を助けた。
「いや、礼なんかいいよ。
それより、一人でこんなところをうろうろしていては危険だ。俺と一緒に行かないか?」
「いいんですか?」
「ああ、構わん。……と、君、名前は?」
少女はぺこりと頭を下げ、こう名乗った。
「私、鈴原鏡子と申します。央南は玄州、川料から旅をして参りました」
雪鈴遭妖 終
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妖怪話の終わり。
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9.
「……ひ、っ」
背後の「鏡子」に気付いた小鈴は、咄嗟に魔杖を構えた。
「ギ、イイイイイッ!」
飛び込んできた「鏡子」は、小鈴に向かって爪を振り下ろす。
「きゃああっ!」
「鏡子」の爪はベキ、と音を立てて、小鈴の杖を真っ二つにした。
しかし幸いなことに、その衝撃で小鈴本人は弾かれ、「鏡子」の間合いから外れる。
「小鈴、そのまま横になってて!」
雪乃はあらん限りの力を込めて、「火射」を放つ。
「今度こそ、……燃えろおおおおおッ!」
真っ赤に燃える剣閃が「鏡子」を捉え、もう一度「鏡子」は炎上する。
「グア、ア、アッ」
先程よりも燃える勢いは激しく、「鏡子」はバタバタともがく。
そしてそのまま、崖から転がり落ちた。
「……はあ……っ」
雪乃は刀を構えたまま、「鏡子」が上がってこないか警戒する。
「……もう大丈夫、……みたいよ」
小鈴が立ち上がり、崖をもう一度覗き込む。
「ホラ、あそこ」
雪乃は恐る恐る、小鈴が指し示す方を見る。
「……」
崖の、かなり下の方に、真っ赤な点が見える。
数分ほどしてその点は、すっと消えた。
「……流石にこれだけの高さから落ちて、あれだけ燃えていたら」
「今度こそ、決着したでしょーね。……あーあ」
小鈴は真っ二つに折られた杖を拾い、残念そうな声を出す。
「コレじゃ多分、もう使えないわね」
「どうしよっか……?」
「一旦引き返すしかないわね。あたし単体の魔力じゃ鼻血止めたり、虫刺されを治したりが精一杯だし。
それに雪乃、アンタもボロボロでしょ。ケガもしてるし、失血もあるし」
「……そうね」
「あたしん家で休んだら? ふもとから、歩いて二日くらいだし」
雪乃は肩をすくめ、刀を納めた。
「お言葉に甘えさせてもらおうかしら。山越えはまた、元気になってからね」
「そうしよ、そうしよっ。
ま、ご飯のうまさは保証するわ。ウチは情報屋兼、定食屋だし」
二人は荷物を取りに行くため、元居た場所へと戻っていった。
「……ってワケで、最初の山越えは失敗しちゃったのよね」
「なんと、そんな出来事が……」
話を聞き終え、晴奈はチラ、と小鈴の持つ魔杖を見た。
「そ、そ。この杖、その後に実家からもらったのよ。
んで、もう一度山越えに挑戦して、その後はすんなり成功。あたしたちはゴールドコーストに行って、……ってのは、雪乃から聞いたんだっけ」
「ええ。二人とも、ずっとそこに?」
「ううん。あたしがいたのは3日くらいかな。その後はすぐ、北の方に行ったわね。雪乃は半年くらいいたらしいけど」
と、部屋の戸がトントン、とノックされる。
「晴奈、いる? 良太と街に行った帰りにお土産買ってきたんだけど、一緒にどうかしら?」
「あ、はい」
戸を開け、雪乃とその恋人、良太が入ってくる。
「あら、小鈴」
「ご無沙汰してます、小鈴さん」
「どーもー。アツアツそうで何よりね」
手を握ったままの二人を見て、小鈴が茶化す。
「あっ……」
慌てて手を離した雪乃を見て、小鈴はニヤニヤ笑った。
「いいわねー、幸せそうで。あたしもそんな彼氏、ほしいわぁ」
「小鈴ならすぐよ、きっと」
「ま、ボチボチ探すコトにするわ。あ、あたしもお茶、お呼ばれしちゃっていい?」
「ええ、勿論」
雪乃はにっこりと、小鈴に笑いかけた。
数年、あるいは、数十年後――。
「本当に助かりました、ありがとうございます」
一人の旅人が、屏風山脈の山道を少し外れたところで、青い蛇に囲まれていた狐獣人の少女を助けた。
「いや、礼なんかいいよ。
それより、一人でこんなところをうろうろしていては危険だ。俺と一緒に行かないか?」
「いいんですか?」
「ああ、構わん。……と、君、名前は?」
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