「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・弾劾記 1
フォコの話、285話目。
詰問される総帥。
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1.
央中、イエローコーストの、金火狐一族の屋敷内、会議室。
一族に並んで睨まれる形で、ケネスは当主の席に座っていた。
「アンタ、……もう、何から言うていったらええか、分からんわ」
「ホンマやわ。まさか、アンタがこんだけポコポコ損害やら負債やら、立て続けに出すとは思わへんわな、なぁ?」
「……」
十数年前――ケネスが一族の当主、商会の総帥となり、一族の全事業を凍結、統合した頃は反抗できず、口を閉ざしていた彼らも、現在に至っては、従来の発言権を取り戻しつつあった。
何故なら――。
「西方のなんちゅうたっけ、スプーン? スパロー?」
「スパスや、スパス」
「ああそうそう、スパス興業やったか産業やったか、……産業やったっけな」
「産業で合うとる」
「それや、そのスパスさんとこに、アホみたいにドバドバ出資して、ほんで今そこ、焦げ付いとるっちゅう話やろ?」
「せや、それに南海の方でも、お妾さんにしたレヴィア女王に武器やら弾薬やら貢いで、結局、全部わやくちゃになったとか聞いとるで。戦争にボロ負けして」
「おまけにアレや、西方のエール商会さんとこの借金も全額肩代わりしたっちゅう件も、ずーっとそのままになっとるし」
この十数年間、一族の有する事業のほとんどは、ケネスの裁量および独断によって運営され、その利益をケネスが一手に握り、大部分を私物化する一方で、残りの一割、二割を一族へ配分する形をとっていた。
ところがその裁量において、莫大な額の損害も発生していたのである。
「なあ、ケネスの御当主さん。ちょこっとでええからコレ、勘定したってほしいんやけどもな」
一族の一人、前総帥レオンの従兄弟に当たるジャンニが席を立ち、ケネスのすぐ横に立って、一枚の書類を見せ付ける。
「エール商会の借金が、約300億クラム。スパス産業とエール商会への投資総額が、220億。北方への武器輸出計画やら、南海への武器提供やらで発行した債券が、280億。
総額、いくらか。ちょっと言うてみてもろて、ええか?」
「……子供でも分かる足し算ですな」
「せやなぁ。ほな、ポンっと答えたってや」
フランクに話しかけてはいるが、ジャンニの目は全く笑っていない。
「……」
ケネスは苦々しい顔で、その答えを言った。
「……800億クラム、だ」
「そう、その通りや。流石、ノイマン塾出の人間はちゃうなぁ。計算、はっやいわぁ」
「……当てこすりはやめていただきたい」
「ほーお」
その瞬間、場の空気が変わる。
「せやったら、はっきり言わせてもらいまっさ!
この800億、どないしはるつもりですのん!?」
「800億やで、800億!」
「こんなん、一族の歴史上で最高額の大損害、大恥や! 帳簿とウチらの顔が、真っ赤になりすぎて火ぃ噴いてまうわ!」
「これをどないして解消するつもりか、ここではっきり言うてもらおうやないですか!」
一族に問い詰められるが、ケネスはふてぶてしく答える。
「……その損害は、ゴールドマン商会としての損害だ。であれば、一族全体で分担し、連帯責任で……」「アホなこと言いなや!」
この回答に当然、一族は激怒した。
「アンタが『全部自分でやるから、利益も自分のもんですわ』っちゅうて、儲けを全部自分の懐へ入れといて、いざ損したら、『この借金はみんなのもんにしとこか』とか、アタマおかしいんか!?」
「せや! アンタの勝手で作った負債を、なんでウチらが払わんといかんのや!? なめとんのか、コラ!」
「ふざけんのも大概にせえよ……!」
自分を責め立てる一族に辟易しつつ、ケネスはふんぞり返って、こう脅した。
「ふざける? おやおや、長い間私の庇護の下、平和に過ごしたせいで、何が真面目で何がふざけたことか、分からなくなってしまったようですな」
「何やと?」
「いいですかな、この十数年間、あなたがたが平穏無事に商売をして来られたのは、一体誰のおかげか、よくご理解いただきたい。
そう、この私が、央中の政治経済を敵視する中央政府とうまく折り合いを付けてきたからこそ、ではないですか?
それを忘れて、負債を背負う義務、道理がない、と? やれやれ、とんだ恩知らずたちだ」
「……」
「いいですかな、私が『向こう』へ話を付けていなければ、とっくの昔に央中へ、中央政府及び中央軍からの政治、および武力による介入が発生し、まっとうな商売などできなかった。
それも忘れて、利益だけを重視し、損害に目を背けようとは!」
ケネスは言葉の裏に、「私に楯突くと中央軍が黙っていないぞ」と言う脅しを乗せ、威嚇したつもりだった。
これまでにも、程度は違えどケネスに反発する動きはあり、ケネスはそれらを、この脅しを使って封じ込めてきた。
「それはアンタのことやろが」
だが、今回ばかりはとある事情により、通用しなかった。
「とにかく、ウチらからはこう、要求させてもらうで。
この800億っちゅうアホみたいな負債、ゴールドマン商会に頼らない形で――つまりアンタ本来の、アンタが元々、婿入りする前から持っとった事業の裁量・範囲内で、ゴールドマン商会に対して弁償してもらう。
それがでけへんっちゅうんなら、アンタにはもうこれ以上、総帥を任せてられへん。こんなふざけた損害をバンバン出すような奴を、ウチらのトップには置いてられへんからな」
「ほう、つまりはこの私を、罷免すると言うのですかな?」
ふんぞり返るケネスに対し、ジャンニはニヤリと笑って見せた。
「分かっとるんやったら話は早いわ。ちょうど、次の総帥に立候補するっちゅう人もいてはるしな」
「……何ですと?」
ケネスはその言葉に、ぞわりとした不安を覚えた。
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詰問される総帥。
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央中、イエローコーストの、金火狐一族の屋敷内、会議室。
一族に並んで睨まれる形で、ケネスは当主の席に座っていた。
「アンタ、……もう、何から言うていったらええか、分からんわ」
「ホンマやわ。まさか、アンタがこんだけポコポコ損害やら負債やら、立て続けに出すとは思わへんわな、なぁ?」
「……」
十数年前――ケネスが一族の当主、商会の総帥となり、一族の全事業を凍結、統合した頃は反抗できず、口を閉ざしていた彼らも、現在に至っては、従来の発言権を取り戻しつつあった。
何故なら――。
「西方のなんちゅうたっけ、スプーン? スパロー?」
「スパスや、スパス」
「ああそうそう、スパス興業やったか産業やったか、……産業やったっけな」
「産業で合うとる」
「それや、そのスパスさんとこに、アホみたいにドバドバ出資して、ほんで今そこ、焦げ付いとるっちゅう話やろ?」
「せや、それに南海の方でも、お妾さんにしたレヴィア女王に武器やら弾薬やら貢いで、結局、全部わやくちゃになったとか聞いとるで。戦争にボロ負けして」
「おまけにアレや、西方のエール商会さんとこの借金も全額肩代わりしたっちゅう件も、ずーっとそのままになっとるし」
この十数年間、一族の有する事業のほとんどは、ケネスの裁量および独断によって運営され、その利益をケネスが一手に握り、大部分を私物化する一方で、残りの一割、二割を一族へ配分する形をとっていた。
ところがその裁量において、莫大な額の損害も発生していたのである。
「なあ、ケネスの御当主さん。ちょこっとでええからコレ、勘定したってほしいんやけどもな」
一族の一人、前総帥レオンの従兄弟に当たるジャンニが席を立ち、ケネスのすぐ横に立って、一枚の書類を見せ付ける。
「エール商会の借金が、約300億クラム。スパス産業とエール商会への投資総額が、220億。北方への武器輸出計画やら、南海への武器提供やらで発行した債券が、280億。
総額、いくらか。ちょっと言うてみてもろて、ええか?」
「……子供でも分かる足し算ですな」
「せやなぁ。ほな、ポンっと答えたってや」
フランクに話しかけてはいるが、ジャンニの目は全く笑っていない。
「……」
ケネスは苦々しい顔で、その答えを言った。
「……800億クラム、だ」
「そう、その通りや。流石、ノイマン塾出の人間はちゃうなぁ。計算、はっやいわぁ」
「……当てこすりはやめていただきたい」
「ほーお」
その瞬間、場の空気が変わる。
「せやったら、はっきり言わせてもらいまっさ!
この800億、どないしはるつもりですのん!?」
「800億やで、800億!」
「こんなん、一族の歴史上で最高額の大損害、大恥や! 帳簿とウチらの顔が、真っ赤になりすぎて火ぃ噴いてまうわ!」
「これをどないして解消するつもりか、ここではっきり言うてもらおうやないですか!」
一族に問い詰められるが、ケネスはふてぶてしく答える。
「……その損害は、ゴールドマン商会としての損害だ。であれば、一族全体で分担し、連帯責任で……」「アホなこと言いなや!」
この回答に当然、一族は激怒した。
「アンタが『全部自分でやるから、利益も自分のもんですわ』っちゅうて、儲けを全部自分の懐へ入れといて、いざ損したら、『この借金はみんなのもんにしとこか』とか、アタマおかしいんか!?」
「せや! アンタの勝手で作った負債を、なんでウチらが払わんといかんのや!? なめとんのか、コラ!」
「ふざけんのも大概にせえよ……!」
自分を責め立てる一族に辟易しつつ、ケネスはふんぞり返って、こう脅した。
「ふざける? おやおや、長い間私の庇護の下、平和に過ごしたせいで、何が真面目で何がふざけたことか、分からなくなってしまったようですな」
「何やと?」
「いいですかな、この十数年間、あなたがたが平穏無事に商売をして来られたのは、一体誰のおかげか、よくご理解いただきたい。
そう、この私が、央中の政治経済を敵視する中央政府とうまく折り合いを付けてきたからこそ、ではないですか?
それを忘れて、負債を背負う義務、道理がない、と? やれやれ、とんだ恩知らずたちだ」
「……」
「いいですかな、私が『向こう』へ話を付けていなければ、とっくの昔に央中へ、中央政府及び中央軍からの政治、および武力による介入が発生し、まっとうな商売などできなかった。
それも忘れて、利益だけを重視し、損害に目を背けようとは!」
ケネスは言葉の裏に、「私に楯突くと中央軍が黙っていないぞ」と言う脅しを乗せ、威嚇したつもりだった。
これまでにも、程度は違えどケネスに反発する動きはあり、ケネスはそれらを、この脅しを使って封じ込めてきた。
「それはアンタのことやろが」
だが、今回ばかりはとある事情により、通用しなかった。
「とにかく、ウチらからはこう、要求させてもらうで。
この800億っちゅうアホみたいな負債、ゴールドマン商会に頼らない形で――つまりアンタ本来の、アンタが元々、婿入りする前から持っとった事業の裁量・範囲内で、ゴールドマン商会に対して弁償してもらう。
それがでけへんっちゅうんなら、アンタにはもうこれ以上、総帥を任せてられへん。こんなふざけた損害をバンバン出すような奴を、ウチらのトップには置いてられへんからな」
「ほう、つまりはこの私を、罷免すると言うのですかな?」
ふんぞり返るケネスに対し、ジャンニはニヤリと笑って見せた。
「分かっとるんやったら話は早いわ。ちょうど、次の総帥に立候補するっちゅう人もいてはるしな」
「……何ですと?」
ケネスはその言葉に、ぞわりとした不安を覚えた。
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