「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・弾劾記 2
フォコの話、286話目。
名乗りを上げた青年。
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2.
ケネスは平静を装おうとしたが、一族の何名かは、その内心を見透かしたようだった。
「まあ、その人と、その身元保証人からな、打診があったんやわ。『ケネス・エンターゲート氏の罷免と、自分が総帥を継承することを要求する』っちゅうて。んで、その見返りに、今話してた、アンタの借金の一部を肩代わりし、残りも帳消しにでける算段がある、と。
まあ、平たく言うたら、その人はゴールドマン商会総帥の椅子を800億分で買おう、っちゅうわけや。ウチらにしてみたら、大した苦労をせずに負債を解消でけるんやし、安いもんやな、とは思うわけや」
「……ことごとく、ふざけたことを仰る」
ケネスは唇を震わせ、罵倒を交えて却下しようとした。
「この誇りある金火狐一族の椅子を、どこの馬の骨とも分からぬ青二才に、金で売るというのですか!
なんと浅ましく、下賤な考えか! そんなことを認めれば、途端に一族の地位は地に落ちることになる! 断じてそんな提案、私は容認できない!」
「アンタそれ、自分の身の程知ってて言うてるん?」
が、ジャンニはその意見を鼻で笑う。
「元々ウチらの一家に、お婿さんとして入った身やないか、アンタは。それが何や、他に同じことしようとしとる奴が出たら、『私は断じて認めない』て。
アンタそれ、自分で自分を否定しとるんやで? 話の筋が、大元からおかしいと思わへんのかいな」
「ぐ……っ」
矛盾を指摘され、ケネスは口をつぐむ。
「それにな、今回に関しては、『誰や分からん馬の骨』とちゃうねんや。
まあ、聞いたらアンタもびっくりする人や。北方やら南海やらで大活躍しとる、ホコウ・ソレイユっちゅう人からやねん」
「ああ……。評判は、……ええ、聞いてはいますな」
その名前を聞き、ケネスは露骨に苦い顔をした。前述の彼の失敗に、ことごとく付いて回る存在だったからである。
当然、ケネスがその名前に抱いている印象は、非常に悪いものだった。
「なるほど。確かに若手の、名の知れた商人たちの中では、群を抜いて活躍しているとは聞いています。
しかし、謎の多い人物でもあるとか。曰く、暑い南海地域においてでさえずっとフードを被り、奇妙な訛りで絵空事を語り、良く言えば斬新、悪く言えば奇抜なアイデアを繰り出して、場当たり的に金儲けをしている、気味の悪い狐獣人だと言う。
私に言わせてもらえば、こんなわけの分からない人間に、簡単に家督を明け渡していいものか、甚だ疑問ですな。これを良しとするとは、まったく正気とは思えない」
頭ごなしにけなすケネスに対し、一族は揃って、ニヤニヤと笑っている。
「……何です?」
「……まあ、順を追って話、していこか。
ソレイユ君から話が来たんは、半月くらい前やねん。ほんで、身元保証人の一覧やら何やら見て、二度も三度もびっくりしたわ。
央中のネール職人組合総長、北方のキルシュ流通会長、南海のロクミン総裁及び副総裁。こんだけ大商人の名前が揃っとるところに、西方のリオン商会総裁とトット商会総裁まで、ソレイユ君を支持すると明言しとるからなぁ。
アンタも知っとる通り、西方商人はまず、西方人やない奴に名義なんか貸すわけがない。やのに、西方商業網を代表する巨頭二人が、身元証明をしてくれとる。それだけでも、このソレイユ君がとんでもない奴やっちゅうのんは、誰にでも分かる話や。そうやろ?」
「眉唾物ですな。偽造の可能性もある」
あくまでケネスは、話を信用しようとはしない。だが一族側も、主張を崩さない。
「何よりも、彼自身の経歴がすごいんよ。ま、そこら辺は知っとるみたいやし、わざわざ語らんでもええやろうけども。
……で、ここからが本題や。よく聞いとれよ、……ケネス・エンターゲート」
そう言って、ジャンニは一歩、ケネスから引いた。
「そのソレイユ氏からな、驚くべきニュースが3つ、リークされたんや。
そのうちの1つは――アンタが、前総帥のレオン夫妻を殺したっちゅう話なんや」
「……!」
この告発に、ケネスは言葉を失った。
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名乗りを上げた青年。
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ケネスは平静を装おうとしたが、一族の何名かは、その内心を見透かしたようだった。
「まあ、その人と、その身元保証人からな、打診があったんやわ。『ケネス・エンターゲート氏の罷免と、自分が総帥を継承することを要求する』っちゅうて。んで、その見返りに、今話してた、アンタの借金の一部を肩代わりし、残りも帳消しにでける算段がある、と。
まあ、平たく言うたら、その人はゴールドマン商会総帥の椅子を800億分で買おう、っちゅうわけや。ウチらにしてみたら、大した苦労をせずに負債を解消でけるんやし、安いもんやな、とは思うわけや」
「……ことごとく、ふざけたことを仰る」
ケネスは唇を震わせ、罵倒を交えて却下しようとした。
「この誇りある金火狐一族の椅子を、どこの馬の骨とも分からぬ青二才に、金で売るというのですか!
なんと浅ましく、下賤な考えか! そんなことを認めれば、途端に一族の地位は地に落ちることになる! 断じてそんな提案、私は容認できない!」
「アンタそれ、自分の身の程知ってて言うてるん?」
が、ジャンニはその意見を鼻で笑う。
「元々ウチらの一家に、お婿さんとして入った身やないか、アンタは。それが何や、他に同じことしようとしとる奴が出たら、『私は断じて認めない』て。
アンタそれ、自分で自分を否定しとるんやで? 話の筋が、大元からおかしいと思わへんのかいな」
「ぐ……っ」
矛盾を指摘され、ケネスは口をつぐむ。
「それにな、今回に関しては、『誰や分からん馬の骨』とちゃうねんや。
まあ、聞いたらアンタもびっくりする人や。北方やら南海やらで大活躍しとる、ホコウ・ソレイユっちゅう人からやねん」
「ああ……。評判は、……ええ、聞いてはいますな」
その名前を聞き、ケネスは露骨に苦い顔をした。前述の彼の失敗に、ことごとく付いて回る存在だったからである。
当然、ケネスがその名前に抱いている印象は、非常に悪いものだった。
「なるほど。確かに若手の、名の知れた商人たちの中では、群を抜いて活躍しているとは聞いています。
しかし、謎の多い人物でもあるとか。曰く、暑い南海地域においてでさえずっとフードを被り、奇妙な訛りで絵空事を語り、良く言えば斬新、悪く言えば奇抜なアイデアを繰り出して、場当たり的に金儲けをしている、気味の悪い狐獣人だと言う。
私に言わせてもらえば、こんなわけの分からない人間に、簡単に家督を明け渡していいものか、甚だ疑問ですな。これを良しとするとは、まったく正気とは思えない」
頭ごなしにけなすケネスに対し、一族は揃って、ニヤニヤと笑っている。
「……何です?」
「……まあ、順を追って話、していこか。
ソレイユ君から話が来たんは、半月くらい前やねん。ほんで、身元保証人の一覧やら何やら見て、二度も三度もびっくりしたわ。
央中のネール職人組合総長、北方のキルシュ流通会長、南海のロクミン総裁及び副総裁。こんだけ大商人の名前が揃っとるところに、西方のリオン商会総裁とトット商会総裁まで、ソレイユ君を支持すると明言しとるからなぁ。
アンタも知っとる通り、西方商人はまず、西方人やない奴に名義なんか貸すわけがない。やのに、西方商業網を代表する巨頭二人が、身元証明をしてくれとる。それだけでも、このソレイユ君がとんでもない奴やっちゅうのんは、誰にでも分かる話や。そうやろ?」
「眉唾物ですな。偽造の可能性もある」
あくまでケネスは、話を信用しようとはしない。だが一族側も、主張を崩さない。
「何よりも、彼自身の経歴がすごいんよ。ま、そこら辺は知っとるみたいやし、わざわざ語らんでもええやろうけども。
……で、ここからが本題や。よく聞いとれよ、……ケネス・エンターゲート」
そう言って、ジャンニは一歩、ケネスから引いた。
「そのソレイユ氏からな、驚くべきニュースが3つ、リークされたんや。
そのうちの1つは――アンタが、前総帥のレオン夫妻を殺したっちゅう話なんや」
「……!」
この告発に、ケネスは言葉を失った。
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