「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 1
フォコの話、290話目。
ケネス潰しの作戦会議。
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1.
「ま、とりあえず」
フォコの対面に座り、ワインをあおるカントが、遠い目をしつつ口を開く。
「西方の商業網再築に関しては、我々にお任せいただきたい」
「遊び人のあなたが何言ってるのよ。やるのは、わたしたちでしょ」
姉のサーシャに突っ込まれ、カントは肩をすくめる。
「まあ、言葉の綾、と言うやつです。本題に戻りましょ。
ニコル卿、あなたが西方商業界に介入し、そのままあなた主導で立ち直ってしまった場合、我々の立つ瀬が無くなってしまう。はっきり言えば、あなたがここにいちゃ、まずい」
「……ま、しゃあないですな、それは」
「とはいえ、強力なカードでもある。あなたの力は、借りておきたいんです」
「虫のいいことを……」
呆れるフォコに、リオン家長兄のギュストが交換条件を伝える。
「その代わりに、我々はあなたがゴールドマン家の家督を継げるよう、最大限の援助をさせていただきます。そのためなら、多少の資金でも、名義でも」
「名義? 西方商人が、外国人に名義を?」
「ええ。あなたのお力を借りるのですから、それだけの対価に見合うものでなければ」
ギュストの返答に、フォコは深く頭を下げた。
「最大限の援助、誠に痛み入ります」
フォコが二大老と話をした翌日、改めて次世代の、いずれ「大三角形」を担うだろうと目される者たちとフォコ、そしてルシアンとで、話し合いの卓が設けられた。
この席で話し合われた議題は、3つ。
まず前述の、互いの援助・協力の内容について。フォコがその世界的な販売網を「大三角形」に提供する代わりに、「大三角形」もフォコに名義を貸すことで合意された。これにより、フォコには強力なバックアップが付き、一方の「大三角形」としても、莫大な外貨を獲得する機会が得られる、双方にとって得るものの多い取り決めとなった。
そして次に、スパス潰しの作戦。これはある利権を創出することで、強力な圧力をかける方法が執られた。要約すると、「『大三角形』は海外資本との取引を行う際、彼らが認めた商会にのみ、優先的に取引を行う権利を設定した」と言うものである。そしてこの権利は当面、フォコが出資して立ち上げ直したジョーヌ海運にのみ、与えられることとなった。
これによりスパス産業は、西方内での商売を実質的に封じられてしまった。何故なら資材・原料調達のため西方内の諸商会と交渉しても、「『大三角形』が認めていない、外国の商会と取引なんてできない」と、片っ端から断られてしまうからだ。
既に南海、および北方での商業網を失い、資材調達と製品販売の場が西方にしか残っていなかったスパス産業にとって、これは非常に強い痛手となった。どこにも売買のできる場が立たず、スパス産業は市場から完全に孤立。
そして双月暦313年はじめ――風船がしぼむように、アバントは破産してしまった。
そして3つ目。
「どうやってケネスを金火狐一族の当主、およびゴールドマン商会の総帥の座から引きずりおろすか、ですけども」
「それについても、僕に考えがあります。
まず、取っ掛かりとしては昨日、僕が言ったアレを、金火狐の皆さんにリークする。これだけでも、彼らはエンターゲート氏を恐れる理由がなくなる」
「中央軍とえらい仲が悪なっとる、っちゅうやつですな。
確かに商会の経営一極統合――ケネスんとこに商売を全部引っ張ってくることがでけたんは、中央軍の実力行使によるもの。それが脅しになって、今までケネスを罷免することがでけへんかったわけですしな」
「でもそれだけじゃ、ただ『エンターゲート氏を罷免することが可能になった』と報せるだけじゃないの? あくまで可能であって、実際に罷免するのとは違うわ」
サーシャの意見に、カントは恭しくうなずく。
「ええ、仰る通り。でもエンターゲート氏には、まだまだ突かれると痛い話があるんですよ。例えば、奥さんと大ゲンカしてるとか、数百億に上る負債を作ってしまった、とか」
「数百……!?」
それを聞き、卓に着いていたカント以外の皆は目を丸くする。
リオン家長兄のギュストも例外ではなく、怪訝な顔を弟に向けた。
「おいカント、何故私や卿も知らないようなことを、お前が知っている?」
「遊び人としてあっちこっちをフラフラしてますからね。兄さんたちとはまた違う、道楽者のコネクションや情報網があるんですよ。
ま、その道楽関係の情報筋からですね、あっちこっちで精力的、かつ野心的に進めてきた事業計画がことごとく破綻、失敗して、借金がどうやっても返せないって話をよく聞くんですよ。で、僕たち『大三角形』や、ここに関係するところからも、100億、200億くらいはあるとか。あと、エール・ゼネストが起こった時の被害額も肩代わりしてるそうですから、それも300億ほどはあるでしょうし」
「100億単位での借金とは! 確か、ゴールドマン商会の資本金もその辺り――おおよそ100億か、150億か……。
そんな借金を抱えていては到底、総帥の座にのさばってなどいられんだろうな」
「西方関係の借金、負債は総額500億だったか、550億くらいと言うのが、大筋の予想です。ま、うわさに上ってる額だけでなんで、実際はもうちょっと多いかも知れないですが。
で、ここなんですけどね。西方、即ち『大三角形』筋での借金に関しては、我々の裁量と権威である程度の融通は利かせられます。それをニコル卿の武器にしてはどうでしょうか、と思いまして」
「……ふーむ、なるほど」
カントの意見に、ギュストは感心したように唸った。
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ケネス潰しの作戦会議。
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「ま、とりあえず」
フォコの対面に座り、ワインをあおるカントが、遠い目をしつつ口を開く。
「西方の商業網再築に関しては、我々にお任せいただきたい」
「遊び人のあなたが何言ってるのよ。やるのは、わたしたちでしょ」
姉のサーシャに突っ込まれ、カントは肩をすくめる。
「まあ、言葉の綾、と言うやつです。本題に戻りましょ。
ニコル卿、あなたが西方商業界に介入し、そのままあなた主導で立ち直ってしまった場合、我々の立つ瀬が無くなってしまう。はっきり言えば、あなたがここにいちゃ、まずい」
「……ま、しゃあないですな、それは」
「とはいえ、強力なカードでもある。あなたの力は、借りておきたいんです」
「虫のいいことを……」
呆れるフォコに、リオン家長兄のギュストが交換条件を伝える。
「その代わりに、我々はあなたがゴールドマン家の家督を継げるよう、最大限の援助をさせていただきます。そのためなら、多少の資金でも、名義でも」
「名義? 西方商人が、外国人に名義を?」
「ええ。あなたのお力を借りるのですから、それだけの対価に見合うものでなければ」
ギュストの返答に、フォコは深く頭を下げた。
「最大限の援助、誠に痛み入ります」
フォコが二大老と話をした翌日、改めて次世代の、いずれ「大三角形」を担うだろうと目される者たちとフォコ、そしてルシアンとで、話し合いの卓が設けられた。
この席で話し合われた議題は、3つ。
まず前述の、互いの援助・協力の内容について。フォコがその世界的な販売網を「大三角形」に提供する代わりに、「大三角形」もフォコに名義を貸すことで合意された。これにより、フォコには強力なバックアップが付き、一方の「大三角形」としても、莫大な外貨を獲得する機会が得られる、双方にとって得るものの多い取り決めとなった。
そして次に、スパス潰しの作戦。これはある利権を創出することで、強力な圧力をかける方法が執られた。要約すると、「『大三角形』は海外資本との取引を行う際、彼らが認めた商会にのみ、優先的に取引を行う権利を設定した」と言うものである。そしてこの権利は当面、フォコが出資して立ち上げ直したジョーヌ海運にのみ、与えられることとなった。
これによりスパス産業は、西方内での商売を実質的に封じられてしまった。何故なら資材・原料調達のため西方内の諸商会と交渉しても、「『大三角形』が認めていない、外国の商会と取引なんてできない」と、片っ端から断られてしまうからだ。
既に南海、および北方での商業網を失い、資材調達と製品販売の場が西方にしか残っていなかったスパス産業にとって、これは非常に強い痛手となった。どこにも売買のできる場が立たず、スパス産業は市場から完全に孤立。
そして双月暦313年はじめ――風船がしぼむように、アバントは破産してしまった。
そして3つ目。
「どうやってケネスを金火狐一族の当主、およびゴールドマン商会の総帥の座から引きずりおろすか、ですけども」
「それについても、僕に考えがあります。
まず、取っ掛かりとしては昨日、僕が言ったアレを、金火狐の皆さんにリークする。これだけでも、彼らはエンターゲート氏を恐れる理由がなくなる」
「中央軍とえらい仲が悪なっとる、っちゅうやつですな。
確かに商会の経営一極統合――ケネスんとこに商売を全部引っ張ってくることがでけたんは、中央軍の実力行使によるもの。それが脅しになって、今までケネスを罷免することがでけへんかったわけですしな」
「でもそれだけじゃ、ただ『エンターゲート氏を罷免することが可能になった』と報せるだけじゃないの? あくまで可能であって、実際に罷免するのとは違うわ」
サーシャの意見に、カントは恭しくうなずく。
「ええ、仰る通り。でもエンターゲート氏には、まだまだ突かれると痛い話があるんですよ。例えば、奥さんと大ゲンカしてるとか、数百億に上る負債を作ってしまった、とか」
「数百……!?」
それを聞き、卓に着いていたカント以外の皆は目を丸くする。
リオン家長兄のギュストも例外ではなく、怪訝な顔を弟に向けた。
「おいカント、何故私や卿も知らないようなことを、お前が知っている?」
「遊び人としてあっちこっちをフラフラしてますからね。兄さんたちとはまた違う、道楽者のコネクションや情報網があるんですよ。
ま、その道楽関係の情報筋からですね、あっちこっちで精力的、かつ野心的に進めてきた事業計画がことごとく破綻、失敗して、借金がどうやっても返せないって話をよく聞くんですよ。で、僕たち『大三角形』や、ここに関係するところからも、100億、200億くらいはあるとか。あと、エール・ゼネストが起こった時の被害額も肩代わりしてるそうですから、それも300億ほどはあるでしょうし」
「100億単位での借金とは! 確か、ゴールドマン商会の資本金もその辺り――おおよそ100億か、150億か……。
そんな借金を抱えていては到底、総帥の座にのさばってなどいられんだろうな」
「西方関係の借金、負債は総額500億だったか、550億くらいと言うのが、大筋の予想です。ま、うわさに上ってる額だけでなんで、実際はもうちょっと多いかも知れないですが。
で、ここなんですけどね。西方、即ち『大三角形』筋での借金に関しては、我々の裁量と権威である程度の融通は利かせられます。それをニコル卿の武器にしてはどうでしょうか、と思いまして」
「……ふーむ、なるほど」
カントの意見に、ギュストは感心したように唸った。
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