「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 2
フォコの話、291話目。
最後の砦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「それは確かに、強力な武器になるな。
エンターゲート氏をこのまま総帥でいさせる場合、550億と言う莫大な負債を全額返済しなければならないが、我々と手を組んだニコル卿はそれを帳消し、……いや、それは虫が良すぎるか、……まあ、債務履行の延期、緩和できると言う交換条件の下、総帥職を要求できるわけだな。
ゴールドマン家も大商家だ、投資にも経費にもならん金をむざむざ払うよりは、何らかの形ででも払わずに済む方を選ぶだろう。元々凋落の一途を辿るエンターゲート氏を擁立する理由もないし、君が総帥に名乗りを上げれば、きっと君に味方をする」
ギュストの見解に、フォコは深くうなずいた。
「でしょうな。……しかし、カントさん」
「何でしょう?」
「借金は、何も西方だけやないでしょ? 南海のレヴィア王国へ出資しとったのんもありますし、恐らくは他にも……」
「ええ。それらもざっくり調べてますよ。全部合わせたら多分、600億か700か、多くて800くらいですね」
それを聞いて、ギュストは苦い顔をした。
「最大で800億か……。中央政府の年間予算に匹敵する額だな。一商人が、そこまで金を集め、使い潰すとはな」
「そこから西方での債務550億を引いても、残りは250億。これはどうしましょ……? 僕の資産や各方面からの援助では、恐らく50億か60億か。残り200億をどう工面すれば……」
「ま、それについても僕に考えが。……と言っても、この案は相手のエンターゲート氏も、すがり付こうとするでしょうけどね」
「どう言うことです……?」
「もはや借金まみれ、不名誉まみれの彼は、中央軍からも助けてはもらえないでしょうし、新たな貸付も断られるでしょう。となると、後は自分の身内から金を搾り取るしかない。
とはいえ、ゴールドマン家が出してくれるはずはない。彼の直轄する商会から、工面しなきゃいけない」
「ケネスの直轄……? ちゅうと、エンターゲート製造と、スパス産業、エール商会くらいですか」
「だが、そこからは金をとれまい?
スパス産業は経営不振に次ぐ経営不振で虫の息だ。エール商会はむしろ借金の塊だし、エンターゲート製造は中央軍との取引で、まだ黒字ではあろうが、とても100億単位の借金を補填できるほどの業績を上げてはいまい」
「その通り。ギュスト兄さんの方は、仰る通りです。卿の方は、1件足りません」
「1件?」
カントはにっこりと笑い、その答えを出した。
「央中のオークボックス郊外に陣取る超大規模カジノ、『ゴールドパレス』。ここが、抜けてました」
「エンターゲート氏の最後の金庫ってわけね、そのカジノは。配当の関係もあるから、普段からカジノには相当額の準備金が用意されてるはず。
そのいくらかを、エンターゲート氏は補填資金として引っ張ってくる可能性が高い、ってことかしら」
「ええ、恐らくは。ま、これ関係の話は、それこそ遊び人筋の持ちネタみたいなもんですから、いくらくらいあるかも概ね把握してます。
その額――なんと、200億とか」
「あれ? ……じゃあ」
「ええ、奇妙な符合ですが、丁度卿が算出した額と合うんですよね。
で、もしもこれを、卿がカラにしてしまえば、一体どうなるか?」
「ケネスは最後の資金調達先を失い、立ち往生する。反面、僕らには総帥の座を買うのに十分な額の金が調達でける、っちゅうわけですな」
「そう言うことです」
「……まさかと思うけれど、カント?」
「なんです?」
サーシャは苦い顔で、こう尋ねる。
「その200億、どうやって奪うつもり? ギャンブルをするって、言わないわよね?」
反面、カントは肩をすくめて、こう返した。
「密かに金庫へ忍び込んで強奪するって手もありますけど、万一ばれたら総帥どころの話じゃないですしね。
正々堂々、真正面から奪いに行くのが一番いい。もっとも、仕掛けはさせてもらいますが」
「仕掛け……?」
尋ねた一同に、カントはニヤニヤと笑うだけだった。
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最後の砦。
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「それは確かに、強力な武器になるな。
エンターゲート氏をこのまま総帥でいさせる場合、550億と言う莫大な負債を全額返済しなければならないが、我々と手を組んだニコル卿はそれを帳消し、……いや、それは虫が良すぎるか、……まあ、債務履行の延期、緩和できると言う交換条件の下、総帥職を要求できるわけだな。
ゴールドマン家も大商家だ、投資にも経費にもならん金をむざむざ払うよりは、何らかの形ででも払わずに済む方を選ぶだろう。元々凋落の一途を辿るエンターゲート氏を擁立する理由もないし、君が総帥に名乗りを上げれば、きっと君に味方をする」
ギュストの見解に、フォコは深くうなずいた。
「でしょうな。……しかし、カントさん」
「何でしょう?」
「借金は、何も西方だけやないでしょ? 南海のレヴィア王国へ出資しとったのんもありますし、恐らくは他にも……」
「ええ。それらもざっくり調べてますよ。全部合わせたら多分、600億か700か、多くて800くらいですね」
それを聞いて、ギュストは苦い顔をした。
「最大で800億か……。中央政府の年間予算に匹敵する額だな。一商人が、そこまで金を集め、使い潰すとはな」
「そこから西方での債務550億を引いても、残りは250億。これはどうしましょ……? 僕の資産や各方面からの援助では、恐らく50億か60億か。残り200億をどう工面すれば……」
「ま、それについても僕に考えが。……と言っても、この案は相手のエンターゲート氏も、すがり付こうとするでしょうけどね」
「どう言うことです……?」
「もはや借金まみれ、不名誉まみれの彼は、中央軍からも助けてはもらえないでしょうし、新たな貸付も断られるでしょう。となると、後は自分の身内から金を搾り取るしかない。
とはいえ、ゴールドマン家が出してくれるはずはない。彼の直轄する商会から、工面しなきゃいけない」
「ケネスの直轄……? ちゅうと、エンターゲート製造と、スパス産業、エール商会くらいですか」
「だが、そこからは金をとれまい?
スパス産業は経営不振に次ぐ経営不振で虫の息だ。エール商会はむしろ借金の塊だし、エンターゲート製造は中央軍との取引で、まだ黒字ではあろうが、とても100億単位の借金を補填できるほどの業績を上げてはいまい」
「その通り。ギュスト兄さんの方は、仰る通りです。卿の方は、1件足りません」
「1件?」
カントはにっこりと笑い、その答えを出した。
「央中のオークボックス郊外に陣取る超大規模カジノ、『ゴールドパレス』。ここが、抜けてました」
「エンターゲート氏の最後の金庫ってわけね、そのカジノは。配当の関係もあるから、普段からカジノには相当額の準備金が用意されてるはず。
そのいくらかを、エンターゲート氏は補填資金として引っ張ってくる可能性が高い、ってことかしら」
「ええ、恐らくは。ま、これ関係の話は、それこそ遊び人筋の持ちネタみたいなもんですから、いくらくらいあるかも概ね把握してます。
その額――なんと、200億とか」
「あれ? ……じゃあ」
「ええ、奇妙な符合ですが、丁度卿が算出した額と合うんですよね。
で、もしもこれを、卿がカラにしてしまえば、一体どうなるか?」
「ケネスは最後の資金調達先を失い、立ち往生する。反面、僕らには総帥の座を買うのに十分な額の金が調達でける、っちゅうわけですな」
「そう言うことです」
「……まさかと思うけれど、カント?」
「なんです?」
サーシャは苦い顔で、こう尋ねる。
「その200億、どうやって奪うつもり? ギャンブルをするって、言わないわよね?」
反面、カントは肩をすくめて、こう返した。
「密かに金庫へ忍び込んで強奪するって手もありますけど、万一ばれたら総帥どころの話じゃないですしね。
正々堂々、真正面から奪いに行くのが一番いい。もっとも、仕掛けはさせてもらいますが」
「仕掛け……?」
尋ねた一同に、カントはニヤニヤと笑うだけだった。
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