「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 3
フォコの話、292話目。
欲望で輝く宮殿。
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3.
西方での対スパス作戦を「大三角形」と仲間たちに任せ、フォコとモール、カント、そしてランニャの4人は、央中の田舎町、オークボックスを訪れた。
いや――田舎町だったのは、カジノができるまでの話である。
双月暦308年、ここにカジノ「ゴールドパレス」が造られてから以後、ここにはそこから生まれる利益、利潤を吸い尽くそうと、他からの資本によって作られた小規模カジノや酒場、芝居小屋、その他娯楽施設が立ち並び、歓楽街を形成した。
それから4年経った312年の現在、町の治安は悪化の一途を辿り、また一方、それに押される形で元々あった地場産業は衰退しきり、大方が撤退してしまっていた。
「うっげー」
ランニャが道端のあちこちに固まっている汚物やゴミ、そして浮浪者たちをチラチラ見ながら、げんなりした声を上げる。
「ヤだなぁ、もぉ。なんでこんなコトになっちゃったのかなぁ」
「嫌なら帰ってええんやで」
フォコの言葉に、ランニャはブンブンと首を振る。
「そんなコト言ってないじゃないか。仕事はやるってば、ちゃんと。
あたしが言いたいのは、この町が何でここまで、汚くなっちゃったのかってコトだよ」
「ま、歓楽街なんて、どこだってこんなもんです」
遊び慣れているカントは、苦笑しつつ肩をすくめた。
「西方にもこんな風な歓楽街やらが多いけど、大体似たような感じですよ。
元からろくでもないのが集まって、好き勝手に金をばら撒いて、あるいはばら撒くと見せかけて、よりろくでもない奴を集める。
そうして集まった奴らがまた金を集めよう、集めようとして、同じことをやる。……で結局、ろくでもない奴らばかりが集まっていくから、誰も町を良くしようとなんて、しない。
だから、こうして汚れていくんですよ」
「考えりゃ単純な理屈だね。そりゃ、いい奴が集まる要因が無いんだもんねぇ」
「……もしもですけども」
話を聞いていたフォコはふと、こんな疑問を抱いた。
「統治の行き届いた歓楽街、みたいなんがあったら、どんな街になるんでしょうな?」
「有り得ないと思いますよ。そんなことのできる優れた人が、そんなチャラい街を作ろうだなんて」
「……ですなぁ」
フォコはクス、と小さく笑った。
カントの作戦は、簡潔なものだった。
ケネスの腹心、ヨセフ・トランプが経営する巨大カジノでギャンブルを仕掛け、その金庫を空にするまで大勝する、と言うものだった。
「言うは易し、行うは難しってやつの見本だね、まるで。
そりゃ確かに200億ぶっこ抜けば、ケネスの野郎もトランプ翁だかってのも沈むだろうけども、どうやってそこまで持って行く気だね?
まさかカジノに乗り込んでいきなり、『やあやあ我こそは火紅・ソレイユなり! 総支配人、僕と200億をかけて勝負していただきたい!』なーんてのたまうっての? 誰がんなもん受けるかってね」
「その名前はもう、ええです。今の僕はニコ……」「あ、ちょっと」
と、名前を名乗り直そうとしたところで、カントが止めた。
「卿、これから大商会の総帥になろうって人間が、いつまでも『僕』だなんてフランクな物言いは、よしたがいい。威厳も何もあったもんじゃない」
「……ふむ、そうですな。確かに言われた通りです」
と、そう言っておきながら、カントはしれっとこう返す。
「ま、おいおい慣れていくと言うことで。僕としては、今はどっちでもいいですがね」
「……カントさんはずるいなぁ」
「僕には責任も何にも無いですから。この大仕事以外にはね」
カントはそう言って、肩をすくめた。
「……っと、あれが僕たちが攻め落とすべき、エンターゲート氏最後の腹心が護る砦。
超巨大カジノ、『ゴールドパレス』ですよ」
「あれ、ですか」
フォコ、モール、そしてランニャの三人は、揃ってこうつぶやいた。
「……ケバい」
カジノの外観は、いかにも成金趣味の人間が建てたと思わせる、ギラギラと下品に輝く城――悪趣味そのものだった。
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欲望で輝く宮殿。
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西方での対スパス作戦を「大三角形」と仲間たちに任せ、フォコとモール、カント、そしてランニャの4人は、央中の田舎町、オークボックスを訪れた。
いや――田舎町だったのは、カジノができるまでの話である。
双月暦308年、ここにカジノ「ゴールドパレス」が造られてから以後、ここにはそこから生まれる利益、利潤を吸い尽くそうと、他からの資本によって作られた小規模カジノや酒場、芝居小屋、その他娯楽施設が立ち並び、歓楽街を形成した。
それから4年経った312年の現在、町の治安は悪化の一途を辿り、また一方、それに押される形で元々あった地場産業は衰退しきり、大方が撤退してしまっていた。
「うっげー」
ランニャが道端のあちこちに固まっている汚物やゴミ、そして浮浪者たちをチラチラ見ながら、げんなりした声を上げる。
「ヤだなぁ、もぉ。なんでこんなコトになっちゃったのかなぁ」
「嫌なら帰ってええんやで」
フォコの言葉に、ランニャはブンブンと首を振る。
「そんなコト言ってないじゃないか。仕事はやるってば、ちゃんと。
あたしが言いたいのは、この町が何でここまで、汚くなっちゃったのかってコトだよ」
「ま、歓楽街なんて、どこだってこんなもんです」
遊び慣れているカントは、苦笑しつつ肩をすくめた。
「西方にもこんな風な歓楽街やらが多いけど、大体似たような感じですよ。
元からろくでもないのが集まって、好き勝手に金をばら撒いて、あるいはばら撒くと見せかけて、よりろくでもない奴を集める。
そうして集まった奴らがまた金を集めよう、集めようとして、同じことをやる。……で結局、ろくでもない奴らばかりが集まっていくから、誰も町を良くしようとなんて、しない。
だから、こうして汚れていくんですよ」
「考えりゃ単純な理屈だね。そりゃ、いい奴が集まる要因が無いんだもんねぇ」
「……もしもですけども」
話を聞いていたフォコはふと、こんな疑問を抱いた。
「統治の行き届いた歓楽街、みたいなんがあったら、どんな街になるんでしょうな?」
「有り得ないと思いますよ。そんなことのできる優れた人が、そんなチャラい街を作ろうだなんて」
「……ですなぁ」
フォコはクス、と小さく笑った。
カントの作戦は、簡潔なものだった。
ケネスの腹心、ヨセフ・トランプが経営する巨大カジノでギャンブルを仕掛け、その金庫を空にするまで大勝する、と言うものだった。
「言うは易し、行うは難しってやつの見本だね、まるで。
そりゃ確かに200億ぶっこ抜けば、ケネスの野郎もトランプ翁だかってのも沈むだろうけども、どうやってそこまで持って行く気だね?
まさかカジノに乗り込んでいきなり、『やあやあ我こそは火紅・ソレイユなり! 総支配人、僕と200億をかけて勝負していただきたい!』なーんてのたまうっての? 誰がんなもん受けるかってね」
「その名前はもう、ええです。今の僕はニコ……」「あ、ちょっと」
と、名前を名乗り直そうとしたところで、カントが止めた。
「卿、これから大商会の総帥になろうって人間が、いつまでも『僕』だなんてフランクな物言いは、よしたがいい。威厳も何もあったもんじゃない」
「……ふむ、そうですな。確かに言われた通りです」
と、そう言っておきながら、カントはしれっとこう返す。
「ま、おいおい慣れていくと言うことで。僕としては、今はどっちでもいいですがね」
「……カントさんはずるいなぁ」
「僕には責任も何にも無いですから。この大仕事以外にはね」
カントはそう言って、肩をすくめた。
「……っと、あれが僕たちが攻め落とすべき、エンターゲート氏最後の腹心が護る砦。
超巨大カジノ、『ゴールドパレス』ですよ」
「あれ、ですか」
フォコ、モール、そしてランニャの三人は、揃ってこうつぶやいた。
「……ケバい」
カジノの外観は、いかにも成金趣味の人間が建てたと思わせる、ギラギラと下品に輝く城――悪趣味そのものだった。
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