「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 4
フォコの話、293話目。
その日暮らし。
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4.
悪趣味そのものの、ギラギラとしたその宮殿を、路地裏からぼんやりと眺める者がいた。
「……あーあ」
彼の手には、ぐしゃぐしゃに丸められた布袋が握りしめられていた。
4時間前までは、そこにはクラム銀貨が20数枚、2000クラムあまりが入っていた。
「もうちょっとだったんだけどな」
そしてそれは、2時間後には金貨3枚、3万クラムと言う大金へ変化した。
ところが――今ここには、袋しか残っていなかった。
「あそこでまさかのバースト、だもんな。ついてなかったよなぁ、ほんと」
「……うっせぇ」
彼は袋を投げ捨て、ゴミだらけの路地に座り込んだ。
「ま、博打なんてそんなもんさ」
と、彼より先に路地へ座っていた短耳の老人が、ヒッヒッと笑う。
「最初はうまくいく。うまくいくと、『今日の俺はついてる』と思って、調子に乗る。乗ってくると、ちょっとした小金が入ってくる。で、ますます調子に乗る。
で、そこで足元をすくわれてハイおしまい、お帰りくださいませ、だ。アンタみたいにな」
「うるせえっつってんだろ、じーさん。俺は説教なんか欲しくない。欲しいのは、金だ」
「知ってるよ。この路地にへたり込んでる奴はみんな、そうだ。みんな、失った金が戻ってこないかと祈ってる。で、ちょっと金が入ると、みんな同じことをするんだ。
地道に貯め込みもせず、反省して故郷に帰ろうともせず、結局また、あの迷宮に迷い込む」
そう言って老人は、「ゴールドパレス」を指差した。
「……何度も言わせんなよ。説教が欲しくて、俺はここに座り込んでるんじゃねえんだ」
「そーそー。金だよ、金。俺たちは金が欲しいんだ」
みじめに騒ぎ立てる、薄汚れた若者二人をニヤニヤ笑って見ていたその老人は、そこで表情を変えた。
「そうか、金が欲しいか。なら、俺にアテがある。一日の飯代くらいにはなるが、どうする?」
「あ……?」
老人はひょいと立ちあがり、こう続けた。
「なに、簡単な仕事だ。歓楽街の南端に新しく店ができる予定なんだが、建設に人手がいるんだ。日当100クラムでどうだ?」
「ホントかよ……?」
いぶかしがる若者たちに対し、老人は依然として、ニヤニヤと笑っている。
「嫌ならいいぜ。他にもこの辺でボーっとしてる奴なんざ、大勢いるからな」
そう言って老人は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、路地裏から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待てよ!」
若者の片方、茶色い髪の短耳の方は、すぐに飛びついた。
「やるやる、やります! 金になるんなら、何でも!」
「ようし、採用だ。……そっちの『狼』の兄ちゃんは?」
ところが、問われた銀髪の狼獣人は、うなずこうとしない。
「おい、やんねえのか? 折角金が手に入るってのに」
「足りねえよ」
狼獣人はピンと人差し指を立て、老人に交渉した。
「俺はこれでも職人だったんだ。土方仕事なんかしねーぞ」
「ほう、元職人か。何の職人だったんだ?」
「武器職人だ。剣や槍を作ってた」
それを聞いて、老人は鼻で笑う。
「ヘッ、……お前さん、バカか!?
そんな技術、この歓楽街で何になるってんだ! 窓の鉄格子を槍で作るってのか? 机を盾で作るってのか? フン、そんな技術なんざ、まるで使いようにならんぜ!
職人は職人でも、大工ならまだ、使いようもあったがな」
「大工仕事もできる。央北のサウスフィールドで、中央軍が使う砦の城壁補修に関わってたこともある」
「ならそっちを先に言いな、兄ちゃん。自分を売り込むなら、売り込み先が何を求めてるかくらい、パッと察しろ。
まあいい、あんたも採用だ。大工仕事なら、日当は120クラムだな」
それを聞いて、短耳も慌てて自分を売り込んだ。
「お、俺も大工はできる! 一、二回、街道の補修に携わってた!」
「そうか。じゃあお前ら二人、120出してやるよ。付いて来い」
老人はそう言って、路地裏から抜け出す。若者二人も、その後に付いて行った。
歓楽街の南端、建設現場に着いたところで、老人は大声を張り上げた。
「おーい、アントン! どこにいる!?」
「あ、ここでーす!」
建設中らしき建物の上から、猫獣人の男が手を振っているのが見えた。
「大工仕事できるって奴を2人連れて来た! 仕事をやれ!」
「ういーっす! あざーっす!」
と、ここで老人は建設現場から立ち去ろうとする。
「じゃあな。真面目に働けよ」
「え、じいさん?」
短耳がきょとんとした顔で、質問を投げかける。
「あんた、あいつから何にももらわないのか? 紹介料とか……」
「ああん? ……ああ、いいんだよ。ここは俺の組が仕切ってるからな。可愛い子分の手伝いと金に困ってる奴を助けるくらい、たまにゃしようかって思っただけさ」
「組? あんた、ヤクザかなんかの組長なのか?」
ヤクザと呼ばれ、老人はぷっと吹き出した。
「ヒャヒャ……、まあ、そんなもんさ。
だが心配しないでいい、働けば日当はちゃんとやる。もし働かないで逃げても、俺たちは特に何もしやしねえ。お前らが金もらえなくて、ただ困るだけだ。
そんじゃ、な」
老人はそう言って、プラプラと手を振って立ち去った。
「おい、あんたら! 早速だけど、こっち来てくれ! すぐやってほしい仕事がある!」
と、そこでアントンと呼ばれていた猫獣人が、二人の前にやってきた。
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悪趣味そのものの、ギラギラとしたその宮殿を、路地裏からぼんやりと眺める者がいた。
「……あーあ」
彼の手には、ぐしゃぐしゃに丸められた布袋が握りしめられていた。
4時間前までは、そこにはクラム銀貨が20数枚、2000クラムあまりが入っていた。
「もうちょっとだったんだけどな」
そしてそれは、2時間後には金貨3枚、3万クラムと言う大金へ変化した。
ところが――今ここには、袋しか残っていなかった。
「あそこでまさかのバースト、だもんな。ついてなかったよなぁ、ほんと」
「……うっせぇ」
彼は袋を投げ捨て、ゴミだらけの路地に座り込んだ。
「ま、博打なんてそんなもんさ」
と、彼より先に路地へ座っていた短耳の老人が、ヒッヒッと笑う。
「最初はうまくいく。うまくいくと、『今日の俺はついてる』と思って、調子に乗る。乗ってくると、ちょっとした小金が入ってくる。で、ますます調子に乗る。
で、そこで足元をすくわれてハイおしまい、お帰りくださいませ、だ。アンタみたいにな」
「うるせえっつってんだろ、じーさん。俺は説教なんか欲しくない。欲しいのは、金だ」
「知ってるよ。この路地にへたり込んでる奴はみんな、そうだ。みんな、失った金が戻ってこないかと祈ってる。で、ちょっと金が入ると、みんな同じことをするんだ。
地道に貯め込みもせず、反省して故郷に帰ろうともせず、結局また、あの迷宮に迷い込む」
そう言って老人は、「ゴールドパレス」を指差した。
「……何度も言わせんなよ。説教が欲しくて、俺はここに座り込んでるんじゃねえんだ」
「そーそー。金だよ、金。俺たちは金が欲しいんだ」
みじめに騒ぎ立てる、薄汚れた若者二人をニヤニヤ笑って見ていたその老人は、そこで表情を変えた。
「そうか、金が欲しいか。なら、俺にアテがある。一日の飯代くらいにはなるが、どうする?」
「あ……?」
老人はひょいと立ちあがり、こう続けた。
「なに、簡単な仕事だ。歓楽街の南端に新しく店ができる予定なんだが、建設に人手がいるんだ。日当100クラムでどうだ?」
「ホントかよ……?」
いぶかしがる若者たちに対し、老人は依然として、ニヤニヤと笑っている。
「嫌ならいいぜ。他にもこの辺でボーっとしてる奴なんざ、大勢いるからな」
そう言って老人は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、路地裏から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待てよ!」
若者の片方、茶色い髪の短耳の方は、すぐに飛びついた。
「やるやる、やります! 金になるんなら、何でも!」
「ようし、採用だ。……そっちの『狼』の兄ちゃんは?」
ところが、問われた銀髪の狼獣人は、うなずこうとしない。
「おい、やんねえのか? 折角金が手に入るってのに」
「足りねえよ」
狼獣人はピンと人差し指を立て、老人に交渉した。
「俺はこれでも職人だったんだ。土方仕事なんかしねーぞ」
「ほう、元職人か。何の職人だったんだ?」
「武器職人だ。剣や槍を作ってた」
それを聞いて、老人は鼻で笑う。
「ヘッ、……お前さん、バカか!?
そんな技術、この歓楽街で何になるってんだ! 窓の鉄格子を槍で作るってのか? 机を盾で作るってのか? フン、そんな技術なんざ、まるで使いようにならんぜ!
職人は職人でも、大工ならまだ、使いようもあったがな」
「大工仕事もできる。央北のサウスフィールドで、中央軍が使う砦の城壁補修に関わってたこともある」
「ならそっちを先に言いな、兄ちゃん。自分を売り込むなら、売り込み先が何を求めてるかくらい、パッと察しろ。
まあいい、あんたも採用だ。大工仕事なら、日当は120クラムだな」
それを聞いて、短耳も慌てて自分を売り込んだ。
「お、俺も大工はできる! 一、二回、街道の補修に携わってた!」
「そうか。じゃあお前ら二人、120出してやるよ。付いて来い」
老人はそう言って、路地裏から抜け出す。若者二人も、その後に付いて行った。
歓楽街の南端、建設現場に着いたところで、老人は大声を張り上げた。
「おーい、アントン! どこにいる!?」
「あ、ここでーす!」
建設中らしき建物の上から、猫獣人の男が手を振っているのが見えた。
「大工仕事できるって奴を2人連れて来た! 仕事をやれ!」
「ういーっす! あざーっす!」
と、ここで老人は建設現場から立ち去ろうとする。
「じゃあな。真面目に働けよ」
「え、じいさん?」
短耳がきょとんとした顔で、質問を投げかける。
「あんた、あいつから何にももらわないのか? 紹介料とか……」
「ああん? ……ああ、いいんだよ。ここは俺の組が仕切ってるからな。可愛い子分の手伝いと金に困ってる奴を助けるくらい、たまにゃしようかって思っただけさ」
「組? あんた、ヤクザかなんかの組長なのか?」
ヤクザと呼ばれ、老人はぷっと吹き出した。
「ヒャヒャ……、まあ、そんなもんさ。
だが心配しないでいい、働けば日当はちゃんとやる。もし働かないで逃げても、俺たちは特に何もしやしねえ。お前らが金もらえなくて、ただ困るだけだ。
そんじゃ、な」
老人はそう言って、プラプラと手を振って立ち去った。
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