「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 5
フォコの話、294話目。
歓楽街の大親分。
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5.
建設現場からすい、と離れた老人のところに、いかにも「その筋」らしい男たちが、ゾロゾロと集まってきた。
「親父、ここにいらっしゃったんですか。またこんなところをブラブラして……」
小言を言おうとした、老人の倍はあろうかと言う体格の熊獣人に、老人は苦い顔をして手を振る。
「うっせえよ。あんな金ピカ御殿にずーっと隠居してたら、頭が腐っちまうわい。
それよりもバルトロよ。それを言うためだけに、兵隊をこんなにゾロゾロ連れて来たのか?」
「あ、いや、その……」
「もしかして、俺が襲われてるかもってか? ……ったく、心配性だなお前は、ヒヒヒ」
老人はバルトロから豪奢な毛皮のコートを着せられつつ、ヒッヒッと苦笑する。
「俺も昔は『イーストフィールドの影番』と言われた男だ。文無しのチンピラの一人や二人、返り討ちに……」「まあ、まあ、その辺で」
コートを着た老人の姿は、とても路地裏で座り込んでいた時とは、似ても似つかない。
誰が見ても、それはヤクザ者の大親分にしか見えなかった。
「んじゃあ、ま、帰るとすっか。今日は『人助け』もしたからな」
「人助け?」
尋ねたバルトロに、老人はヒッヒッと笑いかけた。
「ま、結局は人助けにならねえことの方が多いけどな」
「ああ……、まあ、そうですね。つくづく、カラクリを知ってたらバカバカしいですよね」
「本当になぁ」
老人は道を歩きつつ、あちこちの路地、そして路地裏にたむろする浮浪者を横目で見る。
「なんだかんだ言っても帰りゃいいんだ、金をもらったらよ。そうすりゃもう、路地裏でぶつくさ言わねーで済むってのにな。
でもあいつら、博打に目が眩んでやがるから、金をもらったらカジノに直行だ。んで、また全部すって放っぽり出されて、路地裏で愚痴るしかなくなる。
俺たちは、あくまで善意だ。善意で『働いたら金をやるよ』って稼ぎ口を向けてやるし、善意で『こんなことしてねーで、田舎に帰んな』と諭してもやってる。
なのに、あいつらは帰らねえ。帰らずに、折角稼いで俺たちから受け取った金を、俺たちに返してくるんだから、これはもう本当に、バカとしか言いようがねえ」
そこで言葉を切り、老人は背後のバルトロにニヤッと笑いかける。
「諭しても、金をやっても、ノコノコ戻ってくるってんなら、そりゃあもう、根こそぎ引ん剥いてやるしかねえよな?」
「……まったくもって」
「結局、あいつらは目を醒まさねえ。醒めねえまま、この街に吸い尽くされて死んでいく。
……ひでえ所だぜ」
そこまで話したところで、老人たち一行は本拠地――「ゴールドパレス」に着いた。
「……ん?」
と、入口のところで老人一行は、カジノから出てきた四人組とすれ違った。
「あいつ……?」
「え?」
きょとんとするバルトロを置いて、老人はその四人組に近寄った。
「おーい、リオンのバカ旦那!」
「……うへぇ、いきなりバカはひどいな」
四人組の一人が、苦笑しつつ応じた。
「久しぶりじゃねえか、カントよ。相変わらず、道楽者っぽいな」
「おかげさまで。……と、みなさん」
呼び止められたカントは、横にいた皆に、老人を紹介した。
「この人がさっき話していた、このカジノの主です」
「へぇ、この方が……」
フォコは老人に、ぺこりと頭を下げて挨拶した。
「お初にお目にかかります」
「おう、ご丁寧にどうも」
警戒する手下たちを制し、老人はニヤリと笑い、改めて自己紹介を行った。
「俺がこのカジノ、『ゴールドパレス』の総支配人をやってる、ヨセフ・カラタ・トランプだ。
ま、楽しんでいってくれ」
「どうもー」
軽い会釈を交わし、二組はそのまま離れた。
トランプ翁から離れたフォコたち一行は、宿に向かう道中で、彼について会話を交わした。
「見た感じ、いかにも『スジ』の人でしたけども」
「ええ。見たままですよ、トランプ翁は。
元々、央北のイーストフィールドって街で先祖代々、大地主だったせいか、地元じゃ結構な権力を持ってたみたいで。その関係で私設軍隊みたいなの、平たく言えばヤクザ組織も持ってて、何度か近隣の自警団や中央軍とやりあったとか、そうなりかけたとか。
それを取り成したのが、件のエンターゲート氏です。305年だったか、306年くらいかな、ここ十数年で最大の衝突があって、あわやイーストフィールドが全面丸焼けになるかってところで、エンターゲート氏が中央軍にかけあったんですよ。『彼らの武装を解除し、土地を明け渡すよう説得する』ってね」
「よくそんなん、トランプ翁が納得しましたな……?」
「まあ、買収額がかなり大きかったようで。その上に、この街の開発利権まで手に入るって条件も付いたんですから、悪い話でもない。
結局、トランプ一家はその条件を呑み、こちらに越してきてカジノを建設。以来、ここは歓楽街として繁盛してるってわけです」
「なるほど」
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歓楽街の大親分。
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建設現場からすい、と離れた老人のところに、いかにも「その筋」らしい男たちが、ゾロゾロと集まってきた。
「親父、ここにいらっしゃったんですか。またこんなところをブラブラして……」
小言を言おうとした、老人の倍はあろうかと言う体格の熊獣人に、老人は苦い顔をして手を振る。
「うっせえよ。あんな金ピカ御殿にずーっと隠居してたら、頭が腐っちまうわい。
それよりもバルトロよ。それを言うためだけに、兵隊をこんなにゾロゾロ連れて来たのか?」
「あ、いや、その……」
「もしかして、俺が襲われてるかもってか? ……ったく、心配性だなお前は、ヒヒヒ」
老人はバルトロから豪奢な毛皮のコートを着せられつつ、ヒッヒッと苦笑する。
「俺も昔は『イーストフィールドの影番』と言われた男だ。文無しのチンピラの一人や二人、返り討ちに……」「まあ、まあ、その辺で」
コートを着た老人の姿は、とても路地裏で座り込んでいた時とは、似ても似つかない。
誰が見ても、それはヤクザ者の大親分にしか見えなかった。
「んじゃあ、ま、帰るとすっか。今日は『人助け』もしたからな」
「人助け?」
尋ねたバルトロに、老人はヒッヒッと笑いかけた。
「ま、結局は人助けにならねえことの方が多いけどな」
「ああ……、まあ、そうですね。つくづく、カラクリを知ってたらバカバカしいですよね」
「本当になぁ」
老人は道を歩きつつ、あちこちの路地、そして路地裏にたむろする浮浪者を横目で見る。
「なんだかんだ言っても帰りゃいいんだ、金をもらったらよ。そうすりゃもう、路地裏でぶつくさ言わねーで済むってのにな。
でもあいつら、博打に目が眩んでやがるから、金をもらったらカジノに直行だ。んで、また全部すって放っぽり出されて、路地裏で愚痴るしかなくなる。
俺たちは、あくまで善意だ。善意で『働いたら金をやるよ』って稼ぎ口を向けてやるし、善意で『こんなことしてねーで、田舎に帰んな』と諭してもやってる。
なのに、あいつらは帰らねえ。帰らずに、折角稼いで俺たちから受け取った金を、俺たちに返してくるんだから、これはもう本当に、バカとしか言いようがねえ」
そこで言葉を切り、老人は背後のバルトロにニヤッと笑いかける。
「諭しても、金をやっても、ノコノコ戻ってくるってんなら、そりゃあもう、根こそぎ引ん剥いてやるしかねえよな?」
「……まったくもって」
「結局、あいつらは目を醒まさねえ。醒めねえまま、この街に吸い尽くされて死んでいく。
……ひでえ所だぜ」
そこまで話したところで、老人たち一行は本拠地――「ゴールドパレス」に着いた。
「……ん?」
と、入口のところで老人一行は、カジノから出てきた四人組とすれ違った。
「あいつ……?」
「え?」
きょとんとするバルトロを置いて、老人はその四人組に近寄った。
「おーい、リオンのバカ旦那!」
「……うへぇ、いきなりバカはひどいな」
四人組の一人が、苦笑しつつ応じた。
「久しぶりじゃねえか、カントよ。相変わらず、道楽者っぽいな」
「おかげさまで。……と、みなさん」
呼び止められたカントは、横にいた皆に、老人を紹介した。
「この人がさっき話していた、このカジノの主です」
「へぇ、この方が……」
フォコは老人に、ぺこりと頭を下げて挨拶した。
「お初にお目にかかります」
「おう、ご丁寧にどうも」
警戒する手下たちを制し、老人はニヤリと笑い、改めて自己紹介を行った。
「俺がこのカジノ、『ゴールドパレス』の総支配人をやってる、ヨセフ・カラタ・トランプだ。
ま、楽しんでいってくれ」
「どうもー」
軽い会釈を交わし、二組はそのまま離れた。
トランプ翁から離れたフォコたち一行は、宿に向かう道中で、彼について会話を交わした。
「見た感じ、いかにも『スジ』の人でしたけども」
「ええ。見たままですよ、トランプ翁は。
元々、央北のイーストフィールドって街で先祖代々、大地主だったせいか、地元じゃ結構な権力を持ってたみたいで。その関係で私設軍隊みたいなの、平たく言えばヤクザ組織も持ってて、何度か近隣の自警団や中央軍とやりあったとか、そうなりかけたとか。
それを取り成したのが、件のエンターゲート氏です。305年だったか、306年くらいかな、ここ十数年で最大の衝突があって、あわやイーストフィールドが全面丸焼けになるかってところで、エンターゲート氏が中央軍にかけあったんですよ。『彼らの武装を解除し、土地を明け渡すよう説得する』ってね」
「よくそんなん、トランプ翁が納得しましたな……?」
「まあ、買収額がかなり大きかったようで。その上に、この街の開発利権まで手に入るって条件も付いたんですから、悪い話でもない。
結局、トランプ一家はその条件を呑み、こちらに越してきてカジノを建設。以来、ここは歓楽街として繁盛してるってわけです」
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