「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金宮記 6
フォコの話、295話目。
搾取され続ける愚者。
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6.
若者たち二人がトランプ翁から仕事を紹介されて、半月後。
「とりあえず、ここの仕事は一段落だ。また仕事が欲しければ、俺のところに来てくれ」
「ありがとよ」
現場監督のアントンから半月分の給料、1800クラムずつを受け取った若者二人は、そそくさと現場を後にした。
「いやぁ、長かったぜ」
「ホントだよな。飯と寝る場所があったのはいいけど、給料後払いとは聞いてなかったしな」
「食うにも寝るにも困らなかったし、それはそれでまあ、いいけど。……やっぱりさ」
そこで、狼獣人の方はニヤ、と笑う。
「悶々としてたワケだよ、ずっと。夢にまで見ちまったぜ」
「俺もだよ。夢ん中で、何べんサイコロ振ったか」
「ははは……」
と、そこで二人は足を止める。
「……行くか?」
「おうよ」
二人はバチンと手を合わせ、「ゴールドパレス」の方へ向く。
「軍資金は十分。ちょうど宵の口。博打をやるにゃ、持って来いだ」
「今度こそ、今までの負け分を取り戻してやるぜ……!」
二人の頭には、このわずかな金を帰郷の資金にしようと言う考えは、微塵もなかった。
特にやることもないので「ゴールドパレス」内をブラブラとしていたトランプ翁は、若者たち二人の姿を確認した。
「よお、お前ら」
「あ、あんた……」
二人は目の前にいる老人が、このカジノの総支配人であるとは知らない。
「じいさんも打ちに来たのか?」
「ヒヒ、ま、そんなところだ。その様子だと、お前らもやりに来たんだな」
「勿論だ。今日こそ大勝して、胸を張って故郷に帰りたいからな」
二人の返事を聞いて、トランプ翁は内心、彼らをひどく馬鹿にした。
「……ま、頑張んな」
ぺらぺらと手を振って二人から離れつつ、トランプ翁は彼らに背を向けてため息をついた。
(……つくづく見栄っ張りの馬鹿、どうしようもねークズ、まさしくゴミ野郎の発想だ。
なんでお前ら、カラクリに気付けねーかなぁ……)
カジノで大敗を喫し、一文無しになった彼らは、トランプ翁や、他の雇用者から日雇いの仕事を与えられ、わずかな給料を手にする。だが彼らは、それを帰郷の資金にしようとはしない。今までの負けを取り返そうと、またカジノへ向かうのだ。
カジノの経営者も、建設を進める人間も、結局そのほとんどは同じ人間、同じ商会が関わっている。建設現場で仕事し給料を得るも、その元はカジノで吸い取られた金なのだ。
労働して得た金をカジノで失い、また労働に没頭する――実質トランプ翁や、その他進出してきた商会は、彼らをタダでこき使っているも同然だった。
(いい加減分かりゃいいのにな。
カジノは結局、お前らから金を奪うためにあるんだ。『万に一つの確率で、大金が得られるぞ』ってエサで釣ってるに過ぎねえんだ。
いや……、万に、どころじゃねえな。何十万、何千万、……あるいは、億だ。1億回挑む気か、お前らは……?)
トランプ翁の背後で、あの若者たちが歓喜に沸く声がした。
「やった……! やったぜ、おい!」
「一気に50倍、10万になった! こりゃ行けるぜ、なあ……!」
それを聞いて、トランプ翁はヒッヒッと笑う。
(50倍か。じゃあ次は『また50倍、500万になるかも』ってか?
普通に、まともな時に考えりゃ、そうなるわけがねえ。だがあいつら、頭ん中が煮えたぎってやがるから、もう止まらない。
お前らの頭ん中はもう、二度あることは三度ある、今日の俺たちはついてる、もうこれ以上負けるはずがねえ、……だろ?
予言してやるよ――お前ら、夜が明ける前には素寒貧だ)
数時間後、夜空がわずかに白む頃――。
「……あーあ」
二人はまた、路地裏でへたり込んでいた。
「もうちょっとだったんだけどな。あそこでまさかの36倍付け、だもんな。ついてなかったよなぁ、ほんと」
「……うっせぇ」
二人は空になった袋を投げ捨て、ゴミだらけの路地でうずくまっていた。
「まあ、そんなもんじゃないですか、博打なんて」
「あ……?」
二人は顔を上げる。
「軍資金が無くなったようですけど、融通しますよ。
ちょっとばかり、私のところで働いてくれれば、ですが……」
この前のトランプ翁とはまた別の人間が、二人に手を差し伸べてきた。
火紅狐・金宮記 終
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若者たち二人がトランプ翁から仕事を紹介されて、半月後。
「とりあえず、ここの仕事は一段落だ。また仕事が欲しければ、俺のところに来てくれ」
「ありがとよ」
現場監督のアントンから半月分の給料、1800クラムずつを受け取った若者二人は、そそくさと現場を後にした。
「いやぁ、長かったぜ」
「ホントだよな。飯と寝る場所があったのはいいけど、給料後払いとは聞いてなかったしな」
「食うにも寝るにも困らなかったし、それはそれでまあ、いいけど。……やっぱりさ」
そこで、狼獣人の方はニヤ、と笑う。
「悶々としてたワケだよ、ずっと。夢にまで見ちまったぜ」
「俺もだよ。夢ん中で、何べんサイコロ振ったか」
「ははは……」
と、そこで二人は足を止める。
「……行くか?」
「おうよ」
二人はバチンと手を合わせ、「ゴールドパレス」の方へ向く。
「軍資金は十分。ちょうど宵の口。博打をやるにゃ、持って来いだ」
「今度こそ、今までの負け分を取り戻してやるぜ……!」
二人の頭には、このわずかな金を帰郷の資金にしようと言う考えは、微塵もなかった。
特にやることもないので「ゴールドパレス」内をブラブラとしていたトランプ翁は、若者たち二人の姿を確認した。
「よお、お前ら」
「あ、あんた……」
二人は目の前にいる老人が、このカジノの総支配人であるとは知らない。
「じいさんも打ちに来たのか?」
「ヒヒ、ま、そんなところだ。その様子だと、お前らもやりに来たんだな」
「勿論だ。今日こそ大勝して、胸を張って故郷に帰りたいからな」
二人の返事を聞いて、トランプ翁は内心、彼らをひどく馬鹿にした。
「……ま、頑張んな」
ぺらぺらと手を振って二人から離れつつ、トランプ翁は彼らに背を向けてため息をついた。
(……つくづく見栄っ張りの馬鹿、どうしようもねークズ、まさしくゴミ野郎の発想だ。
なんでお前ら、カラクリに気付けねーかなぁ……)
カジノで大敗を喫し、一文無しになった彼らは、トランプ翁や、他の雇用者から日雇いの仕事を与えられ、わずかな給料を手にする。だが彼らは、それを帰郷の資金にしようとはしない。今までの負けを取り返そうと、またカジノへ向かうのだ。
カジノの経営者も、建設を進める人間も、結局そのほとんどは同じ人間、同じ商会が関わっている。建設現場で仕事し給料を得るも、その元はカジノで吸い取られた金なのだ。
労働して得た金をカジノで失い、また労働に没頭する――実質トランプ翁や、その他進出してきた商会は、彼らをタダでこき使っているも同然だった。
(いい加減分かりゃいいのにな。
カジノは結局、お前らから金を奪うためにあるんだ。『万に一つの確率で、大金が得られるぞ』ってエサで釣ってるに過ぎねえんだ。
いや……、万に、どころじゃねえな。何十万、何千万、……あるいは、億だ。1億回挑む気か、お前らは……?)
トランプ翁の背後で、あの若者たちが歓喜に沸く声がした。
「やった……! やったぜ、おい!」
「一気に50倍、10万になった! こりゃ行けるぜ、なあ……!」
それを聞いて、トランプ翁はヒッヒッと笑う。
(50倍か。じゃあ次は『また50倍、500万になるかも』ってか?
普通に、まともな時に考えりゃ、そうなるわけがねえ。だがあいつら、頭ん中が煮えたぎってやがるから、もう止まらない。
お前らの頭ん中はもう、二度あることは三度ある、今日の俺たちはついてる、もうこれ以上負けるはずがねえ、……だろ?
予言してやるよ――お前ら、夜が明ける前には素寒貧だ)
数時間後、夜空がわずかに白む頃――。
「……あーあ」
二人はまた、路地裏でへたり込んでいた。
「もうちょっとだったんだけどな。あそこでまさかの36倍付け、だもんな。ついてなかったよなぁ、ほんと」
「……うっせぇ」
二人は空になった袋を投げ捨て、ゴミだらけの路地でうずくまっていた。
「まあ、そんなもんじゃないですか、博打なんて」
「あ……?」
二人は顔を上げる。
「軍資金が無くなったようですけど、融通しますよ。
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