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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・仮痴記 1

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    フォコの話、296話目。
    オークボックスをぶっつぶせ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「ようこそいらっしゃいました、カジノ『リッチ・ウィザード』へ!」
     モールの背後に、支配人らしき男がす、と立った。
    「何か用?」
     ぶっきらぼうにそう尋ねたモールに、支配人は揉み手をしながら話しかけてきた。
    「いやぁ、大変お稼ぎになっているご様子で! いやはや、ずいぶんと楽しんでいただけているようで、何より……」「おべんちゃらはそのへんでいいね。結局、『さっさと帰れ』って言いたいだけだろ?」「……っ、や、その」
     揉み手を続けていた支配人が、手を止める。
    「悪いけど、私ゃまだまだ遊び足りないんだよね。ほれ、ディーラー。さっさとカード配れって」
    「……」
     席を立とうとしないモールの態度に、支配人の薄ら笑いが消える。すり合わせていた手をひょいと挙げ、用心棒たちを呼び始めた。
    「……下手に出てるうちに帰れ」
    「あ? なに?」
    「帰れっつってんだよ、クソ女!」
     支配人は表情と声色をがらりと変え、本性を現した。
    「帰らねえと、ちょっと痛い目に遭ってもらうぜ……!」
    「……ヘッ」
     モールは鼻で笑い、支配人に向き直る。
    「じゃあ何か、ココは金を稼いだら袋叩きに遭わせるっての? 私ゃ、真っ当にギャンブルしてるだけなんだけどねぇ」
    「んなわけあるかッ! てめえの勝ち方は異常なんだよ! 報告によればてめえ、卓に着いてからずっと勝ちっぱなし、33連勝だって言うじゃねえかよ!?」
    「違うね。34連勝だ、今のでね」
    「んなこたぁどうでもいいんだよ、ボケが! そんな連勝、ありえるわけねえだろうが!」
    「偶然の産物さね。……それとも何か?」
     そこでモールは立ち上がり、大声で叫んだ。
    「この店は連勝できないカラクリかなんかがあるってコトかねぇ? じゃなきゃ、そんなキッパリ『連勝するコトはありえない』って言えないよねぇ!?」
    「ん、んなわけ、あるかッ! 言いがかりだ! 営業妨害だ!」
    「じゃあ論拠を出しなってね! なんで連勝できないって、断言できるね!?」
    「いや、だから、34連勝なんてのが……!」
    「偶然だって言ってるよね、私? それとも証拠があるって?」
     水掛け論が続き、支配人は顔を真っ赤にして怒り出す。
    「うるせえ、イカレ女がッ! もういい、追い出せ!」
    「何にもしてない、ただ稼いだ奴を無理矢理追い出すっての? へーぇ、ココはそーゆートコなんだねぇ!?
     みなさーん、ココは稼いじゃダメなんだってねー! 金を吸い取るだけのぼったくりカジノなんだってー!」
     モールの剣呑な振る舞いに、支配人はついに激昂した。
    「放り出せッ!」
     命令とともに、控えていた用心棒たちがモールの前に飛び出してくる。
    「……コレはお前らから仕掛けた荒事だってコト、忘れんじゃないね」
     モールは足元に置いていた魔杖を蹴り上げ、がしっとつかんだ。

     15分後――。
    「……ひぃ……ひぃ……」
    「……かんべんしてください……」
    「すんま……せん……っした……」
     10人以上いた屈強な用心棒たちは一人残らず壁に叩き付けられ、支配人も下半身を床下に沈められ、白目を剥いて気絶している。
    「さ、続きと行こうかね。……今までの稼ぎ分、全部、ベットだ。
     コレに私が勝っちゃったら多分、カジノごとハコワレだねぇ、アハハハハ」
    「ひ、いいいいっ……」
     モールは傷一つ付かずに残った卓に座り直し、ギャンブルを再開した。



     まず、フォコたちが行ったのは、小・中規模カジノの一掃だった。
     客がカジノに金を吸い取られて一文無しとなり、カジノとつながっている歓楽街に身柄を奪われ、そこで得たわずかな金をまたカジノに吸われると言う、この悪循環を解消しようとしたのだ。
     そして同時に、フォコたち一行が「カジノ荒らしをしている団体」と認識させる必要もあったからだ。
    「嫌でも僕、……あー、私たちと勝負してもらう、っちゅう態勢を整えておきたいんですわ」
    「そりゃ何となくは分かるけどさー」
     作戦を聞いたランニャは、いぶかしげな顔を向ける。
    「狙いは『ゴールドパレス』いっこだろ? なんでわざわざ、他のところまで……?」
    「いつか言うてたやろ、ルピアさんが。
     この街のせいで、クラフトランドの職人は骨抜きにされてしもて、ネール職人組合の業績はどん底になっとるって。となると、『ゴールドパレス』一つ潰したくらいでは、その影響は消えへん。やるなら全部、潰さなあかん。
     ルピアさんはやらんでもええ、いつか自分が何とかするって言うてたけど、折角ここに私が来てるんやから、私がやりますわ。
     ……後でどんだけ『お節介なことをするな』って怒られてもええし」
    「ま、母さんも色々忙しいし、手なんて絶対こっちに回せやしないだろうし、それはやってもいいお節介だと思うよ」
    「……ありがとな、ランニャ。君にそう言うてもらえたら、安心する」
     フォコから素直に礼を言われ、ランニャの顔は真っ赤になった。
    「い、いいって、そんなの、……えへへ」
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