「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・仮痴記 2
フォコの話、297話目。
カジノ経営の心得。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「賭場荒らし、だと?」
フォコたちの活動はすぐに、オークボックスで最も大きなカジノを所有するトランプ翁の耳に入った。
「へえ、何でも無理矢理に、すっからかんになるまで博打をさせられて、実力行使で追い出そうとしても、返り討ちに遭うとかって話です」
「アコギな客だな、そりゃあ」
「もう6軒ほどやられてるらしくて、被害額は13億クラムだとか」
子分の言葉に、トランプ翁は片眉をピク、と上げた。
「被害額?」
「ええ。どこも1クラム残らず、根こそぎ……」「被害額ってのは、どう言うつもりだ?」「え?」
トランプ翁は舌打ちし、子分をなじった。
「博打を売り物にしてる店でかっぱがれて、なーにが『被害額』だ、アホタレ」
「いや、でも無理矢理っすよ、無理矢理博打を……」
「てめえ、この世界で何年飯食ってんだよ? 『カタギに無理矢理やらされました』なんぞ抜かしてみろ、世間の笑いもんだぞ。
博打なんてのはつまるところ、諸刃の剣だ。『金を得られる好機がある代わり、失う危険もある』ってのが大前提。場を構える以上は、客に大負けするのも覚悟のうちってもんだ。そう言う場を構えておいて、自分の金は失いたくねえなんてのは、卑怯ってもんだぜ。
カジノですられた金を『被害額』なんて言いやがるのは、下衆だ」
「すんません……」
縮こまる子分に、トランプ翁は苦笑した顔を向ける。
「ま、心得ってやつだ。俺の店ではそんな言葉使わねえよう、気を付けてくれや。
んで、その賭場荒らしってのは誰か、突き止めてあるのか?」
「はい。それが……」
若頭格のバルトロが、苦い顔でもごもごと伝える。
「あの、ちょっと前に、俺が親父を街に、迎えに行ったことがありましたよね?」
「おう」
「で、カジノに戻る直前で、会った人がいましたよね」
「ん……? 誰だったっけ?」
「あの、ほら、兎獣人の……」
「ああ、リオン家の遊び人、カント・リオンのバカ旦那か。……て、まさかそいつが?」
「そのまさかなんです」
これを聞いて、トランプ翁は目を丸くした。
「本当かよ……? なんでまた?」
「分かりませんが……、他にも3人、仲間がいるようです。狐獣人の、薄汚いフードを被った男と、狼獣人の、銀髪で派手な服の女。それから、『賢者』とか名乗る長耳の、いかにも魔法使いみたいな感じの格好をした女です」
「賢者ぁ?」
「主に荒らしてるのが、リオン氏とその賢者なんです。
賢者はいつも一人でやって来て、単騎でカジノ荒らしと用心棒たちの返り討ちもしてるらしいですが、リオン氏の方は、さっき言ってた『狐』と『狼』を用心棒にして、荒らしてるとか」
「ふーむ……。言われてみりゃ確かに、リオンの旦那の周りにいたな、そいつら。じゃあ、その4人は組んでると見て間違いねえな。
……まあ、理由はどうあれ、放っときゃ俺たちのカジノにもいずれ、出張ってくるだろうな。ま、そんなのにあんまり堂々と入られちゃ、迷惑どころじゃ済まねえだろうし、現れたらすぐ、俺に知らせてくれ。
それから、ゴネたら即、追い出す用意も忘れんなよ。確かに博打の場を構えてる以上、博打がやりてえって奴がいたら乗ってやる。だがそうじゃねえ、博打が打ちたいんじゃなくて賭場を潰してえって言うような奴に、提供する場なんざ無えからな」
「うっす!」
子分たちは一様に拳を固め、賭場荒らしの撃退に意欲を燃やした。
ところが――。
「奴らは、今日も来てねえのか?」
「へえ、また別のカジノに現れたみたいでして」
フォコたちがうわさに上るようになっても、一向に彼らが「ゴールドパレス」へ赴く様子はなかった。
「どうも奴ら、小さい賭場を狙ってるみたいですよ」
「ほう」
「デカいところはまだ、どこも被害に遭ってないとか。意外にみみっちいですね」
「この様子なら、細かいところが一掃されるだけで終わるんじゃないスかね」
楽天的な見方をする子分たちに対し、トランプ翁は「ふーむ……」とうなる。
「まだ断言まではできんぜ。ひょっとするとそりゃ、軍資金を集めてるのかも知れんぜ」
「軍資金を?」
「俺たちのところみたいにデカいところは、準備金の額も半端じゃねえからな。
いくら連戦連勝の賭場荒らしって言っても、チマチマ賭けてたんじゃ埒も明かねえ。100万、200万賭け程度じゃ到底、箱割れまで追っつかねえだろうしな。
だからちっこい賭場を潰して1000万勝負できる体力をつけて、そこで勝って次は1億勝負、さらにそこでも勝って、いよいよ10億勝負を、……って考えてんじゃねえかな」
「なるほど……」
トランプ翁は腕組みをし、渋い顔になった。
「こりゃ、嵐の前の静けさってやつかも分からんぜ。用心しておくに、越したことはねえ」
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カジノ経営の心得。
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「賭場荒らし、だと?」
フォコたちの活動はすぐに、オークボックスで最も大きなカジノを所有するトランプ翁の耳に入った。
「へえ、何でも無理矢理に、すっからかんになるまで博打をさせられて、実力行使で追い出そうとしても、返り討ちに遭うとかって話です」
「アコギな客だな、そりゃあ」
「もう6軒ほどやられてるらしくて、被害額は13億クラムだとか」
子分の言葉に、トランプ翁は片眉をピク、と上げた。
「被害額?」
「ええ。どこも1クラム残らず、根こそぎ……」「被害額ってのは、どう言うつもりだ?」「え?」
トランプ翁は舌打ちし、子分をなじった。
「博打を売り物にしてる店でかっぱがれて、なーにが『被害額』だ、アホタレ」
「いや、でも無理矢理っすよ、無理矢理博打を……」
「てめえ、この世界で何年飯食ってんだよ? 『カタギに無理矢理やらされました』なんぞ抜かしてみろ、世間の笑いもんだぞ。
博打なんてのはつまるところ、諸刃の剣だ。『金を得られる好機がある代わり、失う危険もある』ってのが大前提。場を構える以上は、客に大負けするのも覚悟のうちってもんだ。そう言う場を構えておいて、自分の金は失いたくねえなんてのは、卑怯ってもんだぜ。
カジノですられた金を『被害額』なんて言いやがるのは、下衆だ」
「すんません……」
縮こまる子分に、トランプ翁は苦笑した顔を向ける。
「ま、心得ってやつだ。俺の店ではそんな言葉使わねえよう、気を付けてくれや。
んで、その賭場荒らしってのは誰か、突き止めてあるのか?」
「はい。それが……」
若頭格のバルトロが、苦い顔でもごもごと伝える。
「あの、ちょっと前に、俺が親父を街に、迎えに行ったことがありましたよね?」
「おう」
「で、カジノに戻る直前で、会った人がいましたよね」
「ん……? 誰だったっけ?」
「あの、ほら、兎獣人の……」
「ああ、リオン家の遊び人、カント・リオンのバカ旦那か。……て、まさかそいつが?」
「そのまさかなんです」
これを聞いて、トランプ翁は目を丸くした。
「本当かよ……? なんでまた?」
「分かりませんが……、他にも3人、仲間がいるようです。狐獣人の、薄汚いフードを被った男と、狼獣人の、銀髪で派手な服の女。それから、『賢者』とか名乗る長耳の、いかにも魔法使いみたいな感じの格好をした女です」
「賢者ぁ?」
「主に荒らしてるのが、リオン氏とその賢者なんです。
賢者はいつも一人でやって来て、単騎でカジノ荒らしと用心棒たちの返り討ちもしてるらしいですが、リオン氏の方は、さっき言ってた『狐』と『狼』を用心棒にして、荒らしてるとか」
「ふーむ……。言われてみりゃ確かに、リオンの旦那の周りにいたな、そいつら。じゃあ、その4人は組んでると見て間違いねえな。
……まあ、理由はどうあれ、放っときゃ俺たちのカジノにもいずれ、出張ってくるだろうな。ま、そんなのにあんまり堂々と入られちゃ、迷惑どころじゃ済まねえだろうし、現れたらすぐ、俺に知らせてくれ。
それから、ゴネたら即、追い出す用意も忘れんなよ。確かに博打の場を構えてる以上、博打がやりてえって奴がいたら乗ってやる。だがそうじゃねえ、博打が打ちたいんじゃなくて賭場を潰してえって言うような奴に、提供する場なんざ無えからな」
「うっす!」
子分たちは一様に拳を固め、賭場荒らしの撃退に意欲を燃やした。
ところが――。
「奴らは、今日も来てねえのか?」
「へえ、また別のカジノに現れたみたいでして」
フォコたちがうわさに上るようになっても、一向に彼らが「ゴールドパレス」へ赴く様子はなかった。
「どうも奴ら、小さい賭場を狙ってるみたいですよ」
「ほう」
「デカいところはまだ、どこも被害に遭ってないとか。意外にみみっちいですね」
「この様子なら、細かいところが一掃されるだけで終わるんじゃないスかね」
楽天的な見方をする子分たちに対し、トランプ翁は「ふーむ……」とうなる。
「まだ断言まではできんぜ。ひょっとするとそりゃ、軍資金を集めてるのかも知れんぜ」
「軍資金を?」
「俺たちのところみたいにデカいところは、準備金の額も半端じゃねえからな。
いくら連戦連勝の賭場荒らしって言っても、チマチマ賭けてたんじゃ埒も明かねえ。100万、200万賭け程度じゃ到底、箱割れまで追っつかねえだろうしな。
だからちっこい賭場を潰して1000万勝負できる体力をつけて、そこで勝って次は1億勝負、さらにそこでも勝って、いよいよ10億勝負を、……って考えてんじゃねえかな」
「なるほど……」
トランプ翁は腕組みをし、渋い顔になった。
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