「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・仮痴記 3
フォコの話、298話目。
カジノ荒らしの傾向と対策。
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3.
「しかし、何だね。……金の海って表現が一番似合うよ、これは」
カントはそう言って、目の前の光景を笑った。
この2ヶ月でオークボックス中の小・中規模のカジノを荒らし回り、手に入れた金は30億クラム近くに上っていた。
そしてその、稼いだ30億はすべて、フォコたちが借りた――いや、一ヶ月前に買い取った宿中に、燦然と積まれていた。
「でもやっぱり不思議だね。こんなにあっちこっち金があふれてると言うのに、賊の一人も入らないなんてのは」
「私の魔術のおかげだね。ほんのわずかちょっと、この宿は他の奴に見えないようにしてるからねぇ」
「そのおかげで、闇討ちもされずに済んどるわけですな。ホンマにありがたい術ですわ」
「へっへーん」
胸を張るモールの横で、ランニャがぴょこ、と手を挙げた。
「でさ、もう細かいカジノは粗方潰したけど、本丸はいつ攻めるのさ?」
「そうですな……。もうそろそろ、狙ってもええ頃合いかも知れませんな」
と言いつつ、フォコは街の地図の、「ゴールドパレス」ではない別のカジノを指差した。
「次はここと、ここ行きましょ」
「えぇー? 本丸って言ったじゃないか、あたし」
「そろそろ、て言うただけやで。まだまだ、勝負するには金が足りひんからな」
「30億でも? ……まあ、全額賭けて勝っても、いいとこ2倍の60億か、3倍の90億にしかならないもんな」
「それに、それだけやない」
フォコは街の地図をぐるりと、指でなぞる。
「首尾よく仕留めても、他が残ってたら同じことや。結局残ったところが居座って、街と人を食い潰していくんやからな。
そうさせへんように、既存のカジノは一軒残らず潰す。これから造ろうかなとしとる奴にも、『タダでは済まへんぞ』と見せしめにする。
ここにカジノなり飲み屋なり、歓楽街がずらーっと並んどる限り、クラフトランドの職人は骨抜きにされっ放しになるからな」
「そっかー」
「ま、コツコツ地道に、一軒一軒攻略やな」
その地道な作戦も、さらに1ヶ月ほどが経った頃に、ようやく実を結んだ。
「ついに『エンペラー』も潰れたか……」
オークボックスで2番目の大規模カジノが潰されたと言う報告を受け、トランプ翁は腕を組んでうなった。
「となると、次はいよいよウチに来るだろうな」
「ど、どうします?」
「このままじゃ、ウチも……」
怯える子分たちに、トランプ翁はフン、と鼻を鳴らした。
「アホタレ。この俺が、無策でのんきに茶ぁすすってると思ったか?
いいか、よくよく考えてみろ。何でどこでも、連勝できる? 普通に考えりゃ、おかしな話だろうが。向こうさんが何か、カラクリを持ってやがるんだ」
「まあ、そりゃ、そうですよね」
「でもそれが何なのか……」
「そこで、だ」
トランプ翁はパン、と手を叩く。
「こっちに来てくれ」
「はい」
部屋の扉を開け、6、7人が入ってきた。
「あれ?」
「あんた、『レインボー』の……」
「あ、それにそっちは、『スリップクロス』の支配人だった……」
入ってきたのは、これまでフォコたちに潰されたカジノの元支配人たちだった。
「親父、なんでこいつらを……?」
「こいつらは間近で、自分のカジノが潰される様子を見てた奴らだ。当然、どうやって潰されたかも、夢にまで見てたはずだ。そうだろ?」
「ええ、まあ……」
「本当に、仰る通りで」
一様にうなずく元支配人たちに、トランプ翁は質問を投げかけた。
「で、潰された時の話なんだが、誰にやられた?」
「兎獣人の、いかにも遊び人のような男でした」
「ウチは、えらくけたたましい、胡散臭いエルフの女に」
「ふむ……。じゃあちょっと分けるか。まず、兎獣人の方にやられたって奴、こっちに来てくれ」
「はい」
「何のギャンブルをしてた?」
「『エレメント』です」
と、それを聞いた、モールにやられた側の者たちが、「あれ?」と声を漏らした。
「ウチも『エレメント』でかっぱがれたぞ」
「そうだ、ウチもだ」
「ほーぉ」
これを聞いて、トランプ翁はニヤリと笑った。
「そりゃ面白い『偶然』だな。潰された奴みんな、『エレメント』でやられてるってのは」
「……じゃあまさか」
子分の一人が言いかけたところで、トランプ翁は手を振って制する。
「と、結論を出す前に、だ。もう一つ、聞いておきてえことがある。
胡散臭い方は必ず1人、単騎でやって来た。兎獣人の方は必ず『狐』と『狼』との3人一組、一度も欠けることも、4人一緒に来ることも無し、……で間違いないか?」
この問いにも、元支配人たちはうなずいた。
「そう、……ですね」
「確かにウチに来たのは、3人でした」
「打ってる間、トイレに行ったりとか、離れたことは?」
「……無かったと思います」
「ずっと、3人一組だったってことだな。ま、それは用心棒だからってこともあるが、他にも理由があるのかも分からん。
その『狐』と『狼』、乱闘になった時、兎獣人を守ってたと思うが、得物はなんだった?」
「えーと……。『狼』の方は剣を使ってました。『狐』の方は、魔術で」
「魔術、か。となると、そいつは魔術師なわけだ。賢者とか抜かした方も恐らく、使ってたろ?」
「ええ」
「……ヒッヒッ、見えて来たな、カラクリがよ」
トランプ翁はまた、ニヤリと笑った。
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カジノ荒らしの傾向と対策。
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「しかし、何だね。……金の海って表現が一番似合うよ、これは」
カントはそう言って、目の前の光景を笑った。
この2ヶ月でオークボックス中の小・中規模のカジノを荒らし回り、手に入れた金は30億クラム近くに上っていた。
そしてその、稼いだ30億はすべて、フォコたちが借りた――いや、一ヶ月前に買い取った宿中に、燦然と積まれていた。
「でもやっぱり不思議だね。こんなにあっちこっち金があふれてると言うのに、賊の一人も入らないなんてのは」
「私の魔術のおかげだね。ほんのわずかちょっと、この宿は他の奴に見えないようにしてるからねぇ」
「そのおかげで、闇討ちもされずに済んどるわけですな。ホンマにありがたい術ですわ」
「へっへーん」
胸を張るモールの横で、ランニャがぴょこ、と手を挙げた。
「でさ、もう細かいカジノは粗方潰したけど、本丸はいつ攻めるのさ?」
「そうですな……。もうそろそろ、狙ってもええ頃合いかも知れませんな」
と言いつつ、フォコは街の地図の、「ゴールドパレス」ではない別のカジノを指差した。
「次はここと、ここ行きましょ」
「えぇー? 本丸って言ったじゃないか、あたし」
「そろそろ、て言うただけやで。まだまだ、勝負するには金が足りひんからな」
「30億でも? ……まあ、全額賭けて勝っても、いいとこ2倍の60億か、3倍の90億にしかならないもんな」
「それに、それだけやない」
フォコは街の地図をぐるりと、指でなぞる。
「首尾よく仕留めても、他が残ってたら同じことや。結局残ったところが居座って、街と人を食い潰していくんやからな。
そうさせへんように、既存のカジノは一軒残らず潰す。これから造ろうかなとしとる奴にも、『タダでは済まへんぞ』と見せしめにする。
ここにカジノなり飲み屋なり、歓楽街がずらーっと並んどる限り、クラフトランドの職人は骨抜きにされっ放しになるからな」
「そっかー」
「ま、コツコツ地道に、一軒一軒攻略やな」
その地道な作戦も、さらに1ヶ月ほどが経った頃に、ようやく実を結んだ。
「ついに『エンペラー』も潰れたか……」
オークボックスで2番目の大規模カジノが潰されたと言う報告を受け、トランプ翁は腕を組んでうなった。
「となると、次はいよいよウチに来るだろうな」
「ど、どうします?」
「このままじゃ、ウチも……」
怯える子分たちに、トランプ翁はフン、と鼻を鳴らした。
「アホタレ。この俺が、無策でのんきに茶ぁすすってると思ったか?
いいか、よくよく考えてみろ。何でどこでも、連勝できる? 普通に考えりゃ、おかしな話だろうが。向こうさんが何か、カラクリを持ってやがるんだ」
「まあ、そりゃ、そうですよね」
「でもそれが何なのか……」
「そこで、だ」
トランプ翁はパン、と手を叩く。
「こっちに来てくれ」
「はい」
部屋の扉を開け、6、7人が入ってきた。
「あれ?」
「あんた、『レインボー』の……」
「あ、それにそっちは、『スリップクロス』の支配人だった……」
入ってきたのは、これまでフォコたちに潰されたカジノの元支配人たちだった。
「親父、なんでこいつらを……?」
「こいつらは間近で、自分のカジノが潰される様子を見てた奴らだ。当然、どうやって潰されたかも、夢にまで見てたはずだ。そうだろ?」
「ええ、まあ……」
「本当に、仰る通りで」
一様にうなずく元支配人たちに、トランプ翁は質問を投げかけた。
「で、潰された時の話なんだが、誰にやられた?」
「兎獣人の、いかにも遊び人のような男でした」
「ウチは、えらくけたたましい、胡散臭いエルフの女に」
「ふむ……。じゃあちょっと分けるか。まず、兎獣人の方にやられたって奴、こっちに来てくれ」
「はい」
「何のギャンブルをしてた?」
「『エレメント』です」
と、それを聞いた、モールにやられた側の者たちが、「あれ?」と声を漏らした。
「ウチも『エレメント』でかっぱがれたぞ」
「そうだ、ウチもだ」
「ほーぉ」
これを聞いて、トランプ翁はニヤリと笑った。
「そりゃ面白い『偶然』だな。潰された奴みんな、『エレメント』でやられてるってのは」
「……じゃあまさか」
子分の一人が言いかけたところで、トランプ翁は手を振って制する。
「と、結論を出す前に、だ。もう一つ、聞いておきてえことがある。
胡散臭い方は必ず1人、単騎でやって来た。兎獣人の方は必ず『狐』と『狼』との3人一組、一度も欠けることも、4人一緒に来ることも無し、……で間違いないか?」
この問いにも、元支配人たちはうなずいた。
「そう、……ですね」
「確かにウチに来たのは、3人でした」
「打ってる間、トイレに行ったりとか、離れたことは?」
「……無かったと思います」
「ずっと、3人一組だったってことだな。ま、それは用心棒だからってこともあるが、他にも理由があるのかも分からん。
その『狐』と『狼』、乱闘になった時、兎獣人を守ってたと思うが、得物はなんだった?」
「えーと……。『狼』の方は剣を使ってました。『狐』の方は、魔術で」
「魔術、か。となると、そいつは魔術師なわけだ。賢者とか抜かした方も恐らく、使ってたろ?」
「ええ」
「……ヒッヒッ、見えて来たな、カラクリがよ」
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